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第35話 奪取

元亀2年(1571年)4月 ガレオン船 甲板



 こんばんは、里見梅王丸こと酒井政明です。また、南蛮船に戻ってきたよ。


 何のためかって?


 そりゃあ、落とし前を付けるために決まってるじゃん!(ニチャァ)




 俺たちが戻ったとき、長浜湊から天神山城下にかけての地域では、家を挙げて必死の大捜索が行われてた。


 中でも、義弘さん(父ちゃん)の憔悴っぷりときたら、それはもう凄かったらしい。

 ちなみに、戻ったときには、最初の狼狽うろたえが、徐々に狂乱に変わりかけてたみたいで、側近曰く、「あと半刻(1時間)遅れたら一帯を撫で斬りにしていたかもしれませぬ」だって! いや~間一髪だったよ!



 陸に上がる前には、既に伝令がでてたみたいで、すぐに、物凄い形相の義弘さんが駆け寄ってきた。


 その後は予想どおりだ。抱きしめられ、泣かれた。そして一頻ひとしきり泣いて落ち着いた義弘さんは、捜索隊を集結させる指示を出した。



 はは~ん、きっとこれからみんな揃って斬り込みだな。まあ、戦国大名なんてヤ○ザの親玉みたいなもんだ。舐められてたら配下に示しが付かない。ここで報復しないって選択肢はないよね。


 でも、俺としては、焼き討ちは絶対避けたいし、できれば皆殺しもしてほしくない。



 理由?


 まず、焼いちゃったら、溜飲は下がるし手柄も立つけど、後に何にも残らないよね。

 ところが、拿捕できれば、大砲付きの巨大な西洋船が1隻、積荷の大量の銀と一緒に手に入るんだ。


 それから船が手に入っても、見よう見まねじゃあ碌に動かせないだろ? 舵の動かし方、羅針盤の読み方、帆の調整、大砲の運用……。里見(うち)の水軍の連中が習熟するまでは、教導役がいた方が絶対いい。それに、船員の中には西洋船の建造や修理についてのスキルをもった人間がいる(だってそうでなきゃ船を直せないじゃないか!)。そいつらを捕まえられれば、自前で西洋船が造れるようになるんだぜ?


 こんなチャンス二度とないよ。里見家の飛躍のため、何とか義弘さんを説得しないと!




「父上!」


「なんじゃ? 梅王丸」


「あの船を焼くのですか?」


「うむ! 船の連中は鉄砲や大砲を持っておる。まともに戦っては被害が大きい。幸いまだ船は動けぬようじゃ。夜陰に乗じて近づき、火をかけて焼いてしまえば、味方の人死には少なくて済むからの!」




 ほらやっぱり。しかも焼き討ちするつもりだったか。

 まあ、普段だったら義弘さんの言うのが正しいんだろうけど、今回はヒカゲシビレタケって材料がある。ここは全力で説得しないとね。




「でも、あの船、手に入れたいとは思いませぬか?」


「確かに、獲れるものならほしいが……」


「実は、船の連中、毒を食らったらしく、体が痺れてまともに動けぬ様子でした」


「何と、真か!」


「はい、船室から逃げ出せたのも、小舟で脱出するときに追っ手がかからなかったのも、そのためです。な、宗右衛門」


「はッ! 梅王丸様のおっしゃるとおりでございます!」


「父上、今ならば、あの南蛮船と大砲を無傷で里見家の物にできるかもしれません」


「梅王丸、よくぞ気付いた! それでこそ我が息子じゃ! 早速、にっくき南蛮人どもを撫で斬りにし、船を我らが物にしてくれようぞ」


「父上、船はいくさに使わないのですか?」


「使うつもりじゃが? 何か問題があるのか?」


「いえ、あの船、動かし方を分かる者が家中にいるのかと……」


「なるほど……、淡路守、水軍衆を束ねる身としていかがじゃ?」


「はッ! しばらく時間をかければ使えるようにはなりましょうが、いきなりは難しゅうござる。場合によっては思わぬ方に流されたり、座礁したりすることもあるかもしれませぬ」




 水軍を率いる造海つくろうみ城主正木堯盛(淡路守)さんが、率直な意見を述べる。

 堯盛たかもりさんナイス! 折角の発言です、ここは乗っかって、さらに持ち上げておきましょうかね。




「一騎当千の水軍衆を、慣れぬ船に乗せたことで失っては、里見家おいえの一大事。船の連中は縛り上げて捕らえ、罪無き者は使ってやっても良いのではありませんか」


「辛い思いをしたのは梅王丸じゃぞ。おぬしはそれで良いのか?」




 良いに決まってるじゃないですか!

