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第46話 収入源を作ろう!②

 元亀3年(1572年)4月 安房国朝夷(あさひな)郡 和田浦




 こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。今日は義継(義兄)さんと一緒に、ガレー船5隻を引き連れて安房の和田浦に来たよ。



 目的?


 捕鯨だよ捕鯨!




 いや、房総半島って資源がほぼ無いだろ? だから、農水産物に期待するしかないじゃん。


 で、俺には植物チートがあるから、まず、シイタケをやってみたんだけど、あれ、すぐには生えてこないんだよね。

 もう生えてる別のキノコと交換することはできるんだけどさ、そもそも普通に生活してて、木に生えてるキノコを見かける機会ってどのくらいある? ましてや俺、4歳児だぜ!?


 だから、オーソドックスにほだ木づくりから始めなきゃいけなっかったんだよ。そんなわけで、シイタケが換金できるレベルで生産できるようになるには、最低でも1年以上はかかる。でも、手っ取り早くお金稼ぎたいじゃん? だから捕鯨なんだよ。




 鯨はこの時代、超高級品だ。塩漬けが献上されたことが当時の記録に残ってるぐらいだし、織田信長も好きだったらしいぞ。「鯨一頭七浦潤う」なんて話も聞いたことがある。


 でも、裏を返せば、それだけ捕るのが難しかったってのもあるんだけどね。だって、海にいる生き物だし、あんなにでっかいんだぜ? 小舟ともりぐらいしか漁具がない戦国時代に、そう簡単に捕れるもんじゃない。実際、漁法が確立してた明治期になって100人以上の遭難者を出したこともあるんだ。弱ったヤツが入江に迷い込んできて、それを取れたら『運が良かった』ぐらいのイメージなんじゃないかな?


 それを組織的にやっちゃおうってわけだ。




 普通の大名家はいくさで忙しくて、『捕鯨を組織的に行う』なんて、考えもしないだろう。


 だけど、里見家(うち)は違う。あ、忙しいのは一緒だけどね。

 他と違うのは、里見家は、今、主戦力であるガレー船は何隻でもほしい。でも、性能がバレたら効果半減だから、『決戦兵器』として秘匿したい。だだ、普通に置いといたら劣化するだけだから有効活用したい。いろんな思惑が入り混じってるところだった。で、俺が提案したのが『捕鯨』なんだ。



 ガレー船で捕鯨をやってれば、漕ぎ手としてのスキルも身に付くだろ? それに、日々劣化していく船の修繕建造費は、鯨の売却益でおつりが来る。そう考えて義継さんに話を持っていったら、めっちゃ食い気味に乗ってきた。


 北に領地を伸ばせる上総と違って、義継さんが拠点とする安房は海にしか行き場がないからね。食い気味に飛びついてくるのもよくわかるよ。これでまたちょっと関係を深められたかな?




 で、義継さんと相談した結果、選ばれたのが和田浦だった。



 和田浦は、山と海に囲まれた小さな入江で、地形は鎌倉を小さくした感じだった。鎌倉と違うのは、砂浜がほとんど存在しないこと。ここならある程度、情報の秘匿はできそうだっていう理由だ。


 本当は、内房の勝山とか富浦、外房の小湊とか、勝浦とかの方が、条件は優れてるんだ。だけど、内房だと三浦半島から丸見えで、自分から北条に情報を垂れ流してる状態になっちゃうんだよね。


「外房は」っていうと、小湊とか勝浦とか条件の良い港は、全部、正木家の勢力範囲なんだよ。正木家は今でこそ従順だけど、義重さんの記憶(前世)でも、俺の知識(史実)でも裏切った実績(?)がある。重要な情報片手に寝返りを打たれたんじゃあ目も当てられない。だから、今は和田(ここ)で我慢だね。







 和田の港は整備の真っ最中だった。山の斜面を切り拓いて、船員のための真新しい長屋が既に数棟建ってたし、港の奥には整備用のドックが建造中で、港を広げる工事もされてた。義継さんの期待の大きさがわかるよ。


 早速、名主で網元の、和田わだ角右衛門(かくえもん)さんを訪ねて、打ち合わせを始めようと思った矢先、大声で何か叫びながら、1人の男が飛び込んできた。




「鯨だ! 鯨が出たぞぉ!!!」




 場は一瞬にして色めき立った。


 角右衛門さんは、俺たちの方を向き直ると、興奮を隠しきれない様子で懇願する。




義継(お世継ぎ)様、梅王丸()様、誠に失礼とは存じますが、出漁の許可を頂きたく……」


「わかった。許す」


「おお! ありがたきしあわせ!!」


「和田の漁師の働き、この目で見せてもらうとしようぞ!」


「なんと! おめぇら聞いたか! もったいねぇことに、今日は義継様と梅王丸様が、俺らの働きをご覧くださる! 必ずアイツ()を仕留めるぜ! わかったか!!」


「「「「「へい!」」」」」


「よし! 野郎ども、出航だ」


「「「「「応!!」」」」」




 どこから持ち出したのか、角右衛門さんが法螺を吹くと、山やら海やらの工事現場から屈強な男どもがわらわらと集まってきて、一目散に港に駆けていく。そして、浜に上げていた小舟を押すと、次々に船を漕ぎ出していった。


