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第68話 第3次国府台合戦の戦後処理

 天正2年(1574年)7月 下総国印旛(いんば)郡 佐倉(鹿島)



 こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。


 今日は、佐倉(鹿島)城に来てる。「論功行賞の前に、一門だけで話したいことがある」って、義弘さん(父ちゃん)に呼び出されたんだ。



 あ、大々的に『論功行賞』を行うってとこからもわかると思うけど、あの合戦は里見の大勝利だったよ。




 ちなみに俺が帰った後のことなんだけど、榴散弾の攻撃で北条()が大混乱に陥ったところに総攻撃をかけたんだって。


 普通は川を挟んで対峙してれば、守る方が圧倒的に有利のはずなんだ。けど、砲撃で多数の人間がバタバタ倒れるのを見て、完全に兵士が浮き足立っちゃった。そこに総攻撃をかけたんで、大した苦もなく対岸の陣地を占領できたらしい。



 それに加えて北条方は、里見うちを嵌めようとして、2時間前ぐらいからずっと軍を機動させてたんだって。そのせいで、陣形が崩れてる上、みんな疲労が溜まって動きも悪かったみたいなんだ。


 そんなこともあって、戦線に穴が開いちゃってるのに、フォローに回る部隊を上手く運用できなかった。


 里見方は疲労も少ないから、築いた橋頭堡を起点にどんどん北条陣の裏に回りこむ。


 士気の高い北条一門や譜代の将兵は何とか持ちこたえようとしたみたいだけど、外様衆はそうはいかない。外様衆の陣から徐々に戦線が崩れ始めた。



 さらに北条にとっては間の悪いことに、その時、氏政さんの本隊は、正木時通さんの死で生じた隙を突こうと、葛西城(本陣)から出て南側に動いてた。北側に陣を張ってる諸将から見ると、江戸方面に撤退を始めたようにも見えたんだろうね。各所に動揺が広がってたみたい。



 そんなタイミングを逃さずに、仕込んである風魔衆(二重スパイ)わめいた。


北条氏政(左京大夫)様、江戸城に撤退を開始しました!」


 普通だったら笑い飛ばせば済む程度の流言なんだけど、戦線が崩壊しようとしている現状だ。俄然真実味を帯びてくる。北条軍のうち戦線の北側に位置する部隊は大混乱に陥った。


 北条綱成(地黄八幡)さんあたりが健在なら、もしかしたら何とかできたのかもしれないけど、前日に受けた矢傷の治療のため、息子の氏秀さんに指揮を譲って川越に退いてたらしい。こうなると、もう里見の進撃を止めるすべはない。北条方は全戦線で撤退もしくは敗走を始めたってわけだ。




 こんなわけで、この日の戦闘は、里見の地滑り的な勝利になったんだ。でも、結論から言うと、氏政さんを追い詰めるとかはできなかった。



 なぜかって?


 戦いが始まったのが、午後だったからだよ。流石に日没後に敵地で自由行動はできないからね。その日にできたことは、葛西かさい城を占領するまでだった。


 これが、第二次国府台合戦(前回)みたいに早朝からの戦闘だとすると、一気に相模の国境くにざかいぐらいまで蹂躙できたのかもしんないけど……。


 戦闘はタイミングも大切だね。また一つ勉強になったよ!



 それからの半月ほどで葛飾かつしか郡から北条方を一掃することができた。そして、元城主がいたこともあって武蔵の江戸城、岩付城も獲れた。けど、里見の進撃はそこまでだった。



 半月もかかっちゃうと北条方も立ち直ってきたんだな。ここで戦線が膠着しちゃった。


 流石に、これ以上対陣してても農地が荒れるばっかりだから、お互い“休戦”っていうことにして兵を退いてきた。今はそんな感じ。


 当然、抑えの兵は置いてあるよ。“和睦”じゃなくて“休戦”だからね!



 戦果がしょぼいんじゃないか って?


 これがそうでもないんだな!

 実は葛飾かつしか郡って1郡だけで、石高に直すと25万石もあるんだ(※江戸時代)。北の方は簗田やなださんの領地だから、全部が里見うちの物になったわけじゃない。でも、北条から20万石分がうちに移動したって考えれば、差し引きだと40万石差になるよね。こう考えるとデカいでしょ?


 それから、今回の戦では、佐竹からも領地を奪ってるし、裏切り者の領地を減封できる(※みんな頑張ったから改易はできなかったよ)から、里見うちが自由にできる土地はかなり大きいんだ。



 だから、今回の『相談』では、その分配のことを話そうってことなんだろうね。


 ……でも、俺まだ6歳だよ? 相談するにしたって、義継(義父)さんだけで良いんじゃないかな? どう考えても俺、要らないよね。うーん、ホントに何で呼ばれたんだろ?










