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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
四日目 十二対十二

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S0406 『洞窟』の編成

 太陽が真上に到達した頃。原始の苛烈な陽光と叩きつけるような草いきれとは無縁の洞窟内に、続々と【狩人】が集まりつつあった。


 洞窟にてネアンデルタールを【敵】に改造していた【(かんなぎ)】を倒してからはや一日。

 全滅寸前だった管金(すがね)たちの傷は大方が癒えていた。


 しかし、四日目の朝方に倒れた管金は未だに高熱を出していた。譫言(うわごと)は止まらず、うめき声が洞窟内にこだまする。

 看病を四人のネアンデルタールに任せ、笛吹(うすい)は元『帰還待ち組』と情報のすり合わせを行っていた。


 管金の仲間は四人。

 腸を損傷していた石見(いわみ)だが、すでに普通に動き回れる程まで回復していた。【義体】様々といった所。


 両手が傷だらけだったテッサも元気なもので、精神的に参っていた笛吹も、話し相手ができたお陰が声に張りがあった。

 そして管金同様に高熱を出していた小野だが、昼過ぎに目を覚ましていた。


 洞窟内に居るのはマキシワンピの人妻、神崎。金髪ピアスでファイアパターンの入れ墨を入れたチャラ男、染田(しみた)。真っ赤な頭の大男、寅木屋(とらきや)の三人。

 他の【狩人】たちとはまだ連絡を取っていない。


「だいたい分かった」


 寝ぼけ眼を擦りながら、ボロボロのタンクトップが素材のブラと、ゆるいパンツだけという刺激的な姿の小野が頭を掻いた。

 動くたびにたぷたぷと揺れる巨大な乳房に、染田と寅木屋の目は釘付けだ。


「現在『要塞』を掌握してるのはあたしらの敵である三人組。あんたらは敵の敵。

 その上、向こうはあたしらの知り合いを捕虜にしていると」

「その上で、夜襲をかけたいので協力をできませんかというのが私達の提案よ」


 ここまでで、断る理由がない。

 勝手に三人を洞窟内に入れた笛吹とテッサへの叱責もなし。小野は困ったように髪をかき上げる。


「正直、背中を預けるんだから信頼は欲しいよな?」

「俺らは金で契約することで、ビジネスの関係を作ってる」


 答えた寅木屋。この三人は『帰還待ち組』に合流前からチームだったという。

 正直彼らを信用できるかは半々だが、金銭での契約がある以上しっかり働けばいいだけだ。


「正直、賢いぜその方法。人間的に信頼できなくても、金は信頼できるもんな。あたしの【情報】聞いてどう思った?」

「それがマジなら【望み】も叶って金も貰えて最高じゃん?」


 小野の【情報】、【望み】を叶える条件は、わずかな疑念で一蹴されかねない。

 なにせ、裏付けが取れない。小野が聞いたと言い張っているだけかもしれないからだ。


 しかし、金銭での契約を交わした元『帰還待ち組』からすれば、嘘でもトントン。

 チームで協力することに変化はない。

 

「いいぜ、手を組もう」

「条件とかはないの?」

「なら三つ」


 神崎に問われて、小野は指を三本立てた。多い。石見以外の全員が眉をひそめる。


「まず、協力関係は二人の救出まで。こちらは殺すためではなく助けるための行動だ。敵の殲滅(せんめつ)とかにゃ加担しねえ」

「そもそも、殺し合うのか?」

「馬鹿みたいな内輪揉めで無意味に死ぬのはどこの組も一緒よ」


 この場において、最もドライなのは神崎だ。殲滅と聞いても顔色一つ変えない。


「次、現世人類であるネアンデルタール人にゃ敬意を払う。つーか、無意味に殺したり奴隷扱いすんな」

「どーでもいいな」


 心底興味ないとばかりに頭の後ろで腕を組む染田。これは倫理観皆無の人間やシリアルキラーとは組めないという意思表示だ。良識のある人間には無関係である。


「最後に、あたしら三人はそこの『笛吹のオンナ』だ。手を出したいなら笛吹に勝ってからにするんだな」

「はァッッ!? お前どういうつもりだ!?」


 これに激烈に反応を示したのは他でもない笛吹本人である。

 とりあえずうんうんと頷く石見とテッサ。笛吹は耳まで赤くして唾を飛ばした。


「お前らも頷くんじゃない! 三人とも『管金のオンナ』の間違いだろ!」

「誰がだおまッ、ふざけんな!」


 今度は小野が茹でダコみたいに赤くなる番だった。後ろで二号三号が小野を指さしている。三人の想いは同じ。小野が正妻。


「なるほど、いい案ね。私も次なにか言われたら染田くんと寅木屋くんのオンナって事にするわ」

「え? 既婚者じゃねーの?」


 神崎の左手薬指に光る指輪。誰がどう見ても人妻の証明。結婚指輪である。


「これ付けてる方が喜ばれるのよ。あ、一応本当に既婚者なのよ? 旦那はヤクザの女とダムの底だけど」

「…………笑うところ?」

「笑ってくれなきゃ困るわ」


 かくて、宍戸たち元『帰還待ち組』が洞窟のメンバーと合流する。


 小野、石見、テッサ、笛吹。

 神崎、染田、寅木屋。


 そしてその他に五人。


 人を安心させる笑みを浮かべた穏やかな男、宍戸。

 生えてきてしまった剃髪(ていはつ)に髭面の生臭坊主、八角。

 ジャージ姿で隻腕の脂ぎった中年、門浦。

 身長だけでなく横幅もある力士のような大男、大上。


 そしてもう一人。


「あいつは大丈夫なのか?」

「少しメンタル的に辛いことがありましてね。しかし従順で、移動速度が速い。伝令や斥候にはなりますよ」


 心配気な小野の言葉に、合流した宍戸はにこやかに答えた。

 十二人目は学生服の少年だった。ひどく陰気で、常に怯えていて、そして何よりも。


「傷だらけだぞ?」

「自分でやっているんです、治る端から掻き(むし)ってしまう」


 少年の顔は傷だらけだった。爪で掻き潰したニキビが膿んで、赤黒く腫れて不快な汁が出ていた。

 黄色く(よど)んだ両目、死んだ魚のように生気に欠ける。


「…………」


 石見が前髪で隠した両目で少年を凝視する。失った。敗北した。奪われた。そんな(かお)

 抵抗する意志すら根こそぎにされて、自傷以外の自由のない少年。


 十二人目。川魚。



 『洞窟』と『要塞』。

 十二対十二の戦いが始まる。


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