 圧倒されている俺の脇で、義継さんがつぶやく。




「……何度見ても凄まじい物だの」


「義兄上は鯨捕りを見たことがあるのですか?」


「直接はないがな。しかし、岡本沖にも鯨が来ることがあるのだ。すると、城下の漁師どもがな、さっきのように血相変えて飛び出していくのよ」


「なるほど! でも、ここからは鯨の姿など見えませんが、どうしてわかったのでしょう?」


「うむ、あの山を見てみよ。旗が立っているであろう。山にいる物見が見つけ、あの旗で鯨の動きを海にいる漁師たちに伝えるのだ」


「おお! それでは、早速我々も出航いたしましょう!!」


「え!? いや、わざわざ出る必要は……」


「私たちも船で来ておりまする。さっき『見せてもらう』と言った手前もございます。ぜひ沖に出て、漁師たちの勇姿をこの目に焼き付けねば!」


「……………………ええい! 皆の者、出航じゃ!!!」


「「「「「応!!!!」」」」」




 義継さんはおかから見てるつもりだったようだけど、そうは問屋が卸さない。ここで船員たちに見せとけば、どんなもんだかわかりやすいじゃないか!


 ……って言うのは建前。本音は「せっかく来たんだ、こんな面白そうな物、見逃す手はない」だ!


 この時代の捕鯨、どんなもんだかしっかり見せてもらいましょ!













 ……とんでもなかったよ。捕鯨。



 鯨を見つけて近寄る。ここまではいいや。どうするのかと思ったら、みんなでもりをぶん投げるんだ。まあ、ここまでも予想どおりだった。ちなみに、銛にはでっかい魚の浮き袋が縄で結びつけてあって、外しても回収可能な親切設計(?)だったよ。しかもこの浮き袋、鯨が逃げても目印になってくれるんだ。


 問題はここからだよ、一本銛を刺せば目印ができるだろ。そしたら、こちらの体力が続く限り、みんなで舟で追い回すんだ。で、どんどん銛を突き立ててく。そうすると、だんだん鯨も弱ってくるだろ。で、最後はどうするのかと思ったら、漁師が鯨に跳び乗って(!)、とどめを刺してた。


 めっちゃ命がけだったよ。捕鯨。





 今回は鯨も捕れたし、人死には出なかった。『めでたい!』と言って良いんだろう。でも、怪我人はちゃんと3人出たけどな!


 この漁法を続けてく限り、毎回のように死傷者が出るのは避けられない。これじゃあ、産業化はできないよ!



 でも、江戸時代は大々的に捕鯨をしてたはずなんだけど、一体どうやってたんだ?



 疑問に思った俺は、鯨の水揚げに沸き立ち、皆が酔い潰れていたその晩、閻魔大王さんのところで、日本の伝統捕鯨について調べてきた。


 どうやら、江戸時代に主流になった漁法は『網捕り式』って言って、鯨を網に追い込んで、身動きを取れなくしてからとどめを刺すやり方だったみたい。絶対その方が効率的だよ!



 とりあえず、翌朝、『網捕り式』を図入りで網元に伝授しといた。網元は半信半疑だったみたいだけど、次は試してくれるって。


 半信半疑でも試してくれるのは、足が速くて網も張りやすいガレー船があるし、一度鯨を捕ってふところが潤ってるから、試す余裕があるんだろうね。




 そんなこんなで、和田浦に3隻のガレー船を置いて、俺たちは佐貫に戻ったんだ。鯨肉おみやげをたくさん持ってね。


 捕鯨の次の目標は、捕鯨銃を造れるようになることかな? そうすれば、もっと簡単に安全に捕鯨ができるようになるからね。……でも、そのためには、反射炉とか造れるようにならないと厳しいから、捕鯨銃はしばらくおあずけかな。













 1週間後、和田浦からまた鯨肉が届いたよ。なんと、和田角右衛門(網元)さんが直接持ってきてくれたんだ。


 角右衛門さんが言うには、ビックリするほど簡単に、ビックリするほど短い時間で、ビックリするほど安全に鯨が捕れたんだって。


 今までは、人死に覚悟での漁だったんで、「浦の人はみんな感謝してる」って言って、戻ってった。




 上手くいってよかったよ。江戸時代の話なんだけど、鯨は一頭4千両の利益が上がったんだって。どれだけ里見家に利益が入るのか、今から楽しみだね!









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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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