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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
一日目 原初の夜明け前

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A0104 宍戸

 鬱蒼とした森を抜けると、その先は岩場だった。ゴツゴツとした岩がむき出しになり、背の高い植物が少ない。代わりに背の低い花や草が散見された。

 太陽は上天を通り過ぎ、今が一番暑い時間。岩の少ない部分を選んで、二人の女が歩いて行く。


 着崩した制服、ライトブラウンとピンクに染められた髪、クロスを背負い疲れた顔の後虎(アトラ)と。

 真紅のバニースーツに『覇偉嵐蛇』と刺繍された特攻服、モアだ。


「テッペンどこ! ヤバさが段違い(ヤバち)疲れた(ナエ)勘弁して(ナエ)!」

「アッハ。アトやん、あっちあっちィ〜」


 ベタつくキャンディボイスでモアが指さしたのは、尾根一つ向こうの空。見たこと無いほど青く澄み渡る空を引き裂く白い線。

 いわゆる煙。


「火のない所に煙は立たずってヤツじゃん! 秒で(やる気が)湧いた! もっぴょんやるぅ!」

「火があって人がいても、それが良い事かは分かんないけどねェ〜」


 後虎の感情のジェットコースターも、全く関係のないことわざも華麗にスルー。二人は30分程かけて尾根を越えた。

 煙を立てているのは焚き火だった。囲むように五人の男性がたむろしている。


 獲物を見つけた猫のように、モアの目が残忍に光る。


「やっほ〜! 人だぁ! ちっすちっす!」


 だが、後虎は何も考えずに声を上げて駆け寄った。モアは一瞬呼び止めかけてやめた。

 あの男たちが敵対的ならば、後虎が囮になってくれるだろう。


「こんにちわ」


 立ち上がって返事をしたのは折り目のついたスラックスにワイシャツ、ノーネクタイの男、人を安心させるような微笑み。

 他の四人、僧服のハゲ頭。ドブネズミ色のスーツの男。上下ジャージの太り気味の男。怯えた雰囲気の学ラン。


「イエーイ! マジアガるじゃん、ここはベースキャンプ? カチコミの相談?」

「高校生だな、まあ座れ」


 ジャージの男が自分の隣を叩いた。後虎は無警戒に近寄り、別の岩に座る。

 モアはゆっくりと、間合いを測るように近付き、五人の力関係を見定める。

 最初に立った男が、焚き火に最も近い。あいつがこの一同のホストだ。その近くに座るのがスーツ男。モアの野生動物的な感覚では、危険度はこいつが一二を争う。


 同レベルに危険なのは僧衣のハゲだ。少し離れた場所でリラックスしている様に見えるが。誰にも気を許していない。

 残り二人はモアにとってはつまらない相手だ。それなら後虎の方がまだマシだ。


「あざーす、もっぴょんも来なよ〜!」

「調子乗りすぎィ〜、足場が悪いのォ〜」


 砕けた小石を避けてわざと遠回りに、モアは歩いていた。ハゲの側から一同を見る位置。

 その間に後虎はリーダー格の男の正面に陣取っていた。


「お水はいかがですか?」

「え? いいの? あざーす!」


 差し出されたペットボトル、何が入っているな分かったものではないそれを、後虎は躊躇(ちゅうちょ)なく受け取ってゴクゴク飲んだ。


「私は宍戸(ししど)。ここで仲間を募っている所です」

「【ドラゴン】退治のパーティ?」

「いいえ」


 全く緊張感なく、リーダー格の男宍戸は否定した。【ドラゴン】を殺すためではなく、別の目的。

 モアは舌なめずりした。面白くなりそうだ。


「生き残り、元の場所に戻る仲間です」

「|何言ってんのかちょっと分からんね(マ)…………??」


 話すのは宍戸の役だと決まっているようだった。他の四人は動かないし口も出さない。

 モアは全員が見える場所で足を止めた。僧衣のハゲのすぐ近く。


「素晴らしく刺激的ですなあ。拙僧、行儀よく座っているのが難しくなりそうですわい」

「やだァ〜、キッモォ〜い」


「少しお時間を頂いても?」

「いいよ、もっぴょんもいいよね?」

「はァ〜? マジメンドくさいんですけどォ〜?」

「いいって」


 誰も良いとは言っていない。


「まず、私は見返りを求めません。提供可能な食料や水、情報は無償です。

 これは取引ではありません。話の途中で退席されても構いませんし、仲間になる必要もありません」


 胡散臭いな。これは詐欺師のやり口だとモアには分かった。聞かないのが一番だ。無償とか、提供とかで借りを作り、精神的に断りにくくするやり口だ。


「食べ物もあんの? そーいえばお腹すいたねー」

「先程仕留めたウサギがあります。塩も何も無い焼いただけの肉になりますが」

「え? いいの? 宍戸さん気前良すぎ(ヤバイ)最高(ヤバイ)!」


 後虎並みに厚顔ならば問題あるまい。彼女はすでに水も飲んでいた。今更毒を盛られる心配も必要ないだろう。


「あやしすぎィ〜」

「仲間になるにしても、ならないにしても私にメリットしかないからです」


 先程から、宍戸は自分たちを複数形ではなく『私』としか呼ばない。彼らは仲間ではないのだ。


「しかしまず前提として、ここがどこなのかを説明します。

 山頂から確認した所、地平線まで人工物は見えませんでした。ここは我々の知る日本ではありません」


それもしかして(そマ)異世界転生!?」

「異世界なのか、遠い過去か未来か、あるいはどこかの自然保護区なのかまでは見当も付きません。

 しかし、今まで私たちが暮らしていた場所とは遠く離れているのは確かです。あなたにも帰る場所があると思います」


「あ、さっきのくまさんデカかったね。5メートルくらい?」

「いいとこ3メートルでしたけどォ〜?」


 宍戸は不思議そうに後虎とモアを見比べた。当たり前のことを言ったつもりなのだろう。

 実はモアもまた不思議だった。普通の女子高生に見える後虎の、見え隠れする異常性。そこに『帰ることへの興味の皆無』が追加された。


「帰りたくはないのですか?」

「願いを叶えなきゃ帰る意味ないじゃん。あーしは【ドラゴン】殺して願いを叶えるよ」


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