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第67話 新兵器投入

天正2年(1574年)5月25日 午後 下総国 太日川ふとひがわ河口付近



 こんにちは、みんなお久しぶり。天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。


 今日は、義弘さん(父ちゃん)の陣地に新兵器を届けに来たんだけど、いきなり両軍が激突してるからビックリしたよ。


 だって、最初に義継(義父)さんとかから聞いてた作戦は、『誘い出して叩く』だったはずなんだよ?


 里見(こっち)は台地上で地の利の良いところに陣取ってる。それに前に大きな川も流れてるわけじゃん。だから、正面から攻めてきたら普通に攻撃を加えるだけで、相手は大損害なんだよ。下手したら半分ぐらいの兵力だって粘れるかもしれない。10年前にやられた間道を使っての奇襲とかを警戒してれば、そうそう負けることはないんだ。北条氏政(相手)が阿呆ならこれだけで決着が付いちゃうかもしれない(笑)


 まあ、そんなことは常識的には考えにくいから、きっとそのまま膠着状態になるだろう? そしたら、第2作戦だ。今回持ってきた新兵器の一つを使って小金城に攻撃をかけるんだ。で、北条の主力を釣りだしたところで、別の新兵器でコテンパンに叩く計画だったんだ。


 それがいきなり戦闘になってるんだよ。誰だって驚くよね。しかも負けてるのは、川を渡った里見方(こっち)の軍じゃん! 何で先に手を出しちゃってるの⁉︎


 どう見てもこのままだとヤバいから、さっき慌てて正木堯盛さんが救援に駆けつけてった。



 一瞬焦ったけど、堯盛さんたちの船が間に合ったから、もう大丈夫! ほら、使う順番は変わっちゃったけど、新兵器その1その2が大活躍してるよ!


 それは何かって?



 まず、新兵器その1はね、河川用ガレー船だよ。


 船底を平たくして、水深が膝丈ぐらいまであれば漕げるようにしたんだ。これで、大きい川なら渇水期でも余裕でガレー船が動き回れる。構造上、船速や安定性は落ちちゃったけどね。


 だから小金城に北条が援軍を差し向けたら、これを使って川の上から散々攻撃してやる予定だったんだ。



 そして新兵器2ね。これは凄いよ。何と榴弾だよ!


 そんなもの、この時代に無かったんじゃないって?


 それが、あったんだよ! ただし、凄く原始的だよ? 弾の構造はね、中身がくりぬかれた鉄球の中に、火薬と金属球を詰めるんだ。そして、元から開いてる穴に木の筒で蓋をする。で、最後に筒の中に導火線を通してできあがり。


 こんな原始的な構造だから、不発や暴発の可能性もかなり高いし、火薬を馬鹿食いするから正直使いたくないんだ。けど、今回に限って言えば背に腹は代えられないからね。


 技術流出のおそれはないのかって?


 そりゃあるよ。でも仕方ないじゃん!

 だって、これ、軍勢の規模から言ったら、“三方ヶ原”以上の大勝負だよ? 秘匿して負けるんなら、多少流出しても勝てる方を選ばない? 


 でも、一応保険はかけてるよ。北条方として従軍してる風魔の人たちに、不発弾回収のお願いをしてるんだ。1個につきいくらって歩合を決めてね。




 ちなみに、今は出してない新兵器3は、小笠原秀清(お師匠)様にマニラで買ってきてもらった臼砲だよ。


 本当は、最初にこれで小金城にバンバン榴弾を撃ち込む予定だったんだけどね。


 炸裂する砲弾なんか撃ち込まれたら城が酷いことになるだろ? そうすれば、城主の高城胤辰たかぎたねときさんは、北条氏政(親分)さんに必死で助けを求めるよね。それで、慌てて救援に出てきたところを、さっき言った榴弾で狙い撃ちする予定だったんだよ。



 釣り出せなかったら?



