第50話 5歳・変わらぬ歴史・変わる歴史③
元亀4年(1573年)正月 上総国天羽郡 佐貫城
「おのれ! 佐竹義重! 我らをダシにしおったな!!!」
義弘さんの怒りの叫びが広間に轟いた。
こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。
はい、案の定、義弘さん激怒でした。
何があったか?
俺たちは、昨日、三方ヶ原の戦勝を喜んでた訳だけど、実はその裏で、とんでもない奇襲戦が行われてたんだ。
元旦、年始めの連歌の会を楽しむ小田城に、佐竹義重さんが突然攻め込み、城を乗っ取っちゃった! 端から見れば「小田氏治さんの不心得ぶりを笑う」だけで済むんだけど、里見家だけはそういうわけにはいかない。
なぜかって?
だって、先月、土浦攻めのために出兵してたのに「佐竹勢は出陣できなくなった」って言われて、何もせずに兵を退いてたんだよ?
史実でも小田家は同じ手口で城を乗っ取られてる。だから、何とも言えないところではあるけど、小田氏治さんからしてみれば、『里見の大軍を退かせた』ってことで、気の緩みはより大きかったと思うんだ。そこを狙ったわけだから、狂言回しに使われた義弘さんの怒りはもっともだと思うよ。
でも、その怒りは、そのまま佐竹にぶつけるのが難しいから困ったもんなんだ。
だって、佐竹は同盟者で、小田は敵なんだもん!
「敵を攻撃したのに文句を言われる筋合いはない!」
って強弁されたら、引き下がらざるを得ない。怒りにまかせて断交でもしようもんなら、最悪、逆にこっちが悪者にされかねない。
かといって、このままにしといたら、『舐められても何にもできなかった』ってことにされて求心力が落ちかねない。これ、実はすっげー難しい問題なんだよ。
でも大丈夫。対策はバッチリさ!
ここから義継さん無双(※プロデュース俺)が始まるぜ!
「陣ぶれをだ……」
「殿! お待ちください」
「止めるな! 義継!! このような仕打ちをされて黙っておっては里見家の名折れじゃ!!!」
「まずはお人払いを」
「ぬ? ……わかった。皆の者、下がっておれ!」
家臣たちを下がらせると、義継さんは小声で話し始めた。
「出陣は構いませぬ。小賢しい佐竹めに目に物見せてくれようではありませんか!」
「ふむ、ならば、なぜ止めたのじゃ?」
「このまま出撃すれば、里見家は同盟破りの誹りを受けまする。かといって、出撃せねば、弱腰の誹りを受けまする」
「では、どうすれば良いのじゃ!?」
「はい、佐竹めが出陣を拒んだ理由は『大掾の蠢動』にございましたな?」
「そうじゃ!」
「ですから、『味方に危害を加えんとした大掾を討つ』と称し、鹿島・行方方面から府中に大軍を差し向けます。『大掾攻め』を称しているとは言え、万余の軍が北上してくるわけです。佐竹は慌てて兵を退きましょう」
「しかし、それでは、ただ慌てさせただけではないか?」
「それだけではございません。並行して小田氏治殿へは使者を送り、『北条と手を切るなら同盟しても良い』と申し伝えます。苦境の氏治殿はきっと乗ってまいりましょう」
「ふむ、しかし、里見家は佐竹とも同盟しているわけじゃ、兵は送れまい。小田氏治殿はなかなかの戦上手じゃが、単独で佐竹めに対抗するのは難しいのではないか?」
「はい、ここからがこの策の肝でございます。新参の土岐原、豊島、相馬、岡見、といった小田領近くの国人衆の一族、もしくは重臣に、兵を率いて主家を出奔していただき、義によって小田方に加わっていただきます。で、戦が終わった暁には、出奔した罰として、将は当家が監視のために預かります」
それを聞いた義弘さんは、悪い顔をしてニヤリと笑う。
「なるほど。出奔したのではいたしかたないの。……それにしても、出奔するような“悪い”連中はしっかり監視せねばならぬから、該当する国人たちからは人質を預かる余裕はないかもしれん」
義継さんが、もっと悪い顔をして返す。
「はい。“悪い”連中ですからな、暴れ具合によっては、城の1つも使って押し込めねばならぬかもしれませんな!」
「しかりしかり!」
「「わははははははは!」」
一応解説しとくけど、「『出奔』という名目で援軍に出して、事が済んだら『罪人の監視』という名目で現在預かっている人質と交代で人質にする。その上、働き次第だけど、場合によっては『城』も与える」ってことだよ。
いや~、今回の件に関しては義継さんも相当キレてたから、なかなか過激な結論になっちゃった! これで多分、近い将来佐竹と断交することになるのは確実だね。北条方の国人が減って、安全性が増したと思ってたんだけどなぁ。なかなか思い通りにはいかないもんだよ……。
まあ、この策が成功すれば、香取海全域を里見の支配下に置けるんだ。間違いなく経済は大きく発展するし、兵の配置も外周部に集中できる。考えようによってはプラスもあるんだ。こうなったら、ある物を上手く使って頑張っていくしかないね。




