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第92話 次への一手

天正6年(1578年) 11月 上総国 天羽郡 湊城



「おいおいおい! こりゃサンゴじゃねぇか!!」


「おおよ! 驚いたろ?」


「『驚いた』なんてもんじゃねぇよ! サンゴなんていったいどうしたんだ⁉︎」


「そりゃあったにきまってるじゃねぇか。……おっと! 『どこで採った?』なんて野暮なことを聞くのはナシだぜ?」


「そりゃあわかってるけどよ……」


「で、いくらで買う?」


「3万レアルでどうだ?」


「おいおい、馬鹿言っちゃいけねぇよ! この量をナポリの港に水揚げしたらどんなに安くたって1万デュカットにはなるはずだぜ? スペイン金貨(エスクード)払いなら1万1千、銀貨レアルだったら18万近くにはなるんじゃねぇか? いくら輸送コストがかかるったって1/6はボリすぎだろ!」


「……手元にそれしか持ち合わせがねぇんだよ。俺らの船団はミンで買い付けた品をアカプルコに運んでるんだぜ? ここの港じゃ水と食料を積み込むだけのつもりだったんで、(現金)はそんなに積んでねぇんだ。せめてマニラまで持ってきてくれるんなら、10万レアルは出してもいいんだが……」


「うーん、マニラか……。持ってってもいいんだが、ここから行くとなると、海流の関係でマリアナ(盗賊)諸島を通らなきゃならねぇんだ。あそこの連中、タチが悪いだろ?」


「ああぁ、チャモロ人な! 確かにあいつらはダメだわ!」


「寄らずに行ければいいんだけど、里見うちの連中、船にあんまり慣れてねぇから、あの辺で一度寄港しとかねぇと、恐怖に駆られて暴れ出すかもしれねぇんだよ」


「うーん、フィリピン総督府(俺ら)がなんとかできればいいんだけど、ブルネイの連中が攻めて来たり、倭寇の連中が襲ってきたりで、総督府も手が離せねぇんだよ」


「だったらよ、里見うちの殿様に言って、チャモロ人どもを大人しく(●●●●)させてもらってやろうか?」


「良いのか? でもタダじゃねぇだろ?」


「まあ、な。やるからには島を自由に使わせてもらわねぇと」


「土地に絡むことは俺ら下っ端じゃあ即答できねぇ。でも、あそこら辺の島、住民はどうしようもねぇし、特にめぼしいお宝もねぇし、マニラ=ガレオンの寄港ができりゃ、問題ねぇんじゃねぇか?」


「それは大丈夫だよ。それどころか、里見うちはドックも作れるから、チャモロ人どもを躾けて(●●●)やったら、ここと同じサービスをしてやれるぜ?」


「そりゃぁ助かる!!」


「じゃあ、わりぃけど、添状そえじょうを書いてくれねぇか? ……おっと、これ、手間賃な!」


「おい! サンゴと真珠じゃねぇか⁉︎ ……こんなに! いいのか?」


「良いってことよ! 俺とお前(おめぇ)の仲じゃねぇか。それにマニラへ行けるようになれば、こっちもいろいろ儲けられるしな! あ、そうだ! そいつをアカプルコで売り飛ばしたらいくらで売れたか教えてくれよ? たけぇ方で売るからさ!」


「かー! 欲深い野郎だぜ!」


「何言っていやがる! お前(おめぇ)だって、この山全部3万レアルぽっちで買おうとしやがったくせに!」


「違いねぇ!」


「「わはははははは!」」









「と、こんな感じの遣り取りがありやして……」


「ご苦労様。シモン、お手柄だよ!」


「坊ちゃん、こんなのお安い御用でさぁ!」


「悪いけど、準備ができたらフィリピンに行ってもらうことになると思うんで、またよろしくね」


「へい! 合点で!! で、今度はどんな芝居をすれば良いんで?」


「流石はシモン! よくわかってるじゃん!!」


「へへへへ」


「それはね……」


・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・





 皆さんこんにちは、上総・安房の国主 里見梅王丸こと酒井政明です。


 里見家うちのシモンと、アカプルコ行きガレオンの船長、フェルナンさんとの、『第1回サンゴ売却交渉』なんだけど、残念なことに不調に終わっちゃた。


 でも、おかげでマリアナ諸島割譲っていう、もっと大きな交渉の足がかりを付けることができたんで、大成功。


 ……っていうか作戦通りだったよ!




 こんな作戦を始めることになったのは、先日の小笠原探検がきっかけなんだ。


 あの時、試しにサンゴ漁をしてみたんだけど、これがまた、ビックリするほど大漁でさ!

