S0401 応援要請
ちゃんと仲間と相談しろと笛吹に叱られた管金は、彼を広間に残して仲間達の下に戻った。
「うわぁ、小野さんが死んでる!」
「……寝てんだよ」
笛吹のことについて、反応は薄かった。なにしろ小野と石見は手ひどく負傷していたし、そもそも話をしたことすらない相手だ。
「管金さんが信用できるというなら、私は構いません」
比較的傷の浅いテッサはそんな風だった。
小野が呼吸すら辛そうにため息をつく。
「……管金、お前も限界だろ?」
「そ、そんなことないよ?」
「おっぱい揉んでいいから……正直に言え」
「……ぐ」
小野の交渉術は巧みであったが、管金は見事に男子としての欲望を調伏してのけた。
「元気いっぱいです」
「私、のも…………どう……?」
不意打ちの十字砲火に、管金はぎょっとして振り返った。
だがその石見の顔色と、紫のひび割れた唇。どす黒いスカーフに正気を取り戻す。
「バカなこと言ってると本気で揉むよ……で、もしおれがもう無理ならどうなのさ?」
「……笛吹くんとやらに頼らねーと何もできんだろ」
小野の視線は石見を向いていた。石見も限界近いが、悪臭ただよう血のぬかるみの中で睡ってしまう小野も相当だ。
管金は右腕が上がらない事を伝えていない。
無駄な心配をさせたくなかった。最初はそれを気付かれたのかもと思ったが、違うなら隠し通すつもりだ。
幸運にも、小野も石見も顔すら向けない。テッサは物言いたげに、だが黙ってくれていた。
「じゃあおれ、笛吹と狩りに行くよ」
「……その、右手で…………?」
ぎくりと動きを止める管金、石見はいつから、どうやって気付いたのだ?
テッサも弾かれたように管金の右腕を見る。小野は苦しげに顔を傾けた。
「笛吹くんを呼んで来い」
笛吹は呼び出しに快く応じた。
管金は彼にまだ心変わりの理由を聞いていない。だが、何度も話すのは面倒だろうと考えていた。
「ひどい状態だな」
ばらまかれたままの【敵】の死体、重傷の石見と小野。そして篝火から立ち昇る甘い悪臭に笛吹は閉口した。
「オレは可能なら一秒でも早くここを離れたいね。一酸化炭素中毒になりそうだ」
換気のなされていない洞窟の中だ。酸欠の心配もあった。
笛吹は年頃の男子らしくなく、大変刺激的な小野たちの格好に興味を示さない。
「まず動くか、それとも話すか?」
「話だ……まずは、自分の立場ってのを、再確認してくれ」
小野が目を閉じたまま、苦しそうに口を開いた。
ぶっきらぼうな言い方に、笛吹が目を細める。
「見ての通り、あたしらは全滅寸前だ。あんたの立場は……選ぶ側。助けてくれるなら、お願いしたい」
浅い呼吸。喋ることすら苦痛を伴うのだ。
小野が咳き込み、のたうった。実は普段通りの話し方なのだが、笛吹は好意的に解釈した様子だった。
「対価が、欲しいなら……提示してくれ」
「話し相手と安心した睡眠だな」
笛吹は管金を見た。何か言いたそうな目つき。
テッサが心配そうに管金を見る。
「バカはヤだってさ!」
「話の分かる馬鹿は嫌いじゃない。だが正直、管金は体を動かす方が向いているだろう?」
小野が薄く笑う。石見も微笑んだ。管金自身は小首を傾げる。
え? 手放しで褒め殺し中?
「【幹部級】を死者なく倒したあんた達に、オレは敬意を持っている。死なせたくはない」
笛吹は姿勢を正した。真面目な顔をすると整った容姿が際立つ。
「【ラストイル】からの【情報】で、オレは【ドラゴン】の居場所を感知できる。
同時に、強い力を持つ【敵】【幹部級】も。
ここに辿り着いたのもその【情報】の力だ。問題は【ドラゴン】と【【幹部級】の見分けがつかない所だな」
管金たちは、【幹部級】の存在を知らなかった。いや、【巫】は異様にタフだったが、強敵は【奴隷戦士】の方だったし。
「【幹部級】と【ドラゴン】は合計六匹。山に三匹、ここに一匹、草原側に二匹。
山の三匹はすでにいない。内一匹は……」
笛吹が話しの最中で口を閉じた。わざわざ言う必要はない。
「偶然倒す場に居合わせた。二対一で、相打ちだった……」
居合わせた。
笛吹は自分の言葉にひとり頷いた。そうだ。あれは笛吹の手柄じゃない。鶴来と長良。二人の戦士の手柄だ。
「【幹部級】の相手ですら、チームを組んでも厳しいのに、ひとりで【ドラゴン】は殺せまい。それと……」
「……信じ、ます…………だから」
石見が蚊の鳴くような声で囁いた。
これまた普段通りだが、笛吹は負傷のせいだと勘違いしただろう。
「あまり…………自分を、責め……ないで」
「!」
石見には笛吹が、罰を求めているように見えた。
その二人を助けられなかったと、責任を感じているのだ。
「ひとつ、質問があります」
白髪の房をいじりながらテッサ。笛吹は頷く。
「【敵】の感知は、どの程度の精度でしょう。
射程は? 【幹部級】以上でないと探知できないのですか?」
「大体の距離と方角がわかる。ただし近くないと【幹部級】以外は曖昧だ。近くても【ザコ】の数を特定するのは難しい……ちなみに、おそらくこの洞窟内にはもういない。外から来た場合は近付いてきたら分かる」
欲しい答えにテッサが頷く。【敵】がいないなら、安心して休める。
だが、いるのが【敵】だけとは限らない。
「じゃあまず、捕まってる人達を解放する?」
「……なんだと?」
管金はたどたどしく張井と『要塞』、ネアンデルタールの説明をした。
笛吹は釈然としない様子で頷く。
「ならば、まずはそいつらを解放して、怪我人を楽にできる場所に移動だな」
「貯蓄食料があると嬉しいですね」




