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第76話 義弘さんへの質問

天正3年(1575年)1月 下総国印旛(いんば)郡 佐倉(鹿島)



 こんにちは、安房国主 里見梅王丸こと酒井政明です。


 まだ10日しか経ってないから、何とも言えないところではあるんだけど、今のところ松の方さん(母ちゃん)は順調に回復してるし、()も健やかに育ってる。まあ、前世(義重さん)の記憶では、2人とも、天正年間に自然死したことは無かったはずだから、『史実どおり』だったら、まだ心配は無いと思うんだ。



 さて、松の方さんの側にいたり、桃の世話をしたりと、色々忙しくしてるうちに正月()も明けちゃった。流石に、そろそろ俺も一度安房(領地)に行かなきゃいけない。


 家族と離ればなれになるのは嫌だよ? 特に「桃に忘れられちゃったら」って思うと、耐えきれないくらい辛い。だけど、里見家うちは、本当に人がいないから、仕方ないんだよね……。





 ただね、その『人がいない』って事に関連して、ちょっと思い出したことがあったんだ。


 これは、ぜひ義弘さんに聞いておかなきゃいけない。義弘さんも領地が増えたせいでメッチャ忙しいんだけど、俺が安房に行く前に、無理を言って時間を作ってもらったんだ。





 義弘さんには、人があまり来ることのない、城の奥の一室を指定して来てもらった。

 で、この話は他人に聞かせて良いか微妙なんで、とりあえず人払いをお願いする。


 そして、警護役が下がると、俺は単刀直入に切り出した。




「父上。ふと耳にいたしたのですが、私に弟がいると言うのは、真でございますか?」


「ど、ど、ど、どこから、そ、そのようなことを聞いたのじゃ?」




 はい。確定です!(笑) 『いたらしい』ってのは知ってたから、カマかけてみたんだけど。まさかこんなに簡単に引っかかるとは……。


 やっぱり義弘さん(この人)に、外交時の条件交渉とかは任せらんないね。




「どこでもよろしいではありませぬか? なぜそのように気になさるのですか?」


「い、いや、根も葉もない噂話が広まっては困るからの」


「へえ? では、父上、薦野こもの神五郎という名前に心当たりは?」




 これを聞いた義弘さん。目を白黒させていたけど、流石は戦国大名だ。すぐに、覚悟が決まったのか、一度天を仰ぐと、大きく一つ息を吐いて話し始めた。




「この佐倉の城を作った折、雇った女中の中に『春』と申す者がおっての……。」




 だいぶ長い話になったんで要約すると、佐倉城は下総や常陸に所領が広がってから里見の拠点として整備を始めたんだけど、最初は義弘さん、単身赴任だったんだ。


 だって、佐倉は前線に近いわけだし、完成にも時間がかかる。少なくても完成するまでは危険すぎて妻子は呼び寄せられないじゃん?


 で、その時に女中として奉公に上がってた『春』さんとやらに手を出しちゃったんだって。


 あ、ちなみに『薦野神五郎』は、春さんのお父さんね。



 義弘さんは『人恋しくなった』とか、いろいろ言い訳をしてたけど、それはまあいいや。だって、問題はそこじゃないんだよね。



 俺は言い訳を続ける義弘さんが一息つくのを待って、こう返したんだ。




「で、母上は、そのことをご存知なのですか?」


「…………」


「父上、当家は出奔していた義政殿(叔父上)に頭を下げて戻ってもらわねばならぬほど、親族関係には不自由しているのですぞ? そんな中での父上の実子、これほど貴重な存在がおりましょうか?」


「う、うむ」


「一刻も早く正室である母上に認知していただかなくては」


「いや、しかしだな、薦野家は家格が足りぬゆえ……」


「父上! 今はお家の一大事ですぞ? このまま行けば、20年後には領地はあっても治める人がいなくなりましょう。いくら戦に勝とうが、それでは、いずれ里見家は崩壊いたします。身分うんぬんを言っておる場合ではございません。心を込めて話せば、きっと母上もわかってくださいましょう」


「確かに梅王丸の言う通りかもしれぬ……。では、早速、()に話して……」






「その必要はございませぬ」




 義弘さんの話を遮るように声がしたかと思うと、奥の襖がスッと開いた。



 そこには、松の方さん(母ちゃん)が立ってた。


 ……能面のような笑顔を貼り付けてね。




 俺はそんな松の方さんが、襖の奥の暗がりからヌッと出てくるのを正面から見てたわけよ。


 怖くなかったか、って?



 怖いに決まってるじゃん! 思わずちびりそうになったよ……。




 …………ごめんなさい、私は嘘をつきました。ホントはちょっとちびりました。





 そんな松の方さん、義弘さんの首根っこをむんずと掴むと、俺に向かってにっこりと微笑み、こう言ったんだ。




「梅王丸殿。このような大切なことをよくぞ気付いてくれましたね。この母は嬉しく思います。さて、母はこれから、父上と大変重要な話し合い(●●●●●●●●●)をいたします。わかっておりますね?」




 俺は、首をカクカクさせて頷くと、速やかにその部屋を出た。そう、逃げるようにね……。




「よ、よせ!! 奥。は、話せばわかる! う、梅王丸! た、助けてくれ! ぐわぁぁぁ……」




 帰りに遠くから何か声が聞こえたような気もするけど、聞かなかったし、知らなかった。知らなかったったら知らなかった!!








 この日、義弘さんが、どんな話し合い(●●●●)をされたのかは知らない。けど、後から聞いた話では、薦野さんとこの、春の方(はるのかた)さんと、息子の明星丸あけほしまるは、正式に佐倉城に引き取られることになったんだって。



 まあ、めでたしめでたし、かな?







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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[気になる点] 梅王丸さま。 もうちょっと、こう……手加減というものをだね……w
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