第95話 作戦会議
天正7年(1579年)3月 上総国 天羽郡 湊城
「……やはり、上杉景虎殿は保たなかったか」
「はい。父上。武田領の信濃経由で小田原に逃れようとしたようですが、途中の鮫ヶ尾城で雪解けを待つ間に城主の堀江宗親の裏切りに遭い、奥方様、お子様ともども自刃なさった由にございます」
「……北条は、どのように動く?」
「小田原経由で得た話では、氏政殿は大変お怒りの様子。『武田と断交する』と息巻いているそうにございます」
「……武田勝頼などを信じるから悪いのじゃ。北条氏政殿も勉強になったであろう」
「義弘様。あの当時は当家の圧力が強すぎましたし、北条を目の敵にしておりましたから、氏政殿の判断は致し方ないかと。それよりも、北条が武田・上杉に向かってくれるなら、当家にとって好都合。ぜひ後押しをしてやらねばなりますまい」
「……そうじゃな、義頼殿の言うとおりじゃ。二枚舌の勝頼めを誅伐する絶好の機会じゃ」
「それでしたら、織田・徳川との同盟を当家が仲介してやれば良いかと存じます。武田の前面に立つことになる北条家はもとより、武田を仇敵とする織田家・徳川家も喜んでくれましょう」
「流石は梅王丸。良いところに気が付いた。では、次に小田原に行く際に、氏政殿と話をまとめてまいれ。そして、できればその足で、徳川信康殿、織田信長様にお目にかかり、双方の同盟を仲介してくるようにな」
「はい!? 義父様何を言って……」
「……うむ! それは良い。梅王丸頼んだぞ!!」
「父上まで!?」
皆さんこんにちは、上総介 里見梅王丸こと酒井政明です。
今日は、湊城に義頼さんを迎えて今後の方針を練ってたんだけど、ご覧のとおり、また上洛することになっちゃったよ。
え? 抵抗しないのか、って?
うん。義弘さん義頼さんの意見が揃っちゃったら、ごねても無駄だって分かったからね。あーあ、北条の使者付きじゃあ伊豆・小笠原には寄れないしなぁ。
マリアナの拠点化はどうした、って?
そう! それ! 実はこの前、フィリピン総督からすんなり許可が下りたんだよ!
やっぱり、漂着した船の船員を救い(笑)、さらにガレオン船を新造して船員を送り届けるとか、普段から貢献してるし、生鮮食料品の積み出し港としての実績もあるから、今回の話も信用してもらえたんだろうね。
本当は、スペイン人の気が変わったり、里見家の魂胆に気付かれたりしないうちに、さっさと拠点化を進めちゃいたい。だけど問題があって、少なくてもあと数か月は始められそうにないんだ。
そっちの件も、ここでじっくり話し合わなきゃね。
「ところで義父様、佐竹殿たちからの連絡はございましたか?」
「あった、あったぞ。常陸・下野の北部の諸将の下には、軒並み内応の誘いが届いておるそうだ」
「それにしても、よくもまあ、みんな正直に申し出ましたね」
「『忠誠心が高いからだ』と言えれば良かったのだがな。多くは一度釣られて懲りたのだろうよ」
「して、そちらの方はいかがいたしますので?」
「これだけ手を突っ込まれては、引き下がるわけには参らぬ。北条にも援軍を頼み、里見の総力を挙げて押しつぶしてくれ……」
「……義頼殿、待たれよ!」
「義弘様?」
「……我らが総力を挙げたとわかれば、奥州の木っ端どもはすぐさま恭順の使者を送ってこよう。場合によっては一戦もせずにな。しかし、我らが退けば、すぐさま蠢動を始めよう。あれらは誠に始末に負えぬ連中じゃ。どこかで戦場に引きずり出して、完膚なきまでに叩いてやる必要がある」
「しからばどのようにいたしますので?」
「……信長様の真似をすれば良い。相手は集まっても25,000から30,000がいいところじゃろう。里見は城の防衛を固めているため、野戦部隊は15,000であるとでも号すればよい。それから、北条からは援軍をもらうのではなく、逆に援軍を出しているとでも宣伝してやれ。そうすれば連中は、欲に駆られてノソノソと巣穴から這い出してくるであろうよ。それを叩いてやればよいのじゃ」
「なるほど! 流石は義弘様。兵が少ない振りをして誘い出すのですな! で、あるならば、内応の誘いが来ている諸将にも動いてもらえば、なお食いつくのではございませんか?」
「……良いのぉ! さらに旨そうなエサがあれば尚良いのじゃが」
「それでしたら、国境近くの城を一つ改修しまして、『要の城とするために兵糧を大量に運び込んでいる』との噂を流しましょう」
おお! 義弘さんと義頼さんの悪巧みがどんどん進んでいくよ! せっかくだから俺もこのビックウェーブに乗らないと!
「父上、義父様、よろしいでしょうか!」
「「ん?」」
「拠点となる山城には……を……して、…………の住民を……しておき、………………にはあらかじめ陣地を作って、事前に……の調整をしておけば…………、…………でしたら狼煙の準備を…………」
俺は、思いつく限りの策をどんどん挙げてった。途中から楽しくなっちゃってノリノリでしゃべってたんだけど、気が付いたら2人の目が点になってた。
あれ!? 俺、もしかしてなんかやっちゃいました?
「父上、義父様?」
なぜか、この後2人からメッチャ説教された。でも俺の作戦は採用なんだって!?
マジで解せぬ……。
義弘:「……あのような悪辣なことをポンポンと思いつくとは」
義頼:「私は敵とは言え奥羽の連中が気の毒になってきました」
義弘:「……ああ、ワシもじゃ」
義弘・義頼:「「梅王丸が味方で本当に良かった……」」




