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第82話 野戦か?籠城か?

天正6年(1578年)1月 下総国印旛いんば郡 佐倉(鹿島)



 こんにちは、安房国主 里見梅王丸こと酒井政明です。

 さっき、上杉謙信さんの越山への対策を話し合う会議が始まったとこだよ。


 義弘さんは、謙信さんへの怒りをぶちまけるだけぶちまけて座っちゃった。だから、具体的な対応については義頼さんに任された感じ。言わば丸投げだね。


 いや~、当主が脳筋だとサポート役はホント大変だね! 里見家ウチは義頼さんがいてくれて本当に良かったよ……。


 密かにこんなことを考えてる俺を横目に、義頼さんは、改めて皆に声を掛けた。




「さて、皆の衆。我らは上杉と戦うことに決まったわけだが、戦い方は2種類ある。それは野戦で決着を付けるか、籠城戦で耐え忍ぶかじゃ。まずはどちらを選ぶかを決めたい。意見のある者はおらぬか?」


「恐れながら申し上げます」


岡本安泰(随縁斎)、申してみよ」


「はっ! 過去の越山において、北条方の諸将は専ら籠城しての防戦に徹してしております。謙信(不識庵)殿は時が経てば越後に引き上げるのが常でござる。そして、北条家は引き上げを待って、瞬く間に勢力を回復しておりました。我らもその故事に習うべきかと存じまする」




「ほ~」とか「なるほど」とか呟く声があちこちから聞こえる。やっぱり前例踏襲の意見は強いよね。でも……。




「……ちと、よろしいかな?」


土岐為頼(弾正少弼)殿、いかがした?」


「うむ、その書状には、謙信はいつ出陣すると書いてあるのですかな?」


「3月15日でござる」




 それを聞いて、為頼(曾祖父)さんは大きく頷く。そして、居並ぶ重臣衆の方に向き直って話し始めた。


「皆の衆、考えてみなされ。3月半ばに出陣するならば、いくさはいつじゃ? おそらく4月か5月ではないか? 田植えの時期に人手を取られるだけでも痛いのに、野戦ならともかく、籠城戦ともなれば、どうじゃ? 城攻めは6月、7月までかかっても不思議ではないのじゃぞ? 籠城で領地を守り切ったとしても、秋にはどうなる? 大飢饉になるのではないか?」


「「「「…………」」」」




 うん、みんな黙っちゃった。先々のことまで考えたら、どう考えてもこっちの方が正論だからね。為頼さんが決戦論の口火を切ってくれたんだ。俺も曾孫として、しっかりサポートしなきゃね。




「よろしいでしょうか?」


「梅王丸、申せ」



「はい。私のような若輩者が語るのは烏滸がましいことなれど、一言申し上げます。


 私は先年の約定に従い、定期的に小田原を訪ねております。小田原城は巨大でござる。かの城があれば、謙信殿の軍どころか、天下の軍が総掛かりであたっても半年は余裕で籠城ができましょう。


 それに引き換え里見はどうでしょうか? 残念なことに、里見には小田原城のような全軍でもれる堅城はございません。しかし、諸城に分散しての籠城は、各個撃破されるだけ。ですから、決戦を選ぶべきかと愚考いたします。


 ここからは提案です。決戦に及ぶ際には、相手を引き込んで戦うのではなく、討って出るべきだと存じます。


 領内深くまで侵入されれば、たとえ勝ったとしても、皆さんが心血を注いで豊かにしてきた領地が荒廃するだけ、それならば敵地で決戦に及んで決着を付けるべきです」



「しかし、梅王丸よ、領外の土地勘がない場所での決戦となれば、奇襲などのおそれもある。危険ではないか?」



義頼(義父)様、確かにそのおそれはあります。


 しかし、里見()家の『土地勘がある場所』をお考えくだされ。よく知った場所を選んでいては、最低でも下総南部まで敵を引き込まねばなせん。それでは領地の半分を蹂躙されたも同然。そうなればこの5年間で積み重ねてきた成果は無に帰します。


 それに、当方が討って出るとしたら、上野こうづけ下野しもつけでしょう。上杉の主力は北陸勢。ですから、上野ならば、上杉にとっても『土地勘がある』場所とは言えますまい。条件はさして変わらぬのではありませんか?」


「なるほど……」




 ここで横合いから、別の人が口を挟む。




義頼(刑部大輔)様に申し上げます」


多賀高明(蔵人)。申せ」


「はっ! 我らは先年、長篠合戦に参戦いたしました。あの戦で信長(内府)様は、強固な野戦陣地を作り、武田勢を迎え撃たれました。しかも、陣を築いたのは城を包囲する武田勢の目と鼻の先でです。我らが同じようにできないわけはございません」




 おお! 流石は義弘さんお気に入りの多賀高明さん。良いことを言ってくれたよ! しかも長篠と言えば、あの人も参戦してるじゃん! これは畳みかけないと!!




「野戦陣地! 流石は高明(蔵人)殿! 義頼(義父)様、里見には野戦(榴散弾)砲がござる。敵を鶴翼の陣に引き込んで、押し包むように撃ち込んでやれば、さしもの謙信殿も悲鳴を上げましょう。


 それに、強いとは言え謙信殿も常勝ではありませぬ。里見には白井浄三(謙信敗北の立役者)がおるではありませんか!」




「おお!」「浄三入道殿か!?」「そうじゃ!」「謙信恐るるに足らず!」

 広間のあちこちから威勢の良い声が上がり始めた。


 ここで、義弘さんがすっくと立ち上がる。




「よし! 決まったな。討って出るぞ! 我らは持てる力の全てを賭けて、上杉謙信(かの不忠者)を叩き潰す!! 参集場所、参集時期は追って沙汰いたすが、2月下旬から3月上旬になるものと心得るべし! これより各自の所領に帰り出陣の準備を整えよ! 必要な物があれば遠慮なく申せ! 里見家存亡の刻ぞ! 皆の者、気張れよ!!!」




「「「「「「「「応!!!」」」」」」」」





 さあ、また忙しくなるよ! 俺たちも万全の準備を整えないとね!











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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[気になる点] > 2月下旬から3月上旬になるものと心得るべし! あ、はい。 史実通りならば、すっごいネタバレ感だけど バタフライ効果で厠死亡ルートを回避かな?
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