第4話 閻魔大王(?)
???
義重さんに連れられた俺が、しばらく進むと、白いつなぎのような服を着た男が、空中に映された何かを見ながら、動いているのが見えてきた。俺には何かのオペレーターに見えるんだけど……。
まさか! あれが、義重さんの言う『閻魔大王』?
この姿を見たら、『システム管理者』どころか、『現場作業員』と言われても納得しちゃいそうだよ。
そんなことを考えている俺を尻目に、義重さんはその白いつなぎの男に声をかけた。
「おい! 閻魔大王! 条件に合う男を連れてきたぞ」
「やあ。義重さん。結構早かったですね。そちらの方ですか?」
「うむ、妹の子孫で、酒井政明と言う者じゃ」
「では、どのような条件をお望みなんですか?」
「……それがじゃの。この男、何がほしいのか、私にはよく分からん。『直接、閻魔大王に聞け』と言って、連れてきたから、まだ話が煮詰まっておらんのじゃ」
「なるほど。では私がお話を伺いましょう。
酒井さん。初めまして」
「初めまして。酒井政明です。あなたが閻魔大王様ですか?」
「実際には違うんですが、義重さんのイメージに近い存在と言うことで、自動翻訳されているようです」
「あ、そういうことですか! 義重さんから聞いた感じでは、もっと重厚な話し方をする人だと思っていましたので。ならば納得です」
「ご納得いただけましたか! では、早速、酒井さんの望みを……」
おいでなすったな! ここからが正念場だ。そう考えた俺は、閻魔様(仮称)の話を遮ると……。
「ああ、それなんですけど、俺が代わりに輪廻の輪に乗るんで、もう1回義重さんを生まれ変わらせてもらって良いですかね?」
「「………………………………は?」」
「いやぁ、だって、俺、義重さんみたいな剣の達人じゃないし、そもそも、あの時代のこと、よく知らないし……。
魂がなくて困るんなら、俺の魂で代用すればいいでしょ。
聞いたら、何度も生まれ変わることが問題なだけみたいだし。だから、義重さんの魂に付いてる『生まれ変わり属性』を外せば、問題ないんじゃないですか?
システム管理してる人なら、それぐらいできるでしょ?
あ、俺自身は、輪廻の輪を抜けた先で優遇してもらえれば、それでいいんで」
「…………なるほど! それは良い考えじゃ!! 閻魔! ぜひともそうせい!!」
意表を突かれた提案に、あっけにとられていた2人だったけど、まず正気に戻った義重さんが、俺の提案に乗り始める。
それを聞いた閻魔(?)様。血相を変えて、いきなり早口でしゃべり出した。
「ダメダメダメダメダメ!! なに義重さんも乗っかっちゃってんの!
あのね、義重さんの魂は、何度も転生したせいで強化されちゃって、もはや、私みたいな下っ端がどうこうできるレベルじゃないの。
輪廻の輪のシステムは強力だから、バグも修正できるだろうけど、私みたいなのが下手にいじくったら、取り返しが付かなくなることだって考えられるんだからね!」
「でも、義重さんが天寿を全うすれば良いだけの話でしょ?
義重さんは何回も学習してどんどん進歩していったわけだし、転生バグが発動しなけりゃ大丈夫なんだから、やらせてみたらいいじゃん!」
「だから。もう失敗が許されないんだってば! 0.000001%でも失敗の可能性があったらダメなの!!」
「でも、それを言ったらさ、間違いなく俺の方が失敗する可能性が高いじゃん!
科学も医療も全然発達してない時代だよ? 義重さんは無事だったけど、俺なんかが行ったら、きっと、結核とか天然痘とかで、すぐ死ぬに決まってるよ!」
「わかりました、わかりました! 最初から免疫力を高めておきましょう。伝染病にはかからないようにします」
「本当? 狂犬病とかも平気?」
「はい。大丈夫なようにします」
「じゃあ怪我は? 普通に鉄砲だの刀だので戦うんだよ」
「うーん。『怪我無効』ですか? でも、それだと、殺しても死なないことに……」
「流石にそこまで求めてないよ。
トカゲじゃないから、無くなった部位が生えてくるとかも要らないし。致命傷じゃないような怪我が治るようにしてくれれば、それでいいよ。
世の中には現実に、舩○弘みたいな人もいたわけだし。それなら、いけるんじゃないの?」
「『舩○弘』? ちょっと調べてみますね……。ああ、なるほど。この方ですか! わかりました。それならば、いいでしょう」
さらに俺は、畳みかける。
「鉄砲で思い出したんだけど、毒は? 鉛って毒じゃん。それに義重さん毒が原因で何度も死んでるよね」
「『毒無効』ですか。それは、残念ながら人間ではありませんね」
「じゃあ、どこまでならOKなの?」
「では、毒耐性を常人の10倍ほどにするのと、毒を感知する能力をつけるぐらいならできますが……。いかがでしょうか?」
「うん、それなら簡単には死なないね!」
「では、そのくらいで……」
おっと、こんなとこで止められてたまるか!
俺は閻魔大王に向かってさらに畳みかけて行くのだった。