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第74話 ある日の時空の狭間(閑話)

???


 定例のシステム監視をしていると、視界の隅に何か動く姿が映りました。やれやれ、毎日ご苦労なことですね。


 私は仕事の手を休めると、そちらに向かって歩み始めました。




「こんばんは、毎日精が出ますね」


「ああ、閻魔大王(次元管理者)さん、こんばんは」




 唐突な呼びかけでしたが、流石は酒井さん。落ち着いていらっしゃいますね。まあ、何度も声をおかけしていますので、慣れっこになってしまっただけかもしれませんが。




「今日は何を調べられたのですか?」


「ええ、日本でも香木の伽羅きゃらって栽培できるのかと思いまして」


「結果はいかがでしたか?」


「結論的に言えば可能っぽいですが、採算をとるのはちょっと難しいんじゃないかと」


「それはなぜ?」



「ええ、どうやら香木になるのは、傷ついた時とかに木が出す樹脂らしいんですよ。だから、仮に木自体を成長させられたとしても、樹脂が出ててくれなきゃ意味がないんです。


 私の『植物変換能力』だと、植物が健康な状態で変換されますんで、そこから傷を付けて香木化するとなると、一体何年かかることやら……。


 私が死ぬぐらいまで経てば、香木になってるかもしれませんが、少なくても短期的な産物にはならないでしょう。


 香木ってジャンルなら、まだ白檀びゃくだんの方が有望ですかね? でも白檀そっちも寄生植物らしいんで、恒久的に栽培するとなると……。やっぱり厳しそうですね」



「なるほど、いろいろ大変ですね」



「ええ、でも、ジャガイモとサツマイモも本格的に普及し始めましたんで、飢饉対策や寒冷地向けの食糧確保の目処めどは立ちました。


 それに、メープルシロップは軌道に乗ってきましたし、伊豆諸島ではサトウキビの栽培も始めました。


 おかげで、当座の資金は何とかなりそうです。こんな具合なんで、まあ、気長にやりますよ」



「そうですか、ではまた。お気を付けてお帰りください」


「はい! 義重さんにもよろしくお伝えください」




 そう言うと、酒井さんは現世に戻っていかれました。





 酒井さんが帰ったのとほぼ同時に、物陰から別の方が現れました。


 里見義重さんです。



 この人、「巻き込んだ酒井さん(子孫)の行く末を見極めるまでは!」って駄々をこねて、結局まだ輪廻の輪に乗ってくれないんですよね。


 ここまで来たら、することもないでしょうから、早く輪廻の輪に乗ればいいのに……。



 ま、きっと、責任感が強いの半分、私が信用できないの半分なんでしょう。



 まあ、私も強引に義重さんを輪廻の輪に乗せようとして失敗した前科がありますから、信用されないのは自業自得なんですけどね。




「閻魔! 酒井殿は帰ったようじゃな」


「はい。つい先程お帰りになりました」


「それで、何か話しておったか?」


「そんなに気になるなら、ご自身でお話になればよろしいのに……」


「馬鹿か! ワシと話してしもうては、酒井殿に余計な先入観を植え付けてしまうかもしれぬではないか!」


「でも、酒井さんは戦国時代初心者ですよ。義重さんの助言をもらえれば嬉しいんじゃないでしょうか?」



「ワシの知識は全て酒井殿に預けてある。今さらできる助言などあるものか。


 それに見てみよ! 酒井殿はワシ以上ではないか。


 ワシは義弘(父上)の酒飲みは治らぬものとして諦めてしもうたが、酒井殿はどうじゃ! 赤ん坊の段階から挑戦し続け、あの大酒飲みの父上に節酒をさせてしもうた。おかげで父上は、45を過ぎても中風にもかからずピンピンとしておる! 


 ワシが助言しておったら、このような結果を得ることは覚束なかったであろうよ。


 それだけではないぞ、閻魔よ、お主にもらった恩恵があるとは言え、里見を5か国の太守にまで押し上げおったではないか! ワシの全盛期でもそのようなことは出来なんだ。それをたった7つにして成し遂げたのじゃぞ? もはや、ワシの助言など害悪にしかなるまいて」




 うーん、これはもしかして、義重さん、結構満足してるんじゃないでしょうか? 久しぶりに、ちょっと勧めてみますかね。




「義重さん。ずいぶん酒井さんを買っていらっしゃるみたいですね」


「おおよ! 最初見た時は、正直なところ頼りない男だと思うておったが、なかなかどうして、頭が回るし、したたかではないか! 今の酒井殿には驚かされることばかりじゃ!」


「なるほど! 義重さんがそう言うなら安心ですね」


「まあ、『今のところは』じゃがな!」


「え?」


「考えてもみよ。ここまでの梅王丸(酒井殿)の人生、順風満帆にきておろう」


「そうですね。1回国外にさらわれそうになったことがありましたが、それ以外の苦難は、全て未然に防げてますね」



「うむ、おぬしも知るとおり、酒井殿はこれまでに大きな困難に直面したことがないのじゃ。


 父上や義頼が前面に出て頑張っている今は良い。しかし、父上も義頼もそう長くはなかろう。2人が身罷った後は、頼る者も無くなる。そうなってみよ、はっきり言ってどうなるかわからんぞ?」



「うーん、そんなもんですか?」


「そうじゃ! で、酒井殿が家督の重圧に押しつぶされそうになった時、活を入れるのがこのワシの役目というわけよ!」


「へ!?」


「何を驚いておる? このワシは8回も死んだ男ぞ? ちょっとやそっとの失敗では負けぬ強い心を持っておる。知識や発想では勝てずとも、これだけは『世界中の誰にも負けぬ!』と自信をもって言える」


「(そりゃそうでしょうけど)…………」



「酒井殿が頑張りすぎたせいで、今後の歴史がどうなるかは全くわからん。家康も死んでしまったしの。


 じゃが、どんな未来が来ようとも、彼ならば、本気を出せば生き延びることはできるはず。ワシはその手助けをせねばならぬ。これからも目が離せぬ。な、閻魔!」



「ははは、そうですね……」




 どうやら、この人を輪廻の輪に乗せるのは、相当先のことになりそうです……。







次話は主人公視点に戻ります。

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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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