表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/298

第88話 領地の視察

天正6年(1578年)8月 伊豆国 賀茂郡 大賀郷おおかごう



 皆さんこんにちは、上総・安房の国主 里見梅王丸こと酒井政明です。上方訪問の帰りついでに、伊豆諸島の視察をしてるんだ。今日の視察先は八丈島だよ。


 実は伊豆諸島には、4年前に鶴姫さんと婚約がまとまって、小田原を訪問するようになって以来、定期的に視察に来てるんだ。南方開拓の拠点としての役割を期待してるからね。特に、面積も広くて、まともな港湾がある八丈島には期待してたんだ。


 けど、4年前、最初に来た時は、そりゃあもう酷い有様だった。聞いたらさ、数年のサイクルで飢饉が起こってるって言うじゃない? だからさ、救荒作物としてサツマイモを持ち込んだわけよ。



 え? サツマイモは、まだ鹿児島に渡来してないんじゃないか、って?


 うん、確かにそうなんだけどね。自分の知ってる物を耳慣れない名前で呼ばれるとモヤモヤするじゃん? 方言でカライモとかリュウキュウイモとか言うのも知ってはいるんだけどさ、アレは俺にとっては『サツマイモ』じゃないとしっくりこないんだよ。『小笠原諸島』と一緒だね。


 だから、「薩摩の方から伝わってきたらしい」ってことにして、『サツマイモ』で広めちゃうことにしたんだ。


 後々『謎』扱いされるかもしれないけど、『伊勢物語』の『都鳥』の話とかもあるから、何とかなるんじゃないかな?




 こんなことを考えながら船から下りると、八丈代官の平野勝吉(隠岐守)が、大賀郷の名主、菊池秀右衛門を連れてやってきた。




勝吉(隠岐守)、遠方の勤務大儀である。また、八丈産の砂糖は信長公も大変お喜びであった。よくぞ里見の面目を施してくれた。礼を言うぞ」


「もったいなきお言葉にございます」


「勝吉には、上総の内にて50貫を加増いたす。八丈は里見の更なる発展のための重要な拠点となる。これからも頼むぞ」


「ありがたき幸せ! これからも粉骨砕身務めまする!!」


「さて、名主、秀右衛門。島の者どもの暮らし向きはどうだ?」


「へい! 若様のお持ちくださったサツマイモのおかげで、去年一昨年と飢え死には1人も出やせんでした。それから、サトウキビのおかげで、白米も手に入れられるようになりやした。ありがてぇことでございます」


「それは良かった! 持ってきた甲斐があるというものだ! さて、信長公に誉められたのは、そちら村人たちのおかげでもある。よって各郷にも褒美を与えようと思うが、何か希望はあるか?」


「へい。畏れながら、八丈には我ら坂下の2郷と坂上の3郷がごぜぇます。今は大坂越と申す切通きりどおしを使っておりやすが、四つん這いにならねば通れねぇほどの難所。ここを開削すりゃあ、サトウキビの生産ももっと増やせやす。ぜひとも若様のお力添えをいただきたく存じやす」


「あいわかった! 人は出してやれぬが、(日当)と道具は出してつかわす。秀右衛門、詳細はそちに任すゆえ、一月ひとつき以内に各郷の名主どもと図り、来月から5年で掘り上げよ。5年以内に掘り上げれば、残りの米は褒美として各郷に分配いたす。気張れよ!」


「ははぁ!!」


「勝吉、日当の米は南方開拓用の倉から出す。各郷の名主から、いつ、どれだけ人を出せるか、米は1人どれだけ必要か聞き取り、必要な量を報告せよ。その分は追加で本国より送らせる」


「はっ!」


「それから、本来の仕事であるサトウキビ栽培や、南方開拓への援助は遅滞無きように務めること。わかったな?」


「「ははっ!!」」




 う~ん。八丈島の交通事情がそんなに劣悪だとは知らなかったよ。でも先に「褒美をやる」って宣言しちゃったし、交通事情が改善されれば南側の地域で生産されたサトウキビを、1か所で加工できるようになるから、間違いなく効率は上がるよね。


 さっきも言ったけど八丈島は小笠原・マリアナ方面に向けての前線基地だからね。インフラ整備をしとくのは、決して損にはならないはず。先行投資だと思って頑張ろうっと!



 じゃあ、港に食糧倉庫をもっと増やさないと。一応、飢饉対策と開拓者への供給用で、今もそれなりに備蓄はあるんだけど、日当として配るとしたらちょっと心許ないからね。早速、勝吉に指示しなきゃ。



 それから、米が定期的に手に入るようになる秀右衛門たち島民には、「欲張ってサトウキビばっかり作らないように」って釘を刺しておかないといけないな。


 え? 連作障害対策だよ!


 サトウキビは確実に問題が出るし、連作障害が起こりにくいって噂のサツマイモだって『皆無』じゃない。目の前の収入に目が眩んで、畑をダメにされたら一大事だもんね。土壌を痛めにくい大豆なんかと合わせて輪作をするように、しっかり指導とかないといけない。



 ちなみに、こうやって開拓を進めていくと、肥料の問題が出てきそうなんだ。けど、鳥島とか、南鳥島とか沖大東島とかを押さえれば、グアノが回収できるようになるから、状況は改善するかもしれない。その辺も今後の探索に期待だね。



 あと、今、浜荻の鋳造施設で大型の蒸留装置を造らせてるんだけど、完成したら、ここに送り込む手はずになってる。廃糖蜜を使って焼酎(ラム酒)を作らせるつもりなんだ。


 実は、既に日本酒どぶろくを使ってのアルコールの蒸留には成功してる。消毒用のアルコールを得るためだよ。ただ、これまでのところ、事業化はできてなかった。


 だって、日本酒はそれだけで商品価値が高いし、そもそも米だって貧民の口にはなかなか入らないような高級品なんだもん。



 でも廃糖蜜は違う。名前に『廃』って付くぐらいで、甘いけど売り物にするのは難しい。言わば廃物だ。そのままでも多少の商品価値はあるけど、輸送コストに見合うほど利益が出せるわけじゃないんだな。


 そんな廃物が、高アルコール度の珍しい酒に変身する。こんな美味しいことは、なかなか無いよ。それに、米とかの穀物を酒にするためには、一度デンプンを糖に変える『糖化』って過程が必要なんだけど、廃糖蜜なら最初から糖だから、糖化の必要が無い。一石二鳥だろ?



 とりあえず、条件の悪い御蔵島と青ヶ島以外はサトウキビを導入してあるんで、それらの島にも、順次蒸留装置を設置していくつもり。


 これまでは、八丈島に限らず、どの島も飢饉と貧困の隣り合わせの生活だったみたい。だけど、これからはサツマイモで食糧を確保して、サトウキビ他の換金作物で資金を稼ぐ。そんなサイクルを作って、飢餓と貧困を根絶したいね。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] ルリカケスなんかはラムのはずなのに泡盛の風味が出てたから、八丈島で作るのはどんな味になるかね あと、これだけ農生産人口が増えると塩生産されなくなって将来くさやが消滅しそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