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303/303

第303話 1606年頃の国内情勢 ※地図あり

※後書きに地図を載せました。

慶長11年(1606年)1月 武蔵国 豊島郡としまぐん 千代田城 北の丸 里見屋敷



 皆さんこんばんは、酒井政明こと里見義信です。

 今は夕食後の稽古を終えたとこだよ。この時間は『座禅を組む』って名目で、毎日1時間ほど仏間に籠もってるんだ。


 いや~、こういう立場になると、なかなか1人の時間って作れないんだよね。だから、座禅の(この貴重な)時間を、いつも考えを整理したり、精神を落ち着けたりするために活用してるんだ。



 え? 子どもたちからの報告はどうなったんだ、って?


 ああ、無事に済んだよ。ただ、義邦が話してた狩野川の放水路については、動力が必要になるんで、ちょっと突っ込んでやったの。そしたら、答えられなかったんで、「しっかり勉強をしておくように」とは伝えといたけどね。


 次の報告会では、義邦以外の連中に質問してやるんだ。「どのような動力を使うのか調べてみたか?」ってね。


 俺から指示された義邦が調べてるのは当然だよね? でも、他の連中も同じような場面に出くわす可能性だってあるわけじゃん? 俺としては、他の人間への課題を自分事として考えられるようになってほしいわけよ。ましてや兄弟なんだからさ。


 その辺は、以前から口を酸っぱくして話してるんで、まあ大丈夫だとは思うけどね。



 ちなみに、自領内とは言え、子どもたちに責任者を任せてはおけるぐらい、日本国内の情勢は安定してきてるよ。一昨年、昨年と、天災が続出した時はどうなるかと思ったけど、俺が復職した時にはあらかた片付いてたんでね。これも堀秀政さんが、自分の身を削って災害復旧を進めてくれたおかげだよ。



 特に何が安定したって、何よりも政権の基盤が安定してきたね。


 実は、『第一次里見義信政権』の発足当初は、“挙国一致政権”を謳いながら、国家としての収入はほとんど無くてね。関税と各大名たちの拠出金で支出をまかなってるような状況だったの。ま、言ってみれば『国連』みたいなもんかな?


 だって、以前は日本全土が封建制で、大名の分国とかだったじゃん? 明治新政府みたいに将軍家から領地を取り上げたんならともかく、今回の『大政奉還』は、ただ政権が移行しただけ。なんで、政権としての『天領』はほとんど存在しなかったんだもん。


 それが、今は、三韓地域(半島南部)と台湾、北海道への大名家転封と、里見家による領地返納で、1,000万石超の自主財源を得るに至ってるんだ。


 集権国家を目指す者としては、国連みたいに「俺ん所は拠出金を出さないぞ!」って跳ね返り者が出るだけで、組織運営に混乱を来すような状況は避けたいからね。



 あとは、徴兵制と学制が軌道に乗ってきたのも、国が安定してる大きな要因だと思うんだ。


 理由? まず、徴兵制なんだけど、徴兵制って、富国強兵とか、全体主義とかのイメージがない? 


 まあ、その側面があるのは否定しないよ。でも、「それだけだ!」って考えちゃうと、本質を見誤りかねないの。実は、徴兵制には、他にも大きな効用があるんだよね。


 何かって? それは、失業対策と国家の統合だよ。


「失業者を全員兵営に送り込めば、失業率は0%だ」って話を聞いたことある? 誰の言葉かは忘れたけど、これ、言い得て妙だと思うんだ。


 今の日本は戦国時代が終わったばっかりで、戦闘要員が余ってるじゃん? しかも、平和になったことで、出生率が上がって死亡率は下がってるときた。


 社会の自然の動きに任せてても、いずれは必要とされる業務が生まれ、そこに労働力が配置されていく。とは思うよ。でもね、そうなる前に間違いなく大混乱が起こるでしょ?


 上手いことに対明戦争(唐入り)と対スペイン戦争で、大量の外貨(お宝)と、植民地(勢力圏)を獲得したんで、戦国時代の延長として抱えてた戦闘要員への生業(退職金)は、とりあえず確保出来てた。でも、これから増えてくる子どもたちの仕事を確保しとかなかったら、将来、社会の不安定化が確実に起こるじゃん?



 そこで、徴兵制なんだよ。


 前に「3年間の兵役を国民の義務にした」って話はしたよね? 色々と検討した結果、その年齢は、基本的に16歳から18歳までになったんだ。その3年間、男子は親元を離れて兵役に就くことになる。


 で、兵役中は、訓練をしてるだけじゃない。屯田や職業訓練みたいなこともカリキュラムに入れて、兵役期間中で手に職を付けさせる。そして、満期除隊時には一定の広さの農地か、就業準備金を与えることにしてあるんだ。


 仮に入営前に全く資産が無かったとしても、予備役編入後には農地か、しばらくは食うに困らない金が手に入る。これで社会不安はかなり払拭できるよね?


