第86話 謁見! 織田信長
天正6年(1578年)7月 近江国 蒲生郡 安土城
「お初にお目にかかります。里見義頼が嫡男、梅王丸と申します」
「で、あるか」
やった! 生「で、あるか」出ました!
おっと、失礼! 改めて、皆さんこんにちは、上総・安房の国主になった 里見梅王丸こと酒井政明です。今ちょうど、信長さんに拝謁してるとこだよ。
思わず反応しちゃったけど、とりあえず挨拶を続けるね!
「織田信長様には御機嫌麗しゅう存じます。本来でしたら義父、義頼が参上するところでございますが、里見義弘不在の影響は大きく、上杉謙信めの残党討伐のため、関東を離れられません。ゆえに、若年ではございますが、嫡男の某が、名代として家督継承の挨拶に参った次第。今後とも里見家をよろしくお願い申し上げます」
「うむ」
「つきましては、両家の友好の証といたしまして、些少ではございますが、鯨肉100樽、楓蜜100壺、砂糖100袋を持参いたしました。お納めくださいませ。こちらが目録と義頼の書状にございます」
俺が両手で手紙を差し出すと、後ろに控えていた小姓がさっと受け取り、信長さんのもとに運んでった。
信長さんは、しばらく無言で手紙を読んでいたけど、ふっと顔を上げると、こう言ったんだ。
「うむ。梅王丸、烏帽子親と、初陣の件、引き受けた。準備ができたら、いつでも訪ねてくると良い」
やった! 所期の目的達成だよ!! 後は機嫌だけ損ねないことだけは気を付けなきゃね!
「ありがたきしあわせ! これで胸を張って下総に帰れます」
「義頼殿には常々世話になっておる。この程度はお安い御用じゃ。して、義弘殿は?」
「はい。中風で倒れましたが、命に別状はございません。まだ思うように動けませぬが、日に日に回復いたしております」
「義弘殿は、ともに武田を討つと誓った。薬をとらす」
「ありがたき幸せ! 武田退治は義弘も悲願。一日も早く回復するよう、いただいたお薬を用いてしっかり治療させまする」
「うむ、して、いくつであるか?」
「はい。11になりました」
「何! 11!?」
「はい。永禄11年(1568年)の生まれゆえ、今年で11にございまする」
「見事じゃ! ……とらす。 お蘭!」
信長さんは振り向いて、太刀を取ろうとしたんだけど、こっちを見て一瞬何か考えた後、手を引っ込めた。そして、懐を探ると扇を取り出し、後ろに控える小姓に渡した。
うん、妥当な判断だよ。流石に太刀は、元服前の子どもにはちょっと荷が重いかな? 物理的にもね!
まあ、俺は鍛えてるから普通に振れるとは思うけど、身長の方はどうしようもない。腰に差したら引きずっちゃうかもしれないんだ。ちょっと惜しいけど仕方ないかな。
それにしても、「お蘭」ってことは、これが森蘭丸さんか~。蘭丸さん、すっごい整った顔をしてるね。流石は信長さんに気に入られるだけあるよ!
蘭丸さんは上座から下りると、つつつと俺の前に出て、扇をさしだした。
「梅王丸殿。上様からでございます」
「ありがたく頂戴いたします」
俺は扇を押し頂いた。すると、信長さんはさらに続けてこう言った。
「うむ。しかし扇では、ちと足りぬ。なんぞ欲しいものは?」
「はい。もしよろしければ、この安土城下に、里見家の屋敷を賜れないでしょうか?」
「わかった! なお、今後の取り次ぎは、滝川一益を宛てる。なんぞあった時は、一益を頼れ!」
「はい! 義頼にも申し伝えます」
「梅王丸、今後も励めよ!」
「は! 微力ながら今後も努めてまいります」
「梅王丸殿。謁見は以上でございます。お下がりください」
「は! 失礼いたします」
小姓さんに促された俺は、広間から退出した。
これにて、俺の初信長(?)は終わったんだ。
いやぁ、緊張した!
それでも、信長さんとの謁見は、だいぶ上手くいったと思うよ。
だって、義重さんが謁見した時は、もっと口数が少なくて、もっと見下されてる感じだったんだ。けど、今回は、前と比べものにならないくらい饒舌だったし、義弘さんや義頼さんに、敬意を払ってくれてるのもわかった。
これ絶対、義頼さんが何度も上洛して顔つなぎしてたのと、長篠合戦に義弘さん自ら参陣して、轡を並べて戦ったのがでかいと思う。
あとは、荒木村重の乱がまだ起こってない影響もあるかも。それを考えると良い時期に謁見できたかもしれないね。
それから、「褒美に安土に屋敷をくれ」って要求したのも好印象だったんじゃないかな? だって、本拠地に恒久的な拠点を構えるってことは、服属してるようなもんじゃん?
ま、へりくだってるように見せかけてるけど、目的はそれだけじゃないんだ。上方に常設の支部があれば、情報収集や特産品取引の拠点にできるじゃん?
当然、その先頭に立つのは風魔衆だよ。東国には広く諜報網を構築してきた風魔衆だけど、近畿から西ではどうしても地盤が弱いんだ。ここで信長さんのお墨付きのもと、合法的に活動拠点をもらえたんだ。超ラッキーとしか言えないよ。
安土を拠点に商家を構えるふりをして、商人に偽装した風魔衆を畿内各地に送り込む。最高だね!
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