9そしてこうなった。
あれ?どうしてこうなった?
「彼との関係が修復できたの」と同僚の女は言った。
そして「今まで相談にのってくれてありがとう。 これからは彼とのこともあるし、、あまり食事とか会ったりしない方がイイかな~」などと勝手なことを言う。
俺に気があったんじゃないのか? と叫びたかったが、グッとこらえ「そう、よかったね」とイイ人ぶる。
男はひとり、孤独に家に帰るでもなく、フラフラ歩きながらこれまでのことを思う。
最近彼と上手くいってないと相談してきた同僚に、親身に相談にのっていた、、その彼というのが、インドアな奴でデートの時もだらしない恰好だし、デートプランを持ちかけるのは彼女の方ばかりだし、電話もメールも最初のアクションは彼女の方で、そんなのが続くとホントに好かれてるのか不安になるとか、、そう言った内容だった。
そういえば、さゆりもデートの時はいつもほぼ同じ格好で、スカートとかはいてるのは見たこともないし、デートプランも、メールとかも・・・ あれ?俺も好かれてないのでは?
相談にのってるうちそんなことを考えるようになっていった。
そんな2人は急速に仲良くなっていった。
そして同僚のことを、好きになってしまっていたのだ。
付き合うなら、ちゃんと別れた方がいいだろう そうして行動にでた。「大事な話がある」と電話でいつもの喫茶店に誘った。さゆりも最近の素っ気ない俺の態度で、何となく察しているはずだ。
その日、何か分からないけど、さゆりはいつもよりきれいでオシャレな感じにきまっていた。
その姿を見て、別れるのを躊躇したほどだった。 いや今にして思えば踏みとどまればよかったのだが、、
そんなおり、「これは運命か?!」 さゆりが目の前にいた。
***
最近、イチローのことがやけに気になっている。 さゆりにはそれがどうしてなのかさっぱりわからなかった。 イチローは弟の樹の先輩にあたる人だ。 あの出会った日以来、あの冴えないおっさんのことがやけに気になってしまっているのだ。
確かに、一緒にゲームをしたのは楽しかった。 でもそれだけだ。これは恋なのだろうか?とも考えたが、どう考えても好きとかじゃない気がしたし、何よりイチローはイイ歳で、大分年上だ。 もうすぐお爺ちゃんと言ってもいいくらい・・・言い過ぎか・・・でも実際十数歳年上だし。
あの日、イチローが見てたアニメも一気に見てしまっていた。
他にも樹にさりげなくおすすめアニメについて聞いたりしたら、「これとか面白いよ。 イチローさんとかも面白いといってるし」 と樹が言ったアニメは、いの一番にチェックした。 転生したらスライムとなってたアニメ。 確かに面白かった。
イチローと、そういったアニメの話とかできたらいいな。 と思うようになっていた。
ある日の朝。 樹が母親に「今日晩御飯いらないから」と言ってるのを聞いた。
「樹、今日は会社帰りに食事会でもあるの?」
「食事会ってもんじゃないけど、 イチローさんと映画を観に行くんだ。 で、映画終わりに飯食って解散!みたいな」
「ふ~ん、何観に行くの?」
「例のアニメの劇場版、あ、もう会社行かなきゃ」
さゆりも「一緒に行きたい!」と言いたかった・・・が、言えなかった。
「くそ、いらいらするぜ!」
***
職場でもイライラが止まらない。
休憩時間に映画の上映時間をチェックする。「多分これだろうな~」と当たりをつけたが・・・どうするべきか?
今日一日、仕事が手につかなかった。 こんなことが今後続くのも困るし、ここは思い切って行動に移す必要がある。 と自分を奮い立たせた。
そう、これは必要なことなのだ。
***
仕事も終わり、フラフラとウィンドショッピングして時間を潰す。 そして上映の終了時間の少し前に映画館の前に待機。
緊張する、あくまでここで偶然出会ったのを自然に装うのだ。 深呼吸して心を落ち着かしていた時。
「さゆり!」と誰かに声を掛けられた。 そっちに視線を移したら見たことのある顔が・・・誰だっけ?・・・
思い出した。 私をふった元カレだ。
「偶然だね、元気にしてた」とさらに言ってくる。 今更何言ってんだ、こっちは今それどころではないのだ。こいつ邪魔だな、どっか行って欲しいと思いながら「何の用? できればもう声とか掛けて欲しくないんだけど」と辛辣な言葉を投げかけていた。
「謝りたいんだ、、そしてやり直したい。 話をしないか」
「謝らなくていいし、やり直さない。 だから話もしない」
心の中で早くどこかへ行け!と思っていたが、全然動こうとしない・・・やばい、もう映画終わってるんじゃないのか?と腕時計を見る。
とその時、「さゆり、頼む、俺が悪かった」と言いながらさゆりに近づき、手を伸ばしてきた。
「わぁ!」 とびっくりして手を払いのけた。
「話をさせてくれ、あの日のさゆりはとてもキレイだった。」
そう言うと、さゆりの肩を掴んだ。
「やめろ!」「触れるな!」と何度か叫び、離れようとするがしっかり肩を掴まれ離れられない・・・何かコイツ、怖い・・・ 体が硬直する。
ふいに背後から別の手が伸びてきて、彼の手を掴み取り、さゆりの体を引き寄せた。
「さゆりさん、大丈夫ですか?」 と引き寄せた人物が聞いてくる。 イチローだ。 左手でさゆりを引き寄せて、右手は元カレの手を引き離してくれたのだ。
「誰ですあなた? これは私と彼女の問題なので他人は引っ込んでてくれますか」
「そうかも知れないですが、周りを見てください。 皆立ち止まりこちらに注目してますよ。どう見てもただ事じゃなさそうだし、彼女とは知り合いなのでほっとけません」
元カレは周りを見回す。通行人が立ち止まりこちらを見ていることに気づき、少しおろおろした感じになる。
そして、バツが悪そうにこの場を離れて行った。
「さゆりさん、大丈夫でした?」 イチローと目が合う。 ち・近い・・・ 咄嗟に離れる
ヤバイ!ドキドキが止まらない。 「大丈夫です。ありがとうございます」
「イチロ~さーん!」
樹が駆け寄ってきた。
「いきなり走り出すからビックリしたよ・・・あれ?姉さん こんなところでもめてたの姉さんだったのか・・・ 何でここにいるの?」
「え~っとね、そう偶然、偶然ここにいたのよ」
咄嗟にそう言ったが、、あれ?違うそんなんじゃなかった・・・ちゃんとシミュレーションしてたのに、、忘れてしまっている。
「五条さー、今日はここで解散しよう。 お姉さんと一緒に帰ってあげなよ」
「え~、・・・しょうがないか・・・」
「じゃあ五条、さゆりさん おやすみなさい」 と言い残し、イチローは行ってしまった。
「で、姉さん! 何でここにいるの?」と再び聞かれる。
「え~っと・・・ 偶然としか・・・」
***
家に帰り、自分の部屋に引きこもった。 まだ少しドキドキしてる。 もうこれは疑いようもない事実と受け入れよう。
「私はイチローに恋をしている!」
のんびり書いていこうと思います。 感想などよろしくお願いいたします。