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第59話 急転 ※地図あり

後書きに勢力図を掲載しました。

 天正2年(1574年)3月 上総国天羽(あまは)郡 佐貫城




 こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。今、かなりやばいことが起こってるよ。



 甲相同盟(武田北条同盟)


 それは、風魔衆からの情報どおりだったよ。それだけなら良かったんだけどね。


 実は、里見家こっちは先に情報をつかんでたから、武田に「北条と同盟組むとかしないでしょうね?」って、何度も確認してたんだ。そしたら、いけしゃあしゃあと、「そのようなことは天地神明に誓ってないから安心召されよ」とか言ってたの。



 ところが、2月になっていきなり使者が来て、


「武田家は大悪人信長を討つべく、苦渋の決断として北条と同盟を結んだ。ついては、里見・北条の両者と同盟している武田(当家)が和睦を仲立ちして進ぜよう」


って言ってきた。



 いや~、武田の“天地神明”って何なんだろうね!

 しかも、里見家こっちは武田が信玄さんの死を隠してるのも知ってたから、よけいに悪かった。


 義弘さん(父ちゃん)もう怒ったのなんの!


 使者に向かってこう言ったんだ。




「……仲立ちじゃと? よくもまあ、そのようなことを言い出せたものよ。結構じゃ!! 『天地神明』とやらに誓った舌の根も乾かぬうちにげんを翻すやからに仲立ちなどできるはずがあるか!

 四郎殿でも高座の中央に据えてある逍遙軒しょうようけん殿でも構わぬ。帰ってこう申し伝えよ!

『そこもとに仲立ちしてもらうくらいなら、稚児に遣いを頼んだ方がよほど役に立つ』とな!


 それにしても、まさか、ここまで信用のおけぬ連中と盟約を組んでいたとは! 全くもって己の不明を恥じるばかりじゃ! 我らは真の阿呆であったわ!


 手切れ? おおそうよ! 手切れで結構! 清々するわ!!


 申しておくぞ! 仮に今後北条と盟約を結ぶことがあっても、武田と結ぶことはない! 儂の目が黒いうちは絶対にな!!


 おおい! 使者殿はお帰りだ!! 儂の我慢が続いているうちに、さっさとこの男を城から叩き出せ!!!」




 義弘さん。“史実”では、じっと我慢してたはずだったんだけど、この世界線では、思いっきり爆発しちゃった。



 こんなことになっちゃった原因?


 あるよ。それも1つじゃないね。


 1つ目は、里見家うちが情報弱者じゃなかったこと。

 裏がとれてるにもかかわらず、臆面もなくウソつかれたら誰だって腹立つよね。


 2つ目は、嫡流で高名な信玄さんから、傍流で無位無冠で若年の勝頼さんに代替わり(※隠蔽中)してたこと。

 信玄さんだったら年齢も官位も上だし、鎌倉以前から名流、甲斐源氏武田家の嫡男だ。それに対し、勝頼さんは、義弘さんより一回り以上若い。その上、一度、諏訪家に養子に出た身分だし、無位無冠だ。朝廷から正式に左馬頭に任じられた義弘さんと違ってね。『目下のヤツから侮られた』ってなったら、やっぱりムカつくよね。


 3つ目は、武田に頼らなくても何とかなるだけの国力と自信を付けちゃってたこと。

 “史実”だと、この当時の里見家の勢力範囲は、安房全土と上総の大半に下総の一部。石高に直すと50万石に届かないぐらい。それに対して現在は、安房・上総の全域と下総の7割、常陸の南半分で100万石を超えてる。50万石じゃ正面切って戦ったらすぐに潰されて終わりだけど、100万石あれば、腹立つ相手にペコペコしなくても、何とかなっちゃう。


 こんな諸条件が重なっての大爆発だったんだろうね。



 何はともあれ、甲相同盟が結ばれたってことは、北条がほぼ全力で東に向かってくることは確実だった。加えて、義弘さんがキレて甲房同盟(武田里見同盟)を破棄しちゃったから、武田の仲介や牽制もない。ってことは『ほぼ全力』から“ほぼ”が取れちゃうってことなんだよ。


 同時に越相同盟(上杉北条同盟)は破棄されたけど、上杉謙信さんは北陸でのいくさが忙しくて、今は越山してくる余裕がないはず。だから、自分たちで何とかするより仕方がないんだ。


 ね、まずいだろ? こうなったら、俺としても全力を上げないといけないね。


 幸い、先日小笠原秀清師匠の使節団が天神山に戻ってきたから、不足気味だった物資も揃った。里見家の勝利のために、新兵器実用化、頑張んなきゃ!







