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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
四日目 十二対十二

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A0406 十三対十一 暇乞い

「シュリーとかわにゃんはどうしてるん?」

「……誰だ? ミッシェル・ポルナレフか?」

「それはシェリーですよ」


 『シェリーに口付け』は二万年以上後のフランス人歌手ミッシェル・ポルナレフの代表曲である。

 発表から五十年経っても人気は衰えず、テレビCMなどで耳にすることも多い。


 なお、シェリーはフランス語で『愛する人』を意味する。ベイビー、ダーリン、愛しいしとなどと同義であった。


「見坊朱里と川魚(かわな)薙だけどォ〜、知らないなんて言わないよねェ〜?」


 『警戒』という単語を辞書に持たない後虎(アトラ)はともかく、モアと長月の警戒心が解けない理由はそれだった。

 こいつらが『帰還待ち組』の仲間ならば、二人がどうなったかを知っているはずである。


「あ……朱里、お姉、さん……!」

「つっても、管金(すがね)が初日に会っただけだろ? …………いや待て」


 小野が少し考え込む。三人の女はにこやかに話しているように見えても警戒心を解かない。

 ただし、その警戒は自分たちではなく周辺に向いているようであるが。


「川魚ってのは、学ランの高校生だな? 【武器】はロープ」

「知ってんじゃん」

「自傷癖は?」


 長月がモアを見た。膨らむ殺気に反応して。

 モアは一歩下がっていた。身体を半身にし、右手を下げていた。この先の言葉次第では、この三人の身体に聞く。それが見て取れた。


「クソがッ」


 小野が怒りを剥き出しにして地団駄を踏んだ。すぐに顔を上げて後虎たちを睨む、その怒りがどこに向いているのか、モアはすぐに理解した。

 よく知る感情。モアにとっては親の顔より見た感情。


 自分への怒り。


「宍戸の野郎、ふざけやがって……精神的に不安定で自主的に動きはしないが命令を聞くだと!?

 つまり、朱里って女は人質にされているか最悪死んでる。しくじった。棒手裏剣置いてきちまった!」


 朱里による居場所センサー代わりの棒手裏剣。堀が持っているはずだ。今朝確認した時はまだあった。

 なくなっていたら、朱里は死んだということだ。


 モアは自分の表情が失われるのを感じた。モアは朱里の事を好きではない。

 命令ばっかりで面倒くさいとすら思っている。


 しかし二日目の夜、鶴来(つるぎ)と長良を失った姿は見ていられなかった。

 そして、モアたちが『帰還待ち組』を紹介してしまったのだ。朱里がどんな目に合っているのか、想像に易い。


 モアのせいで。

 

「協力しないか?」

「なんでェ〜?」


「朱里は助ける。あたしたちは張井(ハリー)とクリスも助けたい。『奴ら』はここに女を集めて一網打尽にするつもりだ。

 あたしらが相争っている所を側面攻撃するのか、大型の罠でもあるのか、無力化できる【武器】があるのか」


 後虎が小首を傾げる。『奴ら』が誰なのか理解していないのだ。

 つまり、『要塞』の男どもと元『帰還待ち組』。堀以外の全員。


「しかし、クリスという人は知らないぞ?」

「敵を探して尋問する。奴らはあたしら『六人』を奴隷にでもするつもりだ。恐らく張井はネアンデルタール人を人質にされたら逆らえない」


 長月が頷いた。彼は『要塞』の中で唯一、原人たちに友好的だった。彼らに義務感を抱いていると言い換えてもいい。


 女を穴としてしか見ていない連中なんてごまんといる。クソみたいな馬鹿ばかりだ。男なんて大体そうだ。

 昨晩から向けられてきた好色の視線。さっさとブチ殺せば良かった……。


 待て、モアは『そうではない』男の事を思い出して総毛立った。


「ね、ねェ〜、先に仲間と合流していィ〜?」

「孤立してんだな? マズいかもな、ならまずそいつだ。場所は?」

「大体ならァ〜」


 堀の巡回ルートを、モアは把握していた。一刻も早く駆けつけなければ。

 流石の堀でも、数を頼りにされてはどうなるか分からない。


「モアたちは堀の所に行くんだな? では私はここでお(いとま)させていただく」


 長月が一歩引く、彼女との付き合いは長くない。だがなんとなく一緒に来る気がしていた。

 しかし、考える必要もない。危険に飛び込むべきではない。長月のような子供に欲情するド変態が居ないことを祈るだけだ。


「えー? 寂しーじゃん?」

「私は足も遅いし戦闘能力も低い。勢いで君たちに付いて行く危険よりも、ここは安全地帯から高みの見物をして勝ち馬に乗りたいんだ」

「マジかー」


 頭を掻く後虎、モアは内心で苦笑した。アトやんはそうだよね。

 小野も苦笑を禁じ得ず、テッサは心配そうな表情。


「私たちの優先順位は、仲間、張井さん、クリスさんです。集合場所は洞窟」

「…………すまんな」

「先に行くよォ〜」


 最後まで聞かずに、モアは走り出した。色々と思うことはあるが、恐ろしいこと全てを飲み込んで、考えないようにして。


 長月に与えた情報は流しても問題のない情報だ。というか、考える頭が少しでもあれば疑うだろう程度の情報だ。

 相手が馬鹿なら素直に信じるかもしれない。しかし、馬鹿ならどうにでもなるので何を伝えても問題ない。


 少しでも物が考えられるなら、敵に知られた情報の通りに動くなんて思わないだろう。

 相手を惑わすだけの無意味な情報である。


 走りながらモアは考える。


 それよりも、長月が教えてくれた一番大事なことは別だ。

 彼我の人数差は倍近いかもしれない。しかし、本当のところは分からないのだ。


 こんな馬鹿げた戦いに、何人が望んで参加する?

 中立に持ち込める相手とは、戦わずに済むかもしれない。




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