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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
四日目 十二対十二

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S0404 興味津々

 小野と石見(いわみ)に木の実の重湯と果実の絞り露を飲ませても様態は変わらず、管金は眠れない夜を過ごした。

 翌朝にはテッサの手の傷は塞がり、管金の右腕も上がった。


 だが石見と小野は昏睡状態にあり、危険は続いた。

 ネアンデルタールたちは手伝いの四人を残して『要塞』に向かった。あちらがどんな状況なのか知りもせず。



 石見が起きたのはその日の午後である。昼食用に取ってきた鳥と木の実を潰して練ったパンの匂いで目をさましたのだ。


「顔色……悪い…………」


 【節電】ではなく【超治癒】状態で徹夜した管金は、ひどく憔悴(しょうすい)して見えた。


「腕…………痛い?」

「石見さぁん!」


 感極まってボロボロ泣きながら抱きすくめる管金。石見は目をしばたたかせて、その背中を優しく撫でた。


「…………小野さん、は?」


 小野の様態は安定しつつあった。熱は下がり、寝息も整ってきた。

 石見の腹は傷こそ塞がっているものの、内側がじくじくと染み出すように痛んだ。


 それでもパンと肉をしっかり食べて、石見は回復の兆しを見せていた。


「ご迷惑……おかけ、しました……」

「そう思うならしっかり食べてさっさと治すんだな」


 笛吹はぶっきらぼうに命令する。

 彼は手持ち無沙汰の時間、四人の原人と毛皮の加工をして過ごしていた。


 革から肉をこそぎ、あぶって乾燥させた。正しい加工が分からないから難解であったが、牛や鹿の革は洞窟内に何枚もストックがあった。

 最初に完成させたのはエプロンで、彼はそれをテッサに渡した。革紐を取り付けて、首と腰で固定できる本格的なエプロンだ。


「胸、透けてるぞ。羞恥心が無いのかオレたちを男と認識していないのかは知らんが見苦しい」

「ありがとうございます。じゃあこれで石見さんにスカート返せますね」

「尻が出るだろ馬鹿か? 見せたいのか? 下着を作るのは無理だぞ」


 文句を言いながらも腰巻きを作り始める笛吹に、石見は好感を持った。

 冷酷な人間として見て欲しいという考えと、実際の行動が真逆でかわいいとすら思えた。


 元気を取り戻しつつある石見の膝で眠ってしまった管金であるが、今度は彼が熱を出した。


「……傷は塞がっていますのに」

「毒でも盛られたか?」


 小野と並んで寝かせるも、異様な発熱と発汗。管金はひどくうなされた。

 石見は本調子ではなく、テッサのえぐれた手の傷は塞がっていたが、まだ作業が難しくある。


 そんな中で、テッサが冗談めかして言った。


「異性に身体を拭かれるのは恥ずかしいでしょう。笛吹さん、管金くんを拭いてもらえます?」

「が、がんばれ石見。彼女に拭いてもらう方が絶対に嬉しい」

「なら…………その…………小野さん、が……」


 うんうん唸る管金。押し付け合う石見と笛吹の前で、テッサはニコニコしながらぱんつを下ろした。


「あらあら、洗っていないから臭いますね」

「…………ごくり」

「う、うわぁ……」


 赤くなって顔を隠す笛吹。指の隙間からしっかりと凝視(ぎょうし)

 石見は前髪で見えないことをいいことにかぶりつくように見ている。


 管金が起きていたらなんと言っただろうか。しかし残念ながら彼は意識不明だ。

 小野が起きていたら? こちらは想像が難しい。喜んだか嫌悪したか。


「そ、外に食べ物でも取りに行ってくる」

「うふふ」


 興味津々の石見は、不審な挙動の笛吹に気付かない。自分にも付いているんだから何を恥ずかしがるのかなんて、考えもしない。

 逃げ出した笛吹は、火照った顔を隠すように外へ。裂け目から地上へはテッサの鎖で降りていた。


 管金用にも重湯が必要だろう。そう考えながら地上へ目を向ける笛吹。その脳内によぎる物についてはここではノーコメントとしておこう。


「うわ! マジで人がいやがる」

「む?」


 笛吹の意識がナニによってそぞろだったかはもう追求せずともよかろう。

 問題はそのせいで、無警戒に顔を出してしまったことであった。


 洞窟入口の下には、蹴り落とされた【敵】の死骸が転がっており、その側で、悪臭に閉口しながらアホ面下げた男が一人。


 ツーブロックの金髪、ピアスだらけの耳と、金のネックレス、明細柄の上着。誰の目にもチンピラ。


「おうアンタ、俺らの仲間になンねェ?」

「お断りだ……違う、話を聞かせてもらおう。悪いがここからで構わないか?」

「マジかよ、話わかンじゃん!」


 反射的に拒否したものの、チンピラは見た目と裏腹に友好的な態度だった。

 笛吹たちは怪我人と女ばかりなので警戒はいくらしてもし足りないことはない。だが、笛吹の顔を見るなり協力を申し込んで来たということは、誰でも仲間に誘うつもりだったということだ。


「まずは謝らせてもらう。思わず警戒してしまった」

「あン? たり前だろ? ニヤニヤ来られたら何か企んでるって考えるじゃん?」


 見た目ほどには馬鹿ではない。笛吹はこっそりと感心した。

 チンピラは笛吹に背を向けると、腰から何かを抜くような動作をした。粒子が炎のように揺らめき、三日月のような形の曲刀が召喚される。


「俺は染田(しみた)だ。【武器】は今見せた刀だから、射撃攻撃の心配はしなくていーぜ」

「オレは笛吹だ。アンタ馬鹿だな? オレを信用させるにしてもやり過ぎだ。射撃されたらどうする」

「避ける」


 即答する染田。笛吹は逆に感心した。

 オレはこういう単純で馬鹿に弱いのかもしれない。


「馬鹿だが面白い馬鹿だ。話を聞かせてくれ」

「俺たちは【ドラゴン】を狩るための仲間を集めてる」


 染田は不敵な笑みを浮かべて、我が事のように言ってのけた。


「成功報酬は二億円……一人頭でな!」


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