 労せず南蛮船が手に入るんなら、俺のプライドなんて、石ころみたいなもんですよ。




「はい、我が身などよりも、お家が大事にございます」


「お主ら聞いたか! 何と賢い子じゃ!!


 よし、皆の者! 我らはこれからあの南蛮船に斬り込む! 抵抗するヤツは殺しても構わん! 他の連中は全て捕らえて甲板に集めよ! 生け捕りは褒美を倍とらすぞ! しっかり稼げや! 行くぞ!!!」


「「「「「「応!!」」」」」」














 約1時間後、甲板上には船員たちが転がされていた。話を聞くと抵抗しようとした人はいたようだけど、みんな痺れてまともに歩けない状態だったから、なすすべもなく縛り上げられちゃったみたい。だから、斬り込み部隊はもちろん、船員にも一切死者は出なかった。まあ、『生け捕りは倍の褒美』ってのも大きいんだろうけどね。


 今、義弘さんは宗右衛門たちと犯人捜しをしてる。だけど、今は夜で暗いし、宗右衛門だって犯人を見てないし、そもそも、全く言葉が分からないから、相当難航してる。



 ちなみに、俺は、義弘さんの近習の1人の小川治兵衛おがわじへいたちを引き連れて、縛り上げられた船員たち1人1人の前に立ち、合掌してる。




「梅王丸様、さっきから何をなさっておいでですか? こ奴らは禽獣のごとき者ども。いきなり襲いかかってくるやもしれません。危険なのでおやめください」


「でも、この人たち、天罰を受けちゃったから、このままだと死んじゃうんだ。だから、助けてもらうように神様に祈ってるんだよ」


「ぼ、坊主! 俺らは死ぬのか!?」


「うん」


「な、何でそんなことが分かるんだ!」


「だって、神様が現れて教えてくれたもん。ちなみに私、縛り上げられた上、麻袋に放り込まれて捕まってたんだよ? 神様に助けてもらわなかったら、逃げられるわけないじゃん!」


「なんてこった! ……でも、坊主、なんで俺らを助けてくれるんだ?」


「イエス様がおっしゃってるでしょ。『敵を愛し、迫害する者のために祈れ』って、だから私は、あなたたちのために祈ってるんだ」


「じゃあ俺らは治るのか?」


「うん、凄い猛毒だったらしいから、すぐには治んないかもしれないけど、だんだん良くなるはずだよ」


「ありがてぇ! 神様、それから坊主、感謝いたしやすぜ!」




 分かってるとは思うけど、嘘だ(笑) 流石の俺でもそんなチートは貰ってない。


 何でそんな嘘をいたのかって?


 そりゃ、恩を着せるためと、逆らう気を失くさせるためだよ。無罪な人間は、いつかはスペインに帰してやってもいい。でも、しばらくは操船術や砲術の伝授に、ドックの建設に、造船にと、馬車馬のように働いてもらわなきゃいけないんだ。逃げられたり、反乱を起こされたりしちゃ目も当てられないだろ? その貴重な人材を逃がさないように、できれば喜んで働いてもらうための『方便』だよ。『方便』!



 後は、「『神の子(笑)』を連れ去ろうとした罪は働くことによって償われる~」とか、「逃げたらまた猛毒が戻る~」とか言って脅しておけば、きっと喜んで協力してくれるはずさ!


 これで全部丸儲けだぜ!




 俺は迫り来る眠気も何のその。喜々として祈り(偽)を捧げてまわった。


 そして、俺の激動の一日は終わったんだ。






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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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