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第71話 小田原にやってきました

天正2年(1574年)11月 相模国西郡(※足柄下郡) 小田原城



 こんにちは、安房国主 里見梅王丸こと酒井政明です。

 

 今日は小田原に来てるんだ。現代とは比べものにならないけど、流石にこの時代でも小田原は都会だったよ。どんな贔屓目で見ても、小田原に比べたら佐貫とか久留里とか『村』だよ『村』!


 こっちは普段、しょぼい里見の城下町しか見てないから、現代知識がなかったら圧倒されちゃったんじゃないかな?


 よくもまあ街ですらこんなに差があるのに、義堯さん(祖父ちゃん)義弘さん(父ちゃん)も、北条と戦い続けようと思ったもんだよ。もしかしてこれが噂の『夜郎自大』ってヤツかな?



 え? 何で小田原に来たのか って?



 北条氏政さんと鶴姫さんへの挨拶だよ。



 小田原で結婚式をするのかって?


 おいおい。俺たちまだ6歳と8歳だよ? 今、結婚してどうするよ!


 義弘さんは(どうやら氏政さんも)、さっさと結婚してもらいたいって意図がありありだった。だけど、この年齢で結婚したって良いことなんてないじゃん?



 親睦が深められるって?


 あのさ、彼女は8歳で親元を離れて、敵地(※だった)所、しかも、ど田舎に連れて行かれるわけよ。そんな状態で親睦が深められると思うかい? 俺は、親睦どころかトラウマが深まるだけだと思うよ?


 結婚させるからには子孫の誕生を期待してるんだとは思うんだ。けど、関係が険悪じゃ、できるものもできないだろ? そもそもこの年齢じゃあ、それ以前の問題だしさ!



 そんなわけで、この話を持ってきた義弘さんに抗議して、婚姻同盟じゃなく、まずは普通の人質交換に変更してもらった。



 ちなみに、この提案、氏政さんも渋ったみたい。だけど、瑞渓院さん(母親)


「せっかく里見が条件を緩くしてきたというに……。氏政(左京)殿は鶴のことがかわいくないのかえ!?」


って叱られたんだって。



 何でそんなことまで知ってるのか って?


 隼人が面白おかしく話してくれたからだよ!




 でも、人質の適任者がいないんじゃなかったのかって?


 無理矢理出したんだよ!


 義弘さんが以前、殺そうと(●●●●)したせいで、常陸に逃げてた義政(叔父)さんに謝罪して呼び戻した。で、その息子で俺にとっては従兄弟にあたる義滋よししげさんって人に、「必ず取り立てるから」って約束して人質になってもらったんだ。


 ちなみに、北条からは氏康さんの甥で養子の氏光さんが来ることになったよ。



 この顔ぶれを見ればわかると思うけど、重要な同盟の人質としては、誰が見ても軽い(●●)よね。


 だから、追加で「元服に併せて、鶴姫さんが俺と結婚する」って約束で婚約を組んだ。そして、結婚するまでは俺が年に2回以上小田原を訪問する、って条件も加えたんだ。


 で、今日はその記念すべき1回目ってわけ!












―――――――――――――大広間―――――――――――――








 高座の氏政さんを筆頭に、大広間に勢揃いした北条の一門、重臣たち。俺はその間を悠々と歩き、氏政さんの前に進み出た。




「お初にお目にかかります。里見義弘(左馬頭)が長子、里見義頼(刑部大輔)が嗣子、梅王丸と申します。北条氏政(左京大夫)様には、御機嫌麗しく。また、私どものために、このような機会を設けていただき、恐悦至極きょうえつしごくに存じます」




 顔を上げると、みんな口を開けて固まってた(笑)


 まあそうだろうね。だって、小1か幼稚園児ぐらいの子がいきなり大人顔負けの口上を述べだしたんだもん。しかも、礼法は完璧。小笠原流家元(?)の秀清さん(師匠)のお墨付きだよ。普通だったら驚くよね?


