表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

302/304

第302話 家族団欒?

慶長11年(1606年)1月 武蔵国 豊島郡としまぐん 千代田城 北の丸 里見屋敷



 上座に腰を下ろした俺に向って、4人の息子たちが頭を下げる。それを見て俺は鷹揚に頷くと、顔を上げるように促した。そして……。




義継(梅千代)、武蔵の治水の進捗しんちょくについて説明いたせ」


「はっ! 大きいところについて申し上げます。利根川については、新川通を開削し、本流を渡良瀬(太日)川に流し込みましてございます。また、荒川は熊谷付近で河道を締め切り、新川を開削して、入間川に流し込みました。現在は、これらの堤防を頑強にするとともに、旧河道の直線化を進めておるところでございます」


「河道の拡幅はしておらぬのか?」


「これ以上拡幅いたしますと、中流付近では水深が確保出来ず、蒸気船の運航に支障を来すおそれがあるかと思われますが……」


「構わぬ。さらに拡幅する方向で進めよ。輸送よりも水害対策だ。輸送は鉄道で対応できるが、洪水はどうにもならぬ。ところで、洪水対策と言えば、遊水地の整備は進めておるか?」


「はい。以前指示がありましたとおり、堤防は二重とし、堤の内側に入った集落は替地を与えて移転させております」


「うむ。それで良い」


「ところで父上」


「なんだ?」


「輸送と治水のため、関宿付近を開削して、利根川の水を香取海かとりのうみ方面へ流してはどうかという進言があったのですが……」


「ああ、その件は私も考えたことがある。が、やめた方が良かろう」


「その心は如何に?」



「うむ、先ほども言うたが、川舟で運べるような量ならば、鉄道輸送の方が効率的だ。特に香取海方面は、既に銚子まで鉄道が開通しており、新川を開削しても関宿を大回りせねば東京に着かぬ舟運は著しく不利となる。


 また、増水時はともかく、平時に東京湾方面への水量が減れば、河口付近では塩害が起こる恐れもある。


 ま、今後川床が埋め尽くされるような災害があったのなら別だが、現時点では不利益が多いと思うぞ?」



「慧眼、畏れ入りましてございます!」


「分かれば良い。さて、次だ」




 俺は、義継(嫡男)から視線を外すと、今度は隣に座る義邦(次男)に向かって問うた。




義邦(梅鶴)、伊豆の移行に向けた状況を述べよ」


「はっ! 湯ヶ島、土肥の金山、宇久須うぐすの珪石鉱山等は、株式会社に移行いたしました。また、一昨年の津波からの復旧も、ほぼ済んでおり……………………」







 皆さんこんにちは、酒井政明こと里見義信です。先日38歳になりました。

 今は正月の国会休会中。御覧のとおり家族団欒の時間だよ。


 え? とても家族団欒には見えない、って?


 まあね。世間一般の『家族団欒』とは明らかに違うのは分かってるけどさ。なにせ、里見家ウチは大領主なもんでね。後継者たちには、今のうちから領地経営の練習をさせてるの。


 嫡男の義継はもう23歳だし、義邦よしくに信頼のぶより堯信たかのぶの3人も、全員今年で16歳になるんでね。



 まだ早い?


 いやいやいや、この時代の成人は基本的に15歳前後だからね。しかも、6歳で一国を任されて、12歳で初陣を果たした“里見義信()”って先例が身近にあるんで、周囲も容赦してくれないの。


 それに、さっき言った16歳は満年齢なんだよね。この時代は数え年が基本だから、若年の3人も既に“18歳”って扱いになるし、義継に至っては25歳だよ? 


 一応、6・3・3の学校制度を整えてはあるんで、ある程度の猶予期間モラトリアムはあるんだけどさ。それでも領地貴族(大名)の子としては、合間を縫ってでも実務を積ませないわけにはいかないでしょ?



 そんなわけで、武蔵・下総・相模の一部を嫡男である義継に、伊豆を義邦に、上総の一部を信頼に、常陸の一部を堯信に任せて、統治と領地返納に向けての指揮を執らせてるの。


 ちなみに、俺の息子は他にもいるんだけど、この4人以外は既に養子とかで他家に入ってるんで、“里見総王家”に残った息子は、今のところ4人ってことになるかな。ま、既に孫も2人いるんだけど!



