第90話 歴史資料:ガレオン船上総丸 船長 舟浦シモンの日記・中編(閑話)
8月13日
曇り、うねりは落ち着いている。朝になって確認したが、この島は5年前に発見し、後に父島、母島と名づけられた島々とは違うようだ。あの時発見した島々には、そこそこ高い山があったように覚えているのだが、この島は平坦であり、面積も小さい。幸い入り江が発達しているので、上陸が容易なのは好材料だ。
朝から短艇で島に上陸する。坊ちゃんも来たがったが、どんな危険があるのかわからない。一度探索をして、安全だとわかってからにしてくれと説得した。
そもそもこんな探検に坊ちゃんが来てること自体まずいんだから、自重してもらわないと困る。
島には既知の有用な植物は存在しないようだ。香辛料が見つかるかと淡い期待はあったので残念。ただ開発対象としては問題ない。また、島では危険な動物も発見できなかった。虫、鳥、蝙蝠、トカゲなどは見かけたが、他の動物は見かけない。オオカミやシカはおろかネズミすらいないようだ。鳥や蝙蝠は人間を見たことがないのか、近づいても逃げるそぶりすらないので、手で抑え込むことができた(※何の鳥かは不明。しかし、そのような鳥は現在存在せず、絶滅したものと思われる)。
この調子なら、最初は移住者の食糧には困らなそうだ。それからネズミがいないのも大きい。この島なら穀物を食い荒らされる心配がない。移住者を募る際は、ネズミを持ち込まないこと。これは注意する必要がありそうだ。どうしたらいいか後で若様にも相談してみよう。
川はごく小さな物を1本発見した。他にもあるかもしれないが、この様子ではこの島で多数の人間を養うことは難しいと思われる。
島の高所に上ると、南の方に島影が見えた。おそらくあれが父島だ。思ったより近そうに感じられる。この距離なら午後に出航すれば、夕方には着くだろう。
戻って坊ちゃんに報告すると、一度は上陸したいらしい。理由を聞いたら芋を埋めてくるんだそうな。植えた芋が勝手に生えてくれば、入植者が来た時に役立つかもしれないと言っていた(※数年後島を訪れた開拓団は島のあちこちに自生するサツマイモを発見したとの記録が残る)。
13時。坊ちゃんが戻るのを待って出航する。なおこの島は、聟島と名づけられた。坊ちゃんによれば父母から少し離れてて小さいからだ、と。上手いことをおっしゃるものだ。
17時。父島に到着。北緯27度5分。島の西側に大きな湾(※二見港)を発見し投錨。水深もそれなりにあり、港湾としても有望だと感じた。明日は同行の安房丸の乗組員が父島に上陸、探険に入る。我々は同じく同行の下総丸とともに島を周回し、その後、さらに南の母島に向かう予定だ。神よ明日は良い発見があらんことを。
8月14日
雨。外海はうねりが出てきたようだが、帆走は可能。8時。上陸部隊を見送り、我々は湾を出て一度北西に進路を取り、島を周回する航路に入る。驚いたことに、島は海峡(※兄島瀬戸)で2つに分かれていた。入り江が多い地形だとは思っていたが、分かれているとなると、別の隊を派遣することも必要になってきそうだ。
父島の東海岸はところどころに船が停泊できそうな湾はあったが、山が近くまで迫っているところが多く、開発には向きそうにない。坊ちゃんたちがどう判断するかは分からないが、入植するなら西側だろう。また特に北東側には岩礁が多く、航路を設定するには向かないことがわかった。
11時、母島に到着。幸運なことに雨は上がった。北東にある湾(※東港か?)に船を入れ、我ら上総丸は島内の探索を、同行の下総丸は母島の周回を行った。探索の結果分かったことは、母島は山がちで、南北に細長い島であること。短い川はあるものの、耕作に適した土地はほとんど無いこと。聟島同様、島内に危険な生物は存在せず、鳥の多くが警戒心が薄いため、入植当初の食糧の心配が少ないことなどであった。また、父島同様入り江が多いことから、港湾施設を設けるにはそれなりに有望であると思われる。
17時、母島の周回と、周辺のいくつかの島の探索を終えた下総丸と合流。情報を付き合わせる。見解は我が部隊とほぼ同じであった。強いて言えば、島の南西側に川を有する湾(※沖港か?)があり、狭いながらも平地があることから、入植地としては、ここが適しているであろうということだった。
明日は父島へ戻り、安房丸の部隊と合流することにする。




