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第43話 4歳・変わる歴史 ※地図あり

いつも誤字報告ありがとうございます。主人公は4歳になりました。


後書きに、1572年ごろの南関東の地図を載せました

 元亀3年(1572年)2月 上総国天羽(あまは)郡 天神山てんじんやま




「隼人、お疲れ様! 無事戻ってくれて嬉しいよ」


「このような者に、何と勿体ないお言葉。(ああ! 北条氏政(汁飯野郎)に若様の爪の垢を煎じて飲ませたい……)」


「(ブツブツ言ってると、完全に聞こえちゃうんだよね。それにしても鬱屈してるなぁ)で、今回のいくさはどんな感じだったの?」


「黄瀬川を挟んだ、北条氏政(左京大夫)武田信玄(徳栄軒)の本隊同士の戦は、小競り合い程度で、さして見るべきものもございませんでした。が、後詰めと見せかけて、箱根の山中に潜んでいた北条綱成(地黄八幡)の別働隊が、朝駆けにて深沢城を攻略。退路を断たれることを恐れ、信玄は甲斐に退きましてございます」


「へー! 北条の快勝じゃん」


「そうとも言い切れませぬ。深沢城攻めで、綱成は長男の氏繁を失ったよしにございます」


「なるほど、それなりの被害はあったと。じゃあ、北条は武田との和睦に動き出すかな?」


「氏政の話を聞く限り、武田への怒りは強くなっている様子。しかも、今回は戦果も上げましたから、しばらくは、北条から和睦の話を持ち出すことは無いと思われます。これは他の者も同じ見立てでございます。武田から富士川以東(河東)の割譲とかそれ相応の条件が出されるなら何とも言えませんが……」


「でも、多分それは無いよね。だって、武田は河東を割譲しちゃったら、駿府方面との連絡がめっちゃ不自由になるもん。それにあの武田信玄(強欲坊主)が、つかんだ物をタダで手放すなんてとても考えられないよ(笑)」


「ははは、確かにそうでございますな!」




 こんにちは、天神山城主 里見梅王丸こと酒井政明です。今は小田原から戻ってきた風間隼人からの報告を受けてるところだよ。


 城主になってから半年以上経ったけど、実は里見と関係が近いところから、徐々に歴史が変わり始めてる。


 まず一番大きいところで言えば、まだ武田と北条が同盟してない。これは、どうやら、北条氏康さんが遺言で、「里見との和睦を最優先にしろ」って言ったかららしいんだな。


 ……ただ、又聞きだけど、その時の遣り取りを教えてもらった感じでは、「里見」って言った途端、発作を起こしたみたいなんだ。『史実』を知ってる俺としては、本当は武田との同盟を復活させたかったんじゃないかと思うんだけどね。


 そんなわけで、隼人の話でもあったみたいに、今でもあちこちで北条と武田は激突してるんだ。中でも今回はかなり規模が大きい対陣だったみたい。もし、今回、北条が負けてたら、和睦に流れが傾いてたかもしれないけど、勝っちゃったからね。まだしばらくは、いがみ合っててくれそうだよ。



 話を戻すと、『遺言(?)』のおかげもあって、ここ最近、里見家うちには北条家の使者がひっきりなしにやってくる。重要な使者は、まず里見義堯(祖父)さんのところに行くことも多いんだ。けど、この件に関しては、箸にも棒にも引っかからないのがわかってるせいか、義弘さん(父ちゃん)のところに来るんだよね。


 ただ、義弘さんも勝ってるから気が大きくなってて、「足利藤政公を関東公方と認めよ」とか、「江戸と岩付いわつきを太田氏に返せ」とか、「鎌倉を割譲せよ」とか……。素人考えでも、「そんなの無理だ!!」っていう条件を出してるんだって。


 義弘さん、和睦する気あるの?





 でもね~、「勝ってる」って言っても、最近はそのペースが鈍化してるんだよね。



 確かに、本佐倉もとさくら城の戦いや、浦賀沖海戦は、ビックリするくらいの快勝だったよ。海戦の様子を水軍大将の正木堯盛まさきたかもりさんに聞いたら、


北条(伊勢)めの安宅船に『がれー船』が突っ込みますと、その土手っ腹が紙のように破れましてござる。巨大な安宅船が次々と転覆していくさまは、痛快以外の何者でもございませんでした! 梅王丸()様にもぜひ、ご覧に入れたかったですぞ!!」


って、だいぶ興奮気味に話してくれたぐらいだ。



 で、大勝利の余勢を駆って、戦後は浦賀城を焼いたり、三浦半島突端の三崎城と城ヶ島を占領したりもしたんだ。けど、北条氏規(三崎城主)さんと北条綱成(地黄八幡)さんが出張でばってきて、すぐに追い出されちゃった。やっぱり永続占領するとなると、渡海攻撃だけじゃあ厳しいね。


 陸の方だって似たようなもんだ。つい最近も下総平定を目指して高城胤辰たかぎたねときさんの小金城を攻めたんだけど、結局攻めきれずに撤退してる。今回も大砲で城門を破ろうとしたみたいなんだけど、破れなかったんだって。多分、門内に土俵つちだわらを積むとかして、対策してたんじゃないかな?


 まあ、柳の下に2匹目のドジョウはいなかったってことだね。



 そんな状態なのに強気一辺倒なんて、義弘さん(脳筋親父)は何考えてるんだか……。今の段階だって、まだ国力的には北条に追いついてないのにね。


 現実が見えてる義継さんが、義弘さんを説得してくれたみたいなんだけど、なまじ勝ってるもんだから、話を聞いてくれないって落ち込んでた。あんまり弱いとどうしようもないから、里見を強くするためにこれまでいろいろと画策してきたんだけど、強くなったら強くなったで、こんなことになるとは。本当にどうにかならないもんかね。


 早く普通に発言権が得られる立場になりたいよ。



1572年ごろの南関東

挿絵(By みてみん)


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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] 北条水軍壊滅してるから、小田原城砲撃しよう
[一言] こんにちは、毎日楽しく拝見させて頂いてます。 毎日暑い日が続いていますが、無理をされず執筆されます様願っています。 これからも応援します!!
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