 まあ、何となく生えてる場所がわかってて、しかも誰も漁をしたことのない海に初めて網を入れたんだから、当然採れるとは思ってたよ。でも、予想の遥か上を行く大漁だったんだよ(笑)



 ホントは、さっさと売りさばきたかったんだけど、あまりにも量が多すぎたんだ。


 実は、この時代のサンゴの産地って、地中海しか知られてなかったんだよ。そんな希少なものを大量に市場に流して、産地がバレたら、スペインの連中が攻めてくるかもしれないだろ?


 房総こっちに攻めてくるなら、簡単に返り討ちにしてやるんで、逆に『美味しい』かもしれない。けど、小笠原や八丈島に攻め寄せられることになったら、人を配置できないんで、苦戦するのは確実だ。


 特に、まだ開拓前の小笠原諸島に来でもしたら、せっかく作った香辛料の森を奪われちゃう。最初は人的資源を集中させやすいようにって、父島の、しかも中心街候補のすぐ脇の半島に限って、「タコノキ。チョウジの木になれ! タコヅル。胡椒になれ!」って念じてきたんだ。こっちが開発する前に攻め寄せられるわけにはいかない。


 で、『小笠原に攻め寄せよう』なんて思わせないためには、策源地を潰しちゃえばいい。



 その策源地が、マリアナ諸島なんだ。


 スペインにとってのアジアの最重要拠点はフィリピンだ。っていうか『フィリピンしか無い』んだ。だって、軍も商人もフィリピンにしか駐留してないし。


 そのフィリピンからだと小笠原に到達するのは結構難しい。黒潮の流れから外れてるからね。でも、マリアナからだったら、島伝いに北上していけば、すぐに小笠原に到着しちゃう。



 里見こっちにとっては首根っこを押さえられた位置にあるマリアナ諸島。だけど、この当時のスペインにとっては、名前だけ領地、言わば『不良債権』なんだよ。


 そもそも、この時代だと、名前すら『マリアナ』じゃなくて、盗賊ラドローネス諸島だったぐらいだもん。


 これは、住人(チャモロ人)たちが、すぐに窃盗を働くから付いた名前らしいよ。



 実は、鳥島で拾ってきたガダオとグアパンと話してて気付いたんだけど、チャモロ人(彼ら)、私有財産の概念が希薄なんだ。船でどんどん居住地を広げていく民族だから、何でも共有していかないと民族の存亡に関わってくるのかもしれないね。


 チャモロ人は、『お前の物は俺の物。俺の物はお前の物』

 スペイン人は、『お前の物はお前の物。俺の物は俺の物』(※または『お前の物は俺の物。俺の物は俺の物』(笑))


 これじゃ、上手く行くわけないわな。



 そんな感じで、現在のマリアナ諸島は、スペインから『戦力外認定』をされてる。この認識のズレを利用しない手はないよ。



 フィリピン総督には、「チャモロ人(あいつら)困るから、どうにかして! できないんだったら里見家ウチが代行しても良いよ?」って提案するんだ。


 で、「島をくれるんだったら、代わりに、里見家ウチ泥棒(チャモロ人)に悩まされず、整備もできる安全な港、そして、水と食糧を提供するよ(※有料)」とか上手いこと言って、里見家うちの拠点にしちゃおうってわけだ。



 これ、チャモロ人たちにとっても悪い話じゃないと思うよ。理不尽で横暴で、自分たちの神様を迫害するスペイン人と接触しなくても済む生活を提供できるからね。場合によってはサトウキビとか生産してもらって、物々交換で交易してもいいんじゃないかな?



 でも、そしたら、自分たちが『お前の物は俺の物』をやられるんじゃないか、って?


 大丈夫! ガダオとグアパンには理解させることができたから!

 こんな時、言語チートは便利だね。多分、語彙すら無かったはずなのに『私有財産』について説明できちゃった(笑) 後は、ガダオとグアパンを使って現地の長に説明させれば良いんだ。こんな感じなんで、スペイン人みたいなことにはならないと思うよ。



 さあ、早速フィリピンに使節を送らなきゃ! それに、速やかに動くには、あらかじめマリアナ派遣軍を編成しとかなきゃいけない。他にも小笠原への移住計画も進めなきゃいけないし、八丈の開拓もある。サンゴはとりあえず俺が全部買い取ることにして、乗組員には利益分配しといたから、当座は何とかなるけど、販路がないから利益が出ない。早いうちに加工のノウハウを掴んじゃわないと……。


 いや~、やることが山ほどあるよ。『お宝がっぽりで左団扇ひだりうちわ』の予定だったんだけどなぁ……。





 どうしてこうなった!!










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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] 北上するよりはシーパワー国家になる方が手っ取り早いよなあ
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