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第8話 生誕

これより本章開始となります。

永禄11年(1568年)2月 上総国望陀(もうだ)郡 久留里くるり




 こんにちは、『酒井政明さかいまさあき』です。色々あったけど、無事に生まれました。


 これから俺は、里見義弘さんと足利松姫さんの子『梅王丸うめおうまる』です。



 実際、生まれてみて、わかったことが幾つかあるんだ。



 まず、生まれる時はつらい。本当に辛い! 考えてみれば頭蓋骨が変形するレベルで出てくるんだ。痛くないわけがなかった。


 あんな痛い目に何度も遭ってたなんて! どれだけ義重さんは忍耐強いんだよ! 万が一、次回があるとしたら、俺は『生まれた後、しばらくして記憶が戻るパターン』を所望したいね!



 それから、義重さん。リアルで特殊能力持ちだった。


 だって、視界がはっきりしてるんだ。


 赤ちゃんって『生まれてすぐは、目は薄ぼんやりとしか見えない』って聞いてた。だけど、この体、最初からばっちり見えるんだよ!

 で、義重さんの記憶があったから、周囲の人物が誰だかすぐ理解できた。






「この子はほとんど泣かないのう」


「でも、何かしてほしいことがあれば、手を叩いたり、指をさしたりできるのです」


まことか!? 何とさとい子じゃ!!」






 ちなみに、今、俺の目の前でしゃべっているのが、この世界(?)でのパパンとママンだ。



 松姫さん(母ちゃん)(もう結婚してるから、『松の方』さんか?)は、『美少女』だった。時代背景もあるとは言え、たぶん十代半ばじゃないか?


 それに比べて義弘さん(父ちゃん)は、顔の作りは良いけど、40代。倍以上歳が離れてて、現代だったら『犯罪』案件だった!



 この松の方さん。貴種の生まれってこともあってプライドが高いのが問題なんだよね。史実では、義弘さんの後継者争いに勝った里見義頼(義理の弟)に頭を下げることができず、幽閉先でクーデターを企てたりするもんだから、最後には謀殺されちゃった。


 貴種のお姫様ってことで、周囲から『政治』を教えられてこなかったのかもしれない。でも、義重さん(前任者)の記憶を辿たどると、地頭は悪くなさそうだ。だから、機会のあるごとに『現実』というものを教えてやらなきゃいけない。


 まあ、松の方さんの方はそんなに心配していない。色々繰り返した義重さんの記憶でも、何とかなったことが多かった。つまりは、俺が上手く立ち回れば済むだけの話だ。




 ……問題は父親である里見義弘の方だ。


 前にも言ったが、この男、いくさをさせれば、滅茶苦茶強い。国力が1/5とかの弱小里見が、大北条に対抗できている一因に、この男の強さがあることは間違いない。


 ただ、残念なことに政治的センスがなさ過ぎる。義弘の『やらかし』は、いくらでもあるんだけど、その最たるものは、我が子かわいさのあまり、10歳の幼子()に家督を譲ろうとしたことだ。


 これで長生きしてくれれば、問題なかったかもしれない。だけど、彼、大酒飲みがたたって、あと10年で、血を吐いて死んじゃうんだ。これじゃ、いくら義重さん(前任者)がチート持ちだって、上手くいかないのは当然だよ。



 実は、今回俺は、義重さんも気がつかなかったある作戦を考えてる。


 この作戦、早ければ早い方が良いんだけど……。






「流石は八幡太郎はちまんたろう義家よしいえ公に連なる里見の子じゃ!」


「ええ、八幡太郎義家公に連なる足利の子でございますれば!」



「「ははははははは」」


「いや、この子は天下に名をとどろかす名将になるぞ!」



「ええ、誠に。

 健やかに育つのですよ。梅王丸。」






 こっちが悩んでいるって言うのに、こいつら、脳天気な会話を続けやがって!


 それに、この遣り取り、義重さんの記憶と全く同じで、驚くよりも笑えてくるんですけど!






「おお!梅王丸が笑ったぞ!」




 笑いたくて笑っとるんと違うわ!!!




「本当に。笑ったところも可愛らしいでしょう」




 2人がこちらをのぞき込んできた。


 ありゃ!? 全く予期してなかったけど、これはもしかしてチャンス到来かも。

 よし、作戦開始だ!


 俺は、義弘さんを見ながら、さも嬉しそうにキャッキャと笑ってやった。




「おお! 見よ! わしを見て笑ったぞ!!」


「あら? 珍しい! これほど笑うことはあまりないのですが……。よほど殿のことがお好きなのでございましょう」




 松の方さん(母ちゃん)ナイスサポートだ!




「なんと! 嬉しいこともあるものじゃ! ()よ、梅王丸を抱いても良いか?」


「ええ。是非とも抱いてくださいませ」




 義弘さんの大きな手が伸びてきて、俺は父の胸元に抱き上げられた。


 俺は嬉しそうに笑い、手足を動かす。


 彼は、その精悍なまなじりをこれでもかというくらい下げ、満面の笑みをたたえて俺の方を見た。そして、口を開き、



「梅王丸、おぬしは里……」





 俺は、一瞬鼻をひくつかせると、顔をしかめ、そして、これでもかというくらいの大声で泣きわめいた。




 義弘さんは、その場に崩れ落ちた。




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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[良い点] まあこの時代、40歳で死ぬの当たり前ですし。 むしろ北条の爺がおかしい。 [気になる点] 生態系を破壊しそうだなぁ……。
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