 それにしてもこの“石化”、思ったより長引くね。解けるのを待ってるのも何だから、取りあえず先に進めちゃおう。




「お近づきの印として、我が領地安房の産物を持参いたしました。些少なれどお納めいただきたく存じます」




 俺はこう言うと、ふところから目録を差し出した。ちょっと間があったけど、意識を取り戻した氏政さんが小姓に小声で「ほれ、早く行かぬか!」って声をかけてくれたから、手を伸ばしたままプルプル震えずに済んだよ(笑)


 小姓から目録を受け取った氏政さん。それを開いて思わず声を上げた。




「鯨肉50樽に、干椎茸ほししいたけ1俵、米100俵か、それに女衆には真珠100粒とな!」


「安房は田舎()なもので、土地のものしかございませぬ。雅な北条家の方々のお気に召すかはわかりませぬが……」


「何をおっしゃるか! 鯨肉や椎茸はもとよりじゃが、米は噂の『里見米』であろう。ワシも伝手で口にしたことはあるが、一度あれを食うてしまうと、ここいらの米では味気なくてな。貴重なものをありがたいことじゃ。そのうえ女房衆まで気を遣っていただいて、礼を申し上げる」


「御息女の鶴殿は、将来私の妻となるお方。ご本人はもとより、御姉妹、御隠居様に礼を尽くすは当然にございます」


「……梅王丸殿。そこもとは本当に7つか?」


「永禄11年(※1568年)の2月生まれでございますので、確かに今年で7つでございますが。それがいかがなさいましたか?」



「……なんと! ワシも子だくさんで、それなりに子どもを見てきたが、7つにしてこのような子を見たことはない!


 幻庵(宗哲)殿。北条氏康(大聖寺殿)様も含め、色々な子を見ておりましょう。幻庵殿の目から見て、梅王丸殿はいかがでござるか?」



「いや、氏康様は元服なされてからは目覚ましい才覚を発揮なされた。しかし、幼少のみぎりは内気で武家の大将になるとは、とても思えませなんだ。この老いぼれも長く生きてきましたが、梅王丸殿ほどの子は見たことがございませぬ」


「幻庵殿。まことか!」


「はい。氏政(ご当主)様、思いがけず良いご縁を結ばれましたな」


「……うむ。そうじゃな」


「よろしいでしょうか」


「梅王丸殿、いかがなされた?」



「名高き幻庵様にお褒めに預かり誠に恐悦至極。しかし、若い時に『神童』と呼ばれていても後世に名を残せぬ者はたくさんおりまする。言わば『十で神童、十五で才子、二十過ぎたら只の人』でございます。


 今の私は挨拶ができるだけの小童こわっぱ。何を為したわけでもございませぬ。北条氏康(大聖寺殿)様を始め、偉業を成し遂げられた皆様と比較されるなど、烏滸おこがましきことにございます」



「……本当に鶴は良い婿を持ったようじゃ。さて、梅王丸殿、今日は着いたばかりで疲れておろう。二の丸に部屋を設けたゆえ、今日はゆるりと休まれよ。鶴との顔合わせは明日にいたそう」


「お心遣いありがとう存じます。鶴殿にもよしなにお伝えくださいませ」


「ところで梅王丸殿、こたびの滞在は10日と聞いておるが、何かしたいことはありますかな?」



「田舎者の私としては、小田原の街を見られたことで十分嬉しいのですが……。


 あ! そう言えば、相模や伊豆には自然に湯の湧き出す場所があると聞いたことがあります。ぜひ一度は見て……。いや入ってみたいです! ……無理でしょうか?」



「そのようなことであれば、お安いご用。当家で護衛を付けるので、箱根でも熱海でも湯河原でもお好きな場所を回ってこられよ」


「良いのですか!! ありがとうございます!!!」




 やった! 今生で初めての温泉だ! 本当に来て良かったよ!!!









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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] やはり温泉はすべてにおいて優先される……ッ!!w
[一言] 賢くもある意味恐ろしい敵対勢力だった跡継ぎに対して、往々にしてこれから敵対せずに済むから喜ぶか、当主になったらこっちが滅ぶかと勝手に怖がって暗殺に回すかのどっちかだけど、肝心の暗殺要員の風魔…
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