第45話 収入源を作ろう!①
元亀3年(1572年)3月 上総国天羽郡 佐貫城
こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。今日は1日佐貫城で過ごしてるよ。
あ、俺、天神山城主はやってるけど、住んでるのは今も佐貫だからね。いや、いくら戦国時代だって、何の事情も無く4歳の子どもを1人暮らしはさせないって!
だから、毎日夜には佐貫に戻ってるんだけど、毎日出かけてると、松の方さんの機嫌が悪くなるんだよ。たまには佐貫で過ごしておかないと、また外出制限されちゃかなわないからね。
だからって、のほほんと過ごしてたんじゃ勿体ない。「大きくなってきた」って言っても、里見家の規模なんか、たかが知れてるし、領内に資源が無いのは変わらないんだ。日々工夫していかないと、あっという間に転落しちゃう。だから、今日は佐貫城でもできる金儲けの下準備をしてるんだ。
さいわい(?)、攫われた後に護衛として付けられた20人の近習たちは、今もそのまま俺に付いてる。そんなわけで、それなりに人手はあるんで、人海戦術で準備を終わらせちゃう予定なんだ。
おっと、物が届いたみたいだ。宗右衛門たちも揃ってるし、さっさと指示を出しちゃいますかね。
俺は山から伐り出されてきた、大人の足ほどの太さの材木と、その前に並んだ近習たちのところへ向かったんだ。
俺が着くと、すぐに近習頭になった宗右衛門が声を掛けてきた。
「梅王丸様、この木はどうすればよろしいので?」
「ああ、120cmぐらいに切って、1本につき20か所ぐらいまんべんなく穴を掘っといてよ。ドングリが入るぐらいの大きさでね。あ、縦の間は18cmぐらい開けてね」
「え!?」
「聞こえなかった? 丸太を切って穴を開けてくれって言ったんだけど?」
「(聞き違いでは無かったか。なんで、私がこんな木こりか大工のまねごとを……)」
「(バッチリ聞こえてるよ!)宗右衛門、何か言った!?」
「いえ! なんでもございません」
「今日はこれを200本作るんだからね! 1人10本だよ。日が暮れちゃう前にさっさと手を動かす!」
「…………」
「返事は!」
「「「「「はい!」」」」」
今ので俺が「本気だ!」ってわかったみたい。もう付き合いも長いから、みんな、俺が決めたら退かないって言うのはわかってる。だから、こういう時は近習たちの動きも速い。
宗右衛門? ああ、彼はこういう一見意味不明な命令を受けた時、一度渋って俺の反応をうかがう役をしてるんだよ。一種の防波堤役かな? まあ、一番俺と付き合いが長くて、気安い関係だからね。
そんなこんなで、みんなは、ノコギリと鑿を手に、めいめい作業に取りかかっていった。
で、これ、何をしてるかって?
定番チートの『シイタケ栽培』の準備だよ。
いきなりなんでシイタケが栽培できるのかって?
シイタケは菌類、菌類は植物だよ? だから俺にとっては他の植物と交換可能なんだ。
実際、今までも、南蛮船に売るために、地べたに生えてた、名も知らぬ毒キノコをマッシュルームと交換したり、そのマッシュルームを、鍋に入る寸前にヒカゲシビレタケに交換したりしてたんだ。
じゃあ、なんで、これまでシイタケをやらなかったの?
マッシュルームは堆肥とかの土から生えるから交換するのが難しくなかったけど、シイタケは木から生えるだろ? キノコの生えた木なんか、幼児の行動範囲に転がってるかい?
だから、栽培設備を作るには、まず、木を集めるところから始めなきゃいけないんだ。
実は去年の今頃も一度チャレンジしてるんだ。その時は、松の方さんお付きの侍女さんたちに集めてもらったんだよ。で、集まるは集まったんだけど、穴を開ける人がいない。だから、しばらく放置しといたんだ。そしたら、気付いた時には薪に化けてたよ(泣)。
男手が確保できないと、やりたいことも十分できないんだよ。
そうこうしてるうちに、穴が開いたみたいだ。次の指示を出さないとな。
「若様、全て穴が開きましてござる」
「ご苦労様。じゃあ次の作業に移るよ」
「え!?」
「今度は、そこの桶に入ってるドングリを、さっきに掘った穴に入れてね、で、入れ終わったら、上からおがくずを詰めてふたをしてね」
「これはどういう意味があるのでしょうか?」
「前に鹿島に行った時に聞いたんだけど、こうすると食べられるキノコがいっぱい生えるらしいんだ」
「キノコでござるか!? キノコなど、山でいくらでも採れるではございませんか?」
「いや、山のキノコって毒のやつもあるじゃん? 私は、みんなが安心してキノコを食べられるようにしたいんだよ。それに南蛮人たちも言ってたけど、ちゃんとしたキノコって高いんだよ。ここでいっぱい作ったら、宗右衛門たちの馬代が出せるかもしれないよ?」
「なんと! そういうことは早く言ってくだされ!! 皆の衆、聞いたか? さっさと作業を始めるぞ!!!」
「「「「「「「応!!!!!!!」」」」」」」
何ともはや、「馬が買えるかも」って言った瞬間に、全員見違えるように動きが変わったよ!
おかげで、あっという間に作業が終わったんで、ドングリを詰めた木は、屋敷の裏側の日陰になる場所に転がさせておいた。
ドングリを詰めればシイタケが生えるのか?
そんなわけないに決まってるじゃん!
だから、こう念じるわけよ。
(「ドングリ、シイタケ菌に変われ! ついでに、木に付いてる他の雑菌も、全部シイタケ菌に変われ!!」)ってね。
これで、“ほだ木”が200本完成したよ。後は、待つだけ……。
おっと、いけないいけない、菌が成長した頃に木を組み直すのを忘れないようにしなくちゃね!
どれだけ収穫できるか、今から楽しみだよ。
※主人公が転生したのは2002年のことですので、現代よりも『常識』が古いものがあります。菌類を植物に分類しているのもその1つです。なお、何も疑問を持たずにチート能力を依頼しましたので、キノコやカビも植物の一種として変換対象に含まれています。