「隼人、北条の動員は進んでる?」


「はい。各所で陣ぶれが出されております。こたびの攻撃目標は関宿城となる由にございます」


「最重要拠点を抜きに来たか……」


「はい。関宿を落とせば我らの南北の繋がりに大きな楔を打てまする。また、藤政(公方)様を弑逆しいぎゃくすれば、我らが神輿を失うと考えておる由にございます」


「その通りだから困っちゃうよね。じゃあ、武田の動きはどう?」


「武田はどうやら、物資を伊那谷方面に集めておる様子。西方への出陣を考えてのものと思われます。美濃もしくは三河方面が主戦場になるのではないかと」


「じゃあ、こっちには主力は来ないかな? 小源太。北関東の諸将の動きはどう?」


「はい。藤政様、簗田様からの書状も回ったようで、ほとんどの諸将が動員をかけ始めました。特に近在の結城家、小山家、そして旗頭たる佐竹家の動きは活発でございます」


「じゃあ、そっちの援軍はちょっとは期待できるかな? 2人ともありがとう! あ、これ、俸禄とは別に。ちょっとだけど、これで美味しいもんでも食べてよ!」


「「ありがたき幸せ!」」




 渡した金子きんすの袋を押し頂くと、2人は下がっていった。



 実は白井浄三(お師匠)さんにも『戦気』を見立ててもらってたんだけど、風魔衆からの情報で、各家の動員とその方向性が裏付けられたよ。


 師匠は「どちらの戦気も手伝い戦の温さはございません」って言ってたから、武田が援軍で来ることはないと予想はしてた。でも、やっぱり裏付けが取れると安心するね。

 どうやら相手にしなきゃいけないのは北条だけで済みそうだよ。



 うちもかなり大きくなってるし、北条の工作はほぼ筒抜けだから、今回は謀略で裏をかかれることはないんじゃないかな?


 武田も一緒に攻めてきたら、ちょっと洒落にならないとこだったけど、北条だけなら何とか対抗できそうだ。……実は、まだ隠してる野戦の切り札もあるしね。





 北条との決戦を見込んで、義弘さんも動員をかけ始めた。今回の動員はかなり大規模なものだ。佐竹と遺恨を抱える小田氏治さんこそ留守居だけど、その他の諸将にはことごとく動員がかかった。


 我が梅王丸領からも大将栗林義長率いる500の軍勢が参加するんだよ。この500人、鯨とシイタケで潤ったお金で、武装も兵農分離も完璧。それを名将義長がめっちゃ鍛えたから、里見家屈指の精鋭になってるはずだよ。


 浄三師匠? 師匠は義弘さん直属の予定。全体を見渡して、しっかりアドバイスをしてもらわないとね!


 あと、重要な戦力がいたよ! 隼人たち里見風魔衆。彼ら約200人は北条方(●●●)として参戦するんだ。何が起こるかはお楽しみにしといてね!






 これだけ準備しとけば何とかなるかな? そんなことを思っていた矢先、思いも寄らない人が亡命してきた。名将太田資正(三楽斎)さん以下、岩付太田一族の面々だ。



 その一報を聞いた時、俺は頭が真っ白になったね! これは、猛烈にまずいよ!!



 なんでまずいかって?


 太田資正さんって言ったら、長いこと対北条の最前線に立って戦ってた人だ。

 北条への敵対心が強すぎて、北条氏康の娘婿だった長男に、岩付から追い出されちゃった過去がある。その後小田氏治さんに拾われるんだけど、氏治さんが北条に付くと、拾ってもらった恩なんか無かったみたいに、さっさと佐竹に寝返ってる。それくらい“北条憎し”で、凝り固まってる人なんだ。


 彼は直江兼続さんが「主君(謙信公)と並ぶ戦上手」なんて評価してるくらいの優れた武将なんで、佐竹家でも相当重用されてたはずなんだよ。そんな優遇されてたはずの人がなぜいきなり亡命してきたのか? 


 多分、資正さん『佐竹じゃ北条と戦えなくなった』って考えたんだろうね。


 ってことはだ。単純に考えたら、佐竹と北条が手を組んだってことだろう?









 最 悪 だ ろ !!!!


 どうすんだよこれ!?


 まだ風魔衆(二重スパイ)からの情報は入ってないから、もしかしたら違うのかもしんない。けど、俺の予想どおりだとしたら、既に相手に先手をとられてる。最悪を予想してどんどん手を打っていかないと、それこそ里見家存亡の危機になっちゃうよ。






1574年、本話時点の南関東

挿絵(By みてみん)


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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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