 さらに言えば、満期は3年だけど、それを超えて軍に在籍することも可能にしてあるんだ。だから、「就職できないから軍に残る」って選択肢もあったりする。



 それだけじゃない。兵役中にどんどん昇進するような優秀な人材は、将来の士官候補生となる可能性もあるんだ。貧困を理由に中・高等教育を受けられてなかったとしてもね。


 あ、流石に士官候補生には試験を課してるよ? 作戦書が読めなかったり、過去の戦訓に学べない者は、いくら武力が高くても、指揮官としてはちょっとね……。


 ちなみに士官学校なんだけど、どんなに優秀な人材でも、一定期間の兵役を経ずに入学することはできないようにしてあるんだ。だって、兵役(下積み)を経験せずに士官になっちゃうと、机上の空論とかをこねくり回し、アホな作戦を立てかねないからね。


 これは、生まれが公家だろうが大名だろうが忖度無し。ただし、抜け穴はあってね。3年制の高等学校に入学すれば、兵役は2年分免除されることになってるの。それに、高等教育を受けたってことで、最初から下士官としての任官になるのもちょっと有利な点かな。


 もっとも、“士官”っては付くけど、下士官って兵と同様に現場仕事なんだよね。つまり、「どんなエリートも、1年は現場で働いてこい」ってのが国の方針になってるの。


 え? 留年したら? 免除されるのは2年分だけなんで、兵役期間が1年残ってるのは変わらないよ。だから、高等学校を留年しちゃったら、現代の浪人生みたいに、若年の同期と一緒に兵役を務めることになるの。


 あ、病気とかで明らかに兵役が務まらない人は、流石に徴兵は免除してるよ。その代わり選挙権は与えられないけどね。



「酷い!」って?


 まあ、俺も、「ちょっと過酷だな」とは思うよ。でもね、今、俺が生きてるのは、人権意識の確立された現代社会じゃないの。脱却しつつはあるけど、まだバリバリ“御恩と奉公”の封建時代だぜ? だから、「何人も同様の権利を有する」って話よりは、「義務を果たした者に権利が与えられる」の方が、みんなの意識にしっくりまるんだよ。



 この徴兵制の対象が、“日本国民”なの。つまり、日本国民は『兵役の義務』を果たすことで、『参政権』と『経済上の優遇措置』が与えられ、言わば“市民権”を獲得するんだ。


 で、その日本国民として登録されることの条件が、『小学校卒業』だったりする。まあ、6年制の小学校は義務教育にしたし、天領、大名領問わず、内地全土に小学校を作らせたんで、内地で暮らしてれば自動的に小学校は卒業できる仕組みは整ってるんだ。それに、徴兵される15歳までは3年間の猶予期間も設けてあるし、飛び級も作ったんで、不測の事態で規定通り小学校に入れなかった人へのセーフティネットも確保してある。


 ちなみに、これは子どもから成長した場合ね。大人は従軍経験のある武士だったら無条件で市民権を与えてるよ。輜重や内政担当を含めてね。あ、これはアイヌ人の猟兵とか、チャモロ人の水兵とか、異民族の出身者も同一の条件だよ。


 従軍経験の無い人?


 これは、公家だろうが、高僧だろうが、平等に“市民権”は無いよ。そういう人たちが衆議院の選挙権を必要とするかは疑問だけど、もし市民権が欲しいんだったら、今から小学校に入るか、卒業資格検定に合格して、改めて兵役を志願すればいいの。てか、実際にその流れで市民権を獲得した人もいるし。


 上級国民はともかく、小作人とか解放奴隷みたいな、まともな資産が無い人たちにとっては、除隊時に貰える農地or退職金は、咽から手が出るほど欲しいだろうからね。ちなみに、小学校入学が徴兵年齢よりも後になる場合は、学費は全額を請求してるんで、大人は卒業資格検定試験合格を目指す人が多いかな。当然こっちも検定料がかかるんだけどね!



 こんな感じで、『学制』によって、全土で統一した日本語を刷り込む。そして、『兵役』で価値観を共有する。さらに、それによって得られる“市民権”を一種のステータスにすることで、『日本国市民』への憧れを産む。こんな流れで『日本』を広げていくんだ。しかも、住民自らが希望する形でね。


 実際のところ、領土化が早かった北海道や南洋マリアナ諸島、台湾あたりでは、日本語話者の割合が加速度的に増えてるんだ。


 長期的な目標? まずは、太平洋の内海化かな?


 先は長いけど頑張っていかなきゃね。






1606年ごろの国内の領地分布

挿絵(By みてみん)


次話は来週月曜日7時頃投稿予定です。

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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
んー? 話の内容からすると、もしかしてほとんどの女性に市民権と参政権は無い状態? 時代背景からすると、まぁ当たり前かもしれませんが、現代人の感覚を持ってる主人公がそのあたりの不備を放置したままにすると…
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