 あ、さっき“一部”って言ったけど、これはあえて領域を狭めてるわけじゃないんだ。だって、元々里見家ウチは、常陸、上総、相模の全域を支配してたわけじゃなかったんだもん。


 下総と武蔵の大名は、江戸に本拠を移すのに前後してみんな転封しちゃったんだけど、それ以外の国については、まだ残してあった……。ってか、残さざるを得なかったんだ。だって、そんなにたくさん余ってる土地はなかったからね。


 具体的には北条氏政()さんの隠居領とか、加藤信景(加藤の爺)や大掾清幹の領地とかだよ。流石に普通に親藩や譜代大名(土浦以前の家臣)だけで、外様衆の領地は無かったけど。


 あ、彼らもほとんどは、元々は里見の配下だったよ。だけど、大政奉還の段階で、全員所属が朝廷の直属に変更されてるんだよね。だから領地返納に向けての移行措置も、個々の大名家が独自に行うことになってるの。まあ、旧臣のよしみで、助けを請われたら人材の派遣とかはしてあげてるけどね。



 え? すんなり返却しちゃった他の所領に比べて、関東近辺の領地に対するケアが行き届きすぎてないか、って?


 そうだね。でも、これには幾つか意図があるんだ。


 関東が里見家ウチのお膝元だとかもそうだけど、一番は、関東は畿内とかに比べると、決定的にインフラ整備が遅れてたことだね。



 里見家ウチが江戸に入府した段階で、官公庁の建設と上水道の整備は済ませといたし、道路と鉄道建設も計画的に進めてはいたんだ。だけど、農地と宅地の整備とかは、まだまだだった。外征で忙しかったのもあるけど、関東全体、特に里見家ウチの手が入って間もない西関東は、人口が希薄で大規模開発をしてもさほどメリットが無かったからね。


 でも、首都が移ってきたことで、人口が増え、その人口を吸収する宅地や、食糧生産のための農地の確保が不可欠になってたの。


 で、そのためには、河川の付け替えと直線化、二重堤防の整備なんかの治水工事は避けては通れない。特に、渡良瀬川・入間川を含む、利根川水系の治水はね。


 最初から全部国に投げちゃえば楽ではあったんだけどさ、都市計画も無いまま野放図に拡大を進めて、災害のたびに大被害を被ってた江戸・東京を知ってる者としては、ちょっとね。


 それに「相国のくせに不良債権を国に押しつけた」なんて言われるのも面白くないじゃん?



 何かメリットがあるんじゃないか、って?


 ははは、流石に気付くよね。


 いくら人口が希薄だとは言え、関東平野も無住の地じゃない。で、そんな土地を大々的に治水するわけだから、どうしても住民の立ち退きとかが必要になってくる。


 で、一度住民を立ち退かせた土地を、大々的に区画整理してから分譲するの。あ、当然、元からの住民には、立ち退き前と同じ面積の土地か金銭で補償するし、優先的に戻る権利も与える予定。


 それでも、十分に売れるほど土地は確保出来る見込みなんだ。なにせ元は人口の希薄地帯なんでね。並行して鉄道を中心とした交通網の整備も進めてるんで、領地を国庫返納した後も、継続して不動産と鉄道からの収入が期待できるんじゃないかな?



 この辺から得られる収入を海外領土(※北海道を含む)につぎ込んで、加速度的に開発を進めていくのが里見家の基本的な方針になるの。


 現在の領地から得られてる人的・金銭的なソースをフル活用して、海外領土の征服を進めてる大名家は多いんだ。だけど、いっぺん自領に投資をして、永続的に利益が得られるシステムを整えながら海外進出を図ってる大名家は希なはず。息子たちには、ぜひこの発想を身に付けてほしいもんだよ。




「……………………父上? 父上!」


「お、おお! 義邦、いかがした?」


「『いかがした?』ではございませぬ。さては、また(●●)、ボーッとしておられましたな?」


「ああ、『お主らも成長したな』と感慨にふけっておったら、色々と新たな考えが湧いてきてしもうてな!」


「成長を喜んでいただくのは結構ですが、我らも真剣に取り組んでおるわけですから、父上も感慨にふけるのは、話を最後まで聞いてからにしていただきませんと……」




 あちゃー、義邦(息子)に怒られちゃったよ! 失敗失敗。




「父上?」


「済まん済まん、続けてくれ」


「……では、次に狩野川の放水路建設について申し上げます」




 いや~、話を聞きながらこっちに意識をもってくるのはマズかったわ。


 流石に、これ以上は息子たちに示しが付かないんで、また今度ね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