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第49話 5歳・変わらぬ歴史・変わる歴史②

 元亀4年(1573年)正月 上総国天羽(あまは)郡 佐貫城




 こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。


 広間では大宴会が始まってるんだけど、俺はこっそり抜けて自分の部屋に下ってきた。だって、『浜松落城』に『家康行方不明』だぜ?


 北条の牽制が入って武田信玄(腹黒坊主)は全力を出せないはずなのに、なんでそんなことが起きるの!? あんまりの衝撃に、動揺が止まんないよ!




 とりあえず人払いをして、風間隼人を呼び寄せる。何か情報を持ってるかもしれないからね。




「隼人。三方ヶ原の(武田と徳川の)合戦の情報は何か入ってる?」


「申しわけございません。先ほど義弘(殿)様がお話になった以上のことはまだ……。」


「いや、他国のことだから仕方ないよ。じゃあ、北条の動きは分かる?」


「はい。主力は上州の倉賀野くらがのに向かっており、倉賀野城は落城寸前とのことでございます。また、小田の救援に動いた連中もおりましたが、殿が撤兵したのを知り、武蔵に戻りましてございます」


「(うん、西上野(こうづけ)に牽制はしてたと)じゃあさ、武田が攻勢をかけたのはどこかわかる? 遠江以外に攻め込んだって話はない?」


「いまのところ、遠江以外で攻勢の話は入っておりません」


「結構、確定的なんだね?」


「以前、梅王丸()様が、『兵糧の移動などを調べれば、攻撃先は予想が付く』とおっしゃっていました。ですから、隊商や高野聖こうやひじり等からも諸国の情報は集めておりますが、今回は武田の動きは遠州方面にしか現れておりません。我らの裏をかくような策士がいれば話は別ですが……。こんなことを考えつくのは梅王丸様だけでしょうから、まず間違いないかと」




 なんか誉めてもらってこそばゆいな。

 でも、この話を聞いてなんとなく予想が付いたよ! 武田信玄さんは、遠江侵攻のためにほぼ全力を投入したんだ。で、きっと他の地域は守るだけにとどめてるんじゃないかな。


 だって、本来だったら上野こうづけなら、敵が侵入したら箕輪みのわ城を中心に援軍を出し、本隊が出張ってくるまで粘るはず。なのに、それが見られないだろ?

 これは、「重要拠点だけ守り切れれば良い」ぐらいの感覚で、各地方ともにかなり兵力を引き抜かれてるね。きっと。


 あとは、史実だとこの時期、秋山虎繁あきやまとらしげさんが、信長さんを牽制するために、美濃の岩村城を攻撃してたはずだけど、それもやってる形跡がない。そっちに回す兵力も全部遠江侵攻につぎ込んだんだろう。



 そうなると信玄さんの目的は何だ?



 上洛?


 いや、違う。そんな捨て身状態で上洛なんかできっこない。



 いくら里見家うちが北条を牽制すると言ったって、今でも里見は北条の2/3ぐらいしか力がないんだ。氏政さんはその気になったら、里見への抑えの兵を置いた状態で、信玄さんの留守中に駿河や上野に猛攻をかけるだろう。そして、春になれば上杉謙信(戦闘狂)さんが信濃や飛騨に攻め込んでくるに違いない。


 織田領を1か月ぐらいで蹂躙できればワンチャンあるかもだけど、相手は信長さんだ、そんなことには絶対ならない。


 信玄さんだってそれが分からないはずがない。というか、分からないなら信玄さんじゃないよな(笑)。



 と、言うことはだ、今回の主目的は、『遠江の制圧』これだな。


 だから、今回の合戦は、家康さんの本隊をおびき出して決戦に及び、敗走する敵を追って、浜松城に付け入る。こんな意図だったんじゃないかな?


 信玄さんは“史実”では、上洛を狙ってたから、徳川方の『空城の計もどき』に引っかかっちゃった。けど、今回は浜松占領を目指してたから、武田方は一かばちかで、突っ込んだ。徳川方にとって見れば、策が完全に裏目になっちゃったんだろうね。



 まあ、信玄さんは、もうちょっとで死ぬはずだから、どう勝とうがそんなに影響はないけど、どう考えても問題は家康さんだよな。もしこんなところで死なれでもしたら、この先どうなるか予想が付かないよ!


 だめだ! 考えがまとまらないや。とりあえず、隼人との話は終わりにして、夜、閻魔大王(仮)さんのところで調べ物をしながらじっくり考えよう。


 俺は隼人に声を掛けた。




「あ、そうそう、父上たちは喜んでたけど、多分、信玄(徳栄軒)殿、長くないよ」


「! それはいかなる訳でございましょう!?」


「(おっと、いけね! 余計なことを口走っちゃった。流石に『死期を知ってる』っては言えないな)……今回の作戦、だいぶ無茶をしてると思わない? 何か妙な焦りが見えるんだよね。今まで見なかったようなさ」


「……確かに! 野戦の勝利はさておき、城への付け入りは、上手くいったから良いものの、失敗すれば無謀のそしりを受けかねませんな! 流石は若様!!」


「(誤魔化せちゃったよ! うーん。隼人も俺を盲信しすぎじゃないかな?)そんなわけで、信玄殿の動きには気を配っといてね。あと、家康殿の安否も情報があったらすぐ入れてね。あ、どっちも無理して探る必要はないから。無理して1つの情報を得るより、有為な人材を残す方がずっと重要なんだからね」


「『有為な人材』とは……! あ、有り難き幸せ!」


「うん! 今後も期待してるよ」


「はッ!!」











――――――――――――――夜―――――――――――――


「あーーーーッ!!!」





「梅王丸様! 何事でございますか!?」


「だ、だいじょうぶだよ! こ、こ、こ、こわいゆめをみただけなんだ!」


「(なぜ片言?)ならば良いのですが……」


「お、おやすみなさい!」


「はい、おやすみなさいませ」




 やっべー! あんまりビックリして自分の声で起きちゃったよ!


 1573年の正月って、あの事件があったんだ! はたから見たら爆笑事案だし、うちとは無関係だと思ってたから完全に忘れてた!


 失敗したよ! 思い出してたら、絶対義継(義兄)さん経由で警告してたのに!!


 ……それにしてもめたことをしてくれるじゃん? 確かに里見家うちとしては、怒りをぶつけづらいけどさ、義弘さんにとっては、これ、絶対激怒案件だから!


 明朝すぐにでも義継さんと善後策を練らないと大変なことになるよ!

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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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