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第79話 合戦の後始末(閑話)

天正3年(1575年)5月 三河国設楽(したら)郡 設楽原したらがはら


―――――――― 夕刻 設樂原 織田信長本陣 ――――――――



 日暮れが近づき、敗走する武田勢を追撃していた連合軍の諸将が次々に帰陣したことで、信長本陣で行われている首実検は、異例の活況を呈していた。


 山県昌景(三郎兵衛)、内藤昌秀(修理亮)ら、武田家宿老の首が届く中、里見家中でも、加藤弘景(左衛門尉)が馬場信春(美濃守)の、御子神(土佐守)が安中景繁(左近太夫)の首を取り、大いに面目を施すことができた。


 しかし、戦勝に沸く中ではあるが顔色の冴えない者もいる。何を隠そうそのうちの1人が里見義弘であった。


 異変に気付いた重臣の多賀たが高明たかあきは、自陣への帰路、主君義弘に声を掛けた。




「殿、いかがなさいました? もしや勝頼(四郎)めを取り逃したことを悔いておいででござるか?」


「なんじゃ高明(蔵人)か。ワシはそんなに渋い顔をしていたか?」


「はい。此度の戦は空前の完勝でござる。喜びを露わになさる方がほとんどでござれば、殿の御様子は少々気になりました」



「うーん、家臣に気付かれるとは、ワシも修行が足りぬな……。

 まあよい。折角じゃ、ちと聞いてもらおうかの」


「拙者でよろしければ何なりとお話しくだされ」



「うむ、高明よ、確かに勝頼めを取り逃したことは残念じゃが、ワシの気が晴れぬのはそこではないのじゃ。此度の合戦をそちはどう思うた?」


「はい。弓鉄砲の撃ち合いが延々と続き、気付けば追撃戦が始まっておりました。このような経験は今までに一度もございません」


「ワシもじゃ。戦の最中は気付かなんだが、今考えてみれば、良くわかる。ワシらは城の防衛をしていたようなものじゃからな」


「あ!」


「ワシらはまだ良い。武田の立場になって考えてみよ。ヤツらは野戦をしに来たはずじゃな? なのに、いつの間にか攻城戦をさせられておった。しかも、守っている方の軍勢が寄せ手の倍もいる攻城戦じゃ。いくら武田が精強とは言え、このような戦をしては、万に一つも勝ち目がないわ」


「…………」


「そんな戦に勝頼を引きずり出したのは誰じゃ?」


「……織田信長(宰相)様にございます」



「織田殿は恐ろしいお方じゃ。我らとは考えていることが2枚も3枚も違う。義頼(刑部)たちが『援軍は当主ワシ自ら率いるべし』と口を酸っぱくして語っていた意味が良くわかったわ。


 おそらく織田殿の下では、戦もまつりごとも大きく変わるじゃろう。『今まで我らの築いてきたことが一切通じない世がくるやもしれぬ』こう考えると、気が滅入ってしまってな、ついつい渋い顔をしてしまった。こういうわけじゃ」



「殿、私はそこまでは全く気付き申さず……。己の不明を恥じるばかりでござる!」



「いや、よいのじゃ! ワシとて義頼や梅王丸から言われておらなんだら、気付かなかったであろう。


 さて、高明、大切な話であるから申しておくぞ。里見家を存続させたいと願うのであれば、この先何があろうと、織田信長殿と敵対してはならぬ。敵対は滅亡の道であると心得よ」



「……そこまでお考えとは! しかと肝に銘じまする!!」




「それにしても、ワシは実際に目にして気付いたが、義頼たちは戦の前から気付いておった。手前味噌じゃが、なかなかの才覚じゃと思わぬか?


 次代がしっかりしていれば、お家は安泰。これでワシも何も気兼ねなく三途の川を渡れるというものよ」



「と、殿!?」


「ま、()の婚約も成ったばかりだし、桃が織田に嫁に行くぐらいまでは、くたばるつもりはないがな!」


「安心いたしました。それでこそ殿でござる! いや~、辛気くさい話は殿には似合いませんな」



「こやつ! 言うわい!!」



「「わははははは!」」




 どちらからともなく笑い出した2人は、薄暮の道を陣へと急ぐのであった。





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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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