 そん時は小金城が見殺しにされるってことだから、北条の求心力はだだ下がりになるよね? そうすれば、武蔵国内でも国人衆の離反が相次ぐようになるんじゃないかな?


 それに、小金城が落城すれば、市川から関宿まで、太日川……。あ、これ今の渡良瀬川+江戸川のことね。その太日川の東側に北条の味方がいなくなるんだ。大きい川ってかなりの移動障害になるから、自動的に防衛も簡単になるんだよね。それにこっちには川用のガレー船もあるし。


 こうなったらもう簡単に負けることはなくなるから、釣り出せなかったとしても里見家うちに損はないんだよ。




 おっと、いけないいけない。戦局はどうなったかな?


 お、実際に見てると、榴弾、思ったよりちゃんと爆発してるっぽい。人がバタバタ倒れたり、逃げ出したりするのが見えるからね。


 何でそんなに曖昧なことを言うんだ だって?


 いや、俺の乗ってる艦は河川仕様じゃないから近づけないんだよ! それに俺まだ6歳だよ? 戦場じゃ足手まといにしかならないじゃん。



 じゃあ何で来たんだ って?


 来なくて済むんなら来たくなかったさ。流れ弾とかで死にたくないじゃん? でも、砲弾の仕様を完全に理解してるのは、今のところ俺とスペイン出身の砲手だけなんだ。つまり俺以外、まともに日本人に説明できる人がいないんだよ。だから、最初の予定だと、砲の運び方、組み立て方、設置場所なんかをレクチャーしたら、砲手を置いてさっさと帰る予定だったんだ。とんだアクシデントだよ! あーあ、これはもしかしたら一泊コースかもね。




 あ、国府台城からどんどん人が下りてくる。これは総攻撃に入ったね。ガレー船の何隻かは川を遡り始めてるみたい。味方の渡河を援護射撃するのに、川沿いの北条方陣地を砲撃するんだろうね。


 あれ? 半分ぐらいの船は海岸線を西に向かってるよ?

 まさか! もしかして、利根川に向かった!? 退路を断つ気だよ! 流石は堯盛さん! えげつないねぇ!!




「坊ちゃん!」


「わぁ! ビックリした!! どうしたの? アフォンソ」


「『どうしたの?』じゃねぇですよ! お楽しみのところわりぃですけど、今日はもう帰りやすぜ!」


「えー! これからがいい所なんじゃん!」


「ダメですよ。この有様じゃあ、今日はどうせ上陸なんて出来やせん。上陸できなかったら坊ちゃんのできる仕事なんてえでしょ?」


「そりゃそうだけど……」


「それに『必ず今日中に佐貫にお連れするように』って、俺ら、正木隆盛(正木のお頭)様から念を押されてるんです。坊ちゃんの我が儘に付き合ってたら、お頭様から叱られちまいます」


「ちぇ!」


「わかりやしたね。じゃあ出発しますよ。 オマエラ、シュッコウダ! イカリヲアゲロ!」


「「「「「「「「おう!」」」」」」」」




 あーあ、ちょっと残念だけど仕方ないね。


 え? さっきと話が矛盾してないかって?


『来なくて済むんだったら来たくなかった』って気持ちは変わらないよ? でもさ、実際に、市川ここまで来ちゃってるんだ。せっかく来たのに、そのまま帰ったんじゃ、ただの無駄足じゃん? だから、結果ぐらいは見届けて帰りたかったってことだよ。


 ま、どうせ近々来なきゃいけないんだ。そん時にまとめて詳しく聞くことにするよ!


 










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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
榴散弾というものが、この時代にはもうあったのには驚きました。 焙烙火矢あたりとはまた、用途や効果が違うのでしょうか。(無知ですみません) 様々に登場する武器や船などが面白いです。
[一言] >火薬と金属球 コストを考えたら黒曜石を砕いて入れるとか、殺さず無力化するなら真似できない植物量産チートで食えない実をキャロライナ・リーパーに変えて詰めるとかで決戦兵器になりそうだなあ …
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