氷点下
「千里はこのスタンプを持っているため、プレゼントすることができません」
この文章を見るのは今日で何度目だろうか。相手から返信が来なくなって早3日目。大体2日目くらいで察して覚悟はしていたが、現実を目の前にすると精神的ダメージはやっぱりあった。
「んだよ!あいつもこいつもどいつも!!」
暗くなった部屋で俺は一人スマホを投げる。スマホが壁に当たり、パキっと鈍い嫌な音がした。
有宮千里ツイッターで出会った大学生の女。なんとかラインを交換をし、他愛のない話をしていたが、結局ブロックされた。
俺と交換する女はいつもこうだ。なんなん?あれか?一週間俺と話してると死ぬ呪いでもあるんか?
きっとそうだよ。はっはっは。。。
何か理由付けをしないと受け入れられなかった。答えなんか知らない。知るもんか。
すごくすごくむかつく。
暗い部屋を出て、冷蔵庫のあるキッチンへ行く。酒。
冷蔵庫には卵と、うどん。牛乳などしか入っていなかった。
「こんな時に酒切れかよ。ほんっとついてねーな」
誰もいない部屋で、ただ自分の声だけが反響する。
大きくため息をつき、財布を持って、コンビニに向かった。
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車を使う気もない。外はもう暗かったが、俺は歩いてコンビニに向かう。
昼は夏祭りでうるさい街が、夜は森のように静かだった。時々涼しい風が俺の髪を撫でる。
月はあんなに輝いてるのに、俺はあの月を眺めることはできなかった。
街頭から、店の明るさに立ち眩みながら、店内に入る。
もう深夜の2時。さすがに他に客はいなかった。
俺は、いつもの梅酒をとり、つまみにウインナーを手に取る。
そういえば、と。朝の食事がないことを思い出し、適当に弁当を手に取った。
とにかく脂が食いたい。うまいもん食って忘れたい。食って食って、嫌なことを。
そしていつも食いすぎて気持ち悪くなって吐いてしまう。俺の悪い癖だ。食べ物はトイレに流せるくせに、思い出は流せない。記憶はいつまでも、トラウマはずっと前から消えないでいた。
手に取った商品を持ち、レジへ。
レジには、ポニテをした若い女がいた。
女は、商品のコードを通していく。
3322円 と 画面に、値段が表示される。あーまじで恋愛数値、頭の上に表示されないかな。
帰って弁当食って寝よう。寝るのが、最大の記憶消去や。
「お弁当温めますか?」
「俺との恋温めてください」
「え?」
「え?」
店員の表情が固まった。俺の心臓も止まった気がした。
あ。あああああああああああああ!!!!!何言ってんだ俺は!!!!!
「あ、いや。すみません。大丈夫です」
俺は財布を取り出し、諭吉を突っ込み、おつりを取り、逃げるように店を出た。
ああああああああああああ!!!
あっはははははははっははははは。終わった。人生終わった。終わったよ。もう死にたいよ。
彼女いない歴年齢。どんなにアプローチしても、合コンに行っても、出会い系サイトしても、
誰とも出会えなかった。そんな俺がセクハラで人生終了か。あはははは。はははは。
今頃ツイッターで拡散されて。。ラインの友達に拡散されて。
もうあのコンビニ行けない。なんだこれ。俺の人生なんだったんだ。なんなんだ。
、月は雲に隠れ 街頭だけが俺を照らしていた。
力ない足取りで家に帰る。袋から買ってきた酒を取り出し、勢いよくのどに流し込む。
あーあ……。うまい。。
嫌なことも、何もかも。この時だけは忘れられる。ああ。ああ。。あああああ。。。
訳なかった。大好きだった酒の味はまずく感じ、すぐにトイレで吐いた。
大好きだった酒も、食べ物のおいしさも感じられない。
ははは。
その日の夜は一睡もできなかった。
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救いだった睡眠もできないまま。鳥が鳴いている。閉め切ってるカーテンから光が漏れ出している。
今の俺には不快で仕方がなかった。
俺ってこんなに脆かったんだな。
大学を中退して昼は特に何もしていない。
金はバイトしてなんとか食いつないでる。あれ、バイト先。
もう一つ嫌なことを思い出した。
そうだ。あの場所は俺のバイト先だ。昨日は記憶が曖昧過ぎて、というか、ラインをブロックされたことがショックすぎてバイト先の存在すら忘れていた。
予定表のカレンダーを見ると、21時から、シフトが入っていた。
「今日バイトの日じゃん……」
超絶行きたくない。だが、行かなければ食べれなくなってくる。仕方なく俺は準備をする。
あの店員の女は見たことなかった。新しい人か。今日シフトじゃないことを願おう。ほら。昨日
夜居たし、今日は休みだよね。そうだ。きっとそうだよ。
「昨日から、入ってもらった水野せなさんだ。なかよくやってくれ」
店長から紹介があった。
「よろしくお願いします」せなという女は、俺に笑顔を向け、頭を下げる。
園部あき。です。よろしく……。我ながら、何かが違う気がした。
彼女との出会いは最悪で、夏の暑い日々の中で凍り付くほど氷点下だった。