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第301話 返り咲き

慶長10年(1605年)12月 武蔵国 豊島郡としまぐん 千代田城 西の丸下



 元老院(※貴族院から名称変更した)議長の近衛信尹公爵は、手元に届いたにしき袱紗ふくさを恭しく押し頂く。そして、それを開くと、中から現れた一通の奉書を取り上げ、おもむろに読み上げる。




総王ふさのきみ 源義信みなもとのよしのぶ


「はっ」


「国会の請願により、相国に再任する。御名御璽」


「謹んでお受けいたします」




 居並ぶ議員たちから万雷の拍手が沸き起こる。


 あーあ、結局総理に再任かぁ、また忙しくなるね……。


 皆さんこんにちは。7年ぶりぐらいになるかな? 酒井政明こと里見義信です。

 御覧のとおり、何の因果か総理大臣(相国)に再任されちゃいました。


 あ、あんまり久しぶりなんで、何のことか分からないと思うから経緯を説明するね。ちょっと長くなるんで最初に謝っとく。ゴメンね。



 実は、慶長6年に里見義弘さん(父ちゃん)が亡くなったの。それを機に「喪に服す」って理由で相国職を辞したんだ。


 あんまり長いこと政権に留まってると、絶対に権力の硬直化が起こるんで、就任前から「どっかで交代しなきゃ」とは思ってた。不謹慎ではあるけど、義弘さん(父ちゃん)の件は良い機会だったかな。


 短期でコロコロ政権トップがげ代わるのは困るけど、6年も務めれば十分でしょ?


 おかげで在任中はなかなか手が回らなかった、里見家直轄領の国庫返納もスムーズに進められたよ。


 いや、相国職が忙しかったのは事実だけどさ。里見家は征夷大将軍だったこともあって、飛び地がとっても多かったんだ。しかも、その飛び地、全国各地に点在してる上に、関門海峡一帯とか、隠岐とかの戦略上重要な地域や、佐渡、飛騨、石見、生野、別子、天草なんかの資源地帯、山城、摂津、南近江といった経済の中心を抱えてるときた。


 こんな重要な地域を「じゃあ明日からヨロシク!」とか言って、いきなり放り出したら、政治経済に大混乱をきたすだろ?


 まあ、在任中に既に、戦略上の要地と、京・大坂近辺は早めに手放してたんだけどね。


 あ、この一帯は人口も多いし、交通の要衝として関税収入も期待できるから、早めに手放すのは一見悪手に見えるよね?


 でも、そうとも言えないんだな。確かに短期的な収入は減ったけどさ、逆に、国庫に入れちゃったことで、インフラ整備や治安維持の責任が無くなるんだ。これは大きいよね? それに、どうせゆくゆくは国に納めるんだから、余計な開発の手間をかける必要もなくなるし。これが未開発地帯だったら、別の旨味があるんだけど……。


 あと、里見家ウチが率先して領地返納をしたことで、他の大名にもプレッシャーを与えられたんで、その点、為政者としては悪くなかったよ。



 ……だけど、資源地帯はそう簡単にはいかなかったんだ。だって、手放すってことは、こっちのコントロールが利かなくなるってことだろ?


 今まで『殿様の持ち物』って、様々な規制をしてたのが、いきなり解除になったら、一攫千金を求めて大量の人間が入り込むことは目に見えてるよね? で、大量の人間に入り込まれて野放図に開発されちゃうと、『公害問題』からの『社会不安』ってのが定番の流れじゃん?


 だから、まずは国会で開発を制限するための法整備を済ませたの。その上で重要な鉱山は株式会社化して、里見家こっちが一定の影響力を保てるシステムを整えといた。


 がめつい? 何とでも言って! だって、これまで里見家(ウチ)が汗水流して手に入れた権利だよ? ちょっとぐらいリターンを貰っても罰は当たらないと思うな。それにきちんと税金は納めるから、国も損はしないはずだし。



 あ、俺の後任の内閣総理大臣?


 堀秀政さんだよ。


 え? まだ生きてたのか、って?


 うん。秀政さん、史実では1590年、小田原の陣の滞陣中に疫病に罹り38歳で急死してる。でも、この世界線では15年以上長生きしたんだ。俺のチートで医療を発展させといたのが良かったのか、秀吉のプレッシャーが無くなったのが良かったのか。その辺は謎だけどね。



 選んだ理由? そんなの能力的に申し分ないからに決まってるじゃん!


 まあ、能力面で言えば他にも務まりそうな人はいたんだけどさ、でも、織田家の旧臣(旧支配者の流れ)で、百済国天原85万石の大大名で、老中や国務大臣職を歴任してて……。って、ここまで好条件な人は他にいなかったの。


 しかも、俺の血縁者でも織田家(旧支配者)の血縁者でもないってのもイイよね。だってさ、「総理大臣は世襲じゃないよ!」ってことをアピールできるじゃん?


 あ、『相国』じゃなく『総理大臣』になってるのは、俺に敬意を示してのことらしいよ。だから、俺が首班の場合は『相国』だけど、それ以外の人は『総理大臣』って呼ぶんだって。


 別にする仕事はどっちも一緒なんで、俺としては、そんな区別いらなかったんだけどね()



 さて、そんなこんなで、秀政さんに首班を譲って2年。なんで今日復帰することになったのか?



 実はね、先月、秀政さん、急死しちゃってさ……。


 激務が祟っちゃったかねぇ。


 いや、就任1年目の慶長8年は順調だったんだよ。内外ともに大きな問題は起こらなかったし。強いて言えば、南米の火山噴火が原因の冷害があったけど、食糧の備蓄とか耐寒品種への転換とか、俺の方で事前に準備を整えてから引き継いだんで、無難に政権運営はできてたんだよ?


 2年目は、畿内で麻疹はしかが流行して死者は出たけど、史実では同時期に天然痘も流行してたはずで、十分に感染を抑え込めてた。ま、これは事前に種痘を広めてた成果もあるだろうけどね。


 だから、「まあまあの1年になるかな?」ってとこで、12月に入ってからデッカいのがやって来た。『慶長の大地震』、いわゆる南海トラフ地震だね。


 これも、「そろそろ来るから」って避難訓練とかさせてたんで、史実と比べれば随分被害は軽減できてるはずなんだ。だけど、この時代の常として、『天災=為政者の不徳』なんだよね。


 秀政さん、これで弱気になっちゃってね。


 いや、フォローはしたよ! 俺自身も励ましたし、官僚や派閥議員も使って全面的にバックアップはしたんだ。だけど……。


 元々弱気になってたところに、今年9月に八丈島が噴火したんだ。でもこれは、秀政さんを含む政府首脳が不眠不休で陣頭指揮に当たり、何とか収束させた。


 と思ったら、11月には浅間山までが噴火しちゃった。コレが駄目押しだったみたい。元々弱ってた秀政さんには耐えられず……。気の毒なことをしちゃったね。



 で、そうなると、火中の栗を拾えるのは俺ぐらいしