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第52話 10倍返し

前回の続きです。

 元亀4年(1573年)3月 上総国天羽(あまは)郡 佐貫城




 こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。



 佐竹が大変だって言ったけど、それは、別方向からの攻撃にさらされたからだよ。


 佐竹は常陸府中に集結してる里見の大軍を警戒して、常陸太田や水戸方面に主力を集めたんだ。


 これ、普通だったら真っ当な措置だと思うよ。本拠地を襲われたら大変だからね。ただし、今回は違った。


 佐竹の転進とタイミングを合わせて、手薄になった土浦方面から小田氏治さんの反撃が始まってたんだ。





 1月。この時既に、義継(義兄)さんは、精力的に動いてた。“巡視”の名目で、下総北西部から常陸南西部の領主たちを尋ね歩いてたんだ。


 このへんの領主たちは、里見に従いはしたものの、歴史的には小田家との関係が強い。だから、今回の小田氏治さんの受難については同情的だったし、全員が全員、佐竹家の振る舞いを苦々しく思ってた。そこに義継さんが、こっそりこう持ちかけたわけだ。


里見家うちの黙認の下、小田家に義勇軍を出さないか?」ってね。



 幸いにも、「里見家は佐竹と同盟を結んでいるはずでござろう!?」って、騒ぎ出す馬鹿はいなかったよ。



 え、何で馬鹿なんだって?



 いや、国人たちは、去年里見が土浦を攻撃する直前に撤退した理由を知ってるわけよ。それで、正月にあった佐竹の奇襲を見れば、ちょっと目端めはしが利く人間なら、「里見はめられた」って気付くもんだ。


 で、嵌められたら落とし前をつけないといけないだろ?


 だからみんな、「佐竹は同盟を破棄せずに、からめ手から嵌めにかかってきた。だから、里見も『裏から報復してやろう』と思ってるんだな」って理解してくれたってことだよ。


 このへんの領主たちは、秀吉が来る前に、佐竹とその一派に押されて、汲々(きゅうきゅう)としてたヤツがほとんどなんだ。だから、能力的には期待してなかったんだけど、思ったよりまともな人たちで良かったよ。




 ちなみに、義勇軍の参加条件はこんなんだった。


「1、義勇軍を出す条件は、小田家が北条と手を切ることを確約した場合とする」

「2、義勇軍の主将は1城以上を保有する一族もしくは重臣とする」

「3、義勇軍の主将は主家を出奔したものとする」

「4、勝敗にかかわらず、戦後は里見家で義勇軍の主将の身柄を預かる」

「5、希望があれば、義勇軍の主将に替えて、現在預かっている人質を返還する」

「6、義勇軍の主将には、里見家から現在の領地と同等以上の俸禄を与える」

「7、主将以外の義勇軍の将兵は、特に希望がなければ主家に帰参する」

「8、3年間は里見家で身柄を預かる。ただし傷病がある場合はその限りではない」

「9、3年を超える場合は、その場合ごとに交渉する」


 難色を示す家もあるんじゃないかと思ったんだけど、意外にも、みんな二つ返事だったんだって。


 それだけ、佐竹の所業が腹に据えかねてたってのもあるんだろうね。でも、それより何より、こんなに美味しい条件を出されちゃねぇ!



 だって、義勇軍の主将は、出奔扱いになるわけだから、領地は全部本家で接収できるじゃん?


「“義勇軍”に行け!」って命令して、領地を接収しちゃうだけだったら、ただの横暴。重大事案だけど、参加者には里見(親分)が換えの領地を保証してくれることになってる。ってことは、勝とうが負けようが、義勇軍を出した領主は“加増”されるってことなんだ。


 負けても褒美が保証されてるって、普通はないよ?



 それから、預かってる間は人質の代わりとして扱ってくれるし、参加した兵士も戻してくれる。佐竹がいちゃもん付けてきても、「○○は当家を出奔しましたので領地は没収いたした」って言い訳もできる。


 有力武将が1人手元からはいなくなるけど、里見の領内(近隣)にいるわけだから、お家の一大事には、あてにはできるはず。


 そもそもこの作戦が成功すれば、回り中里見本領(主家)とその従属領、同盟領になる。寸土を奪い合うような小競り合いは無くなるだろうから、近場にいなくても害はあんまりない。



 そんなこんなで、みんな大喜びで、乗ってくれたってわけだ。





 1月中に早くも国人たちとの交渉をまとめた義継さんは、土岐治英ときはるひでさんの江戸崎城にとどまって、土浦に撤退した小田氏治さんに秘密裏に使者を送る。


「北条と手を切って里見に従属すれば、小田城奪還のため義勇軍を出す。また、府中方面で佐竹の本隊を釘付けにする用意がある」ってね。



 密かに送り込んだ風魔衆(使者)からこの話を聞いて、氏治さん。跳び上がって喜んだ。



 氏治さんにしてみれば、佐竹が攻めてくるから、仕方なしに北条に従属したのに、ここ数年は肝心の北条が里見に押されっぱなしで、援軍どころの話じゃない。さらに、北条方の国人衆がどんどん里見に降伏して、気付いたら里見と佐竹に南北から挟撃される状況になっちゃってた。


 で、年末に里見が攻め寄せたのを撃退して、「その苦境を何とか乗り切った」って正月を祝ってたら、元旦から佐竹勢が小田城に押し入ってきて、本拠を乗っ取られちゃった。


 卑怯な佐竹には怒り心頭だけど、援軍を出してくれる味方は近くにいない。自力でやるには佐竹が強くなりすぎた。


 始祖八田知家(はったともいえ)公以来の拠点を取り返すことはできないのか。と、半分諦めかけてた矢先に、敵だと思ってた里見から信じられないような美味しい話が来たんだ。喜んだのなんの。密使に立った小源太に聞いたら、本当に跳び上がったんだって。しかも、跳ねた勢いで脇息きょうそくに足の小指をぶつけて悶絶したとかしないとか……。


 なんか氏治さんのイメージぴったりだったよ。




 そんなわけで、秘密交渉は見事に成功。仕上げに義継さんが、夜陰に紛れて船で単身土浦城に乗り込み、細部の詰めをして、決行当日を待つことになったんだ。







 2月に入り、里見が大動員をかけてる情報が流れてくると、『里見の攻勢に備えるため』と称して、氏治さんも領内に動員をかける。そして、府中方面に大軍が侵攻していることで、佐竹が動揺し始めたのを見計らって、一気に8,000の兵で小田城を急襲、予想外の大軍に襲われた小田城は1日で陥落した。


 それどころか、潰走する佐竹勢を追って、筑波の多気城、八郷地域の諸城も攻略し、ここ20年来の失地のほとんどを取り返すことになった。


 その後、府中から里見の大軍が南下してくると、義継さんに付き添われた氏治さんは、義弘さんの本陣を訪れ降伏。小田家は里見家の従属大名になった。





 佐竹義重さんにとってみれば、踏んだり蹴ったりだ。だけど、元はと言えば、里見家うちを出し抜こうと、佐竹家(向こう)が小細工をしてきたのが原因なんで、里見としては「ざまぁ!」としか言えない。実際、みんなスカッとしてたし!



 でも、これで、佐竹とは間違いなく対立することになるだろうね。北条との2正面作戦を展開しなきゃいけない可能性も出てきちゃった。短期的にはこれ以上なく上手くいってるけど、長期的に見たら暗雲が立ちこめてきたかな?


 でも、考えてみれば、佐竹と手切れするのは良かったかもしれない。だって、佐竹義重さんって、今回の味方(里見家)への出し抜き行為や、元旦の小田城襲撃。史実で行われた『南方三十三館謀殺』みたいな謀略を結構好んでやってるんだよ。肝心なところで裏切られたら目も当てられないからね!





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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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