「2人とも遠くから大儀であった。諸将に先んじて、今日わざわざ集まってもらったのは、こたびの戦の後始末(●●●)を相談したいと考えたからじゃ。まずはワシの腹案を話すから、2人とも忌憚のない意見を聞かせてもらいたい」


「はっ!」

「はい!」


「うむ、よい返事じゃ! まず義継。そなたには、安房に替えて、下総の葛飾郡と相馬郡を任す。葛飾郡は戦で荒れた所も多かろう。必要な資金や兵糧はいくらでも出す。遠慮せず勘定方に申しつけよ」


「はっ!」


「本領から動かすことは申し訳なく思っておる。しかし、今は重要な前線を任せられる将がそなたぐらいしかおらぬのだ。こらえてもらいたい」


「わかっております。正木憲時(大膳亮)正木時通(左近将監)が、討死とあっては致し方ございますまい……」


「うむ、その正木大膳家じゃ。憲時の死で後継が絶えてしもうたな」


「はい。大膳家出身の妻も大変嘆いておりました」


「そこでじゃ、そちに後見を任すゆえ、千寿丸を大膳家の養子に入れてもらえぬか?」


「それは願ったりでございます。妻も喜びましょう。それにほれ、私の世嗣はここにおります梅王丸にございますれば」


「そう言ってもらえると助かる」




 ここまで話すと義弘さん(父ちゃん)は、こちらを向いた。




「さて、梅王丸。そなたには、今までの所領に加えて、佐貫領を含む上総天羽(あまは)郡と、安房1国を任す」


「へ?」




 俺、思わず間抜けな声を上げてちゃったよ。


 だって、いくら小さいとは言え、満6歳の子どもに1国はないでしょう!? 流石にやり過ぎだから、ちょっと意見しないと!




「父上! いくら何でもそれは、私を買い被りすぎではございませんか? 7つ(※数え)の子に1国を任せたとあっては、『里見(我ら)に人材なし』と隣国から侮られます。義継(義父)様もそう思いましょう?」



「いや、私は義弘(副帥)様に賛成だな。梅王丸の業績は誰が見ても明らか。それに、後任が梅王丸であれば、軌道に乗り始めた捕鯨も造船も安心して任せられる。


 義弘様よくぞご決断なさいました!」



「うむ! 義継もそう思うであろう! それにな、梅王丸よ、こたびの戦で、栗林義長(下総守)白井浄三(浄三入道)はめざましい手柄を立てた。彼らはお主の家臣であろう? その褒美はどこから出すのじゃ?」


「あっ!」




 確かに! 自分自身は参戦してないから、参戦した家臣に褒賞を与えなきゃいけないってことを忘れてたよ!


 今回の話で言えば、浄三師匠は幕僚として北条の奇襲を見抜くなど大活躍だった。


 義長はもっと凄い。戦場での働きも目覚ましかったんだけど、多賀谷をペテンに掛けた時にも活躍した。それに、義長に褒賞を与える時は、岡見家にも同量を渡さなきゃいけないから、実質倍の褒賞が必要になるんだ。


 それだけじゃない。これは俺と義継さんしか知らない秘密なんだけど、とうとう北条に愛想を尽かして風魔小太郎が下ってきたんだ。これで、北条の間諜網を完全に乗っ取ることに成功したわけだ。これは、単純に考えれば喜ばしいことでしかないんだけど、風魔衆全員の俸禄をポケットマネーで出せるかって言ったら、まず無理だ。


「なんて阿呆なことを言い出すんだ!? この人たち!」なんて思ってごめんなさい。阿呆は俺だったよ!



 表情をくるくる変える俺を見ながら義弘さんは続ける。




「ふふふ、賢しいとは思っておったが、そういうところに頭が回らぬのはまだまだ子どもじゃな。


 それに、『任せる』とは言っても、1国全てを差配できるわけではない。例えば、正木堯盛(淡路守)加藤景信(伊賀守)の所領はそのままぞ?


 ま、彼ら2人は与力として付けるゆえ、彼らの話によく耳を傾け、よく学び、そしてよく治めよ。それでも困ったことがあれば、いつでもこの父に申すのじゃぞ!」



「はい!」




 いやー、「俺、要らないんじゃね?」なんて思ってたけど、これは呼んでもらえて良かったよ。いきなり「1国を与える」とかだもん。説明してもらわなかったら、間違いなくパニックになってたね。




「よし! 納得したようで何よりじゃ。ではここから本題に入るぞ」




 は?




「義継、梅王丸。その方らの意見を聞きたい。ワシは北条(●●)と同盟を結ぼうと思う」





 はあああああああああああ!?












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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] 北条との同盟は至極真っ当な意見だけど 蛮人父ちゃんがそれを言い出した事にビックリだよ
[良い点] 敵対していた北条と同盟し、 同盟を裏切った佐竹を討つ。 まともな外交戦略が整いました。 [気になる点] 里見は佐竹を平らげて常陸へ進むとして、 同盟相手の上杉・武田・里見に囲まれた形の北…
[一言] 北条さんと同盟なんて…あの人確かに有能だけど忠誠値低いとすぐに寝返るからなあ。 いや間違いなく有能なんですよ北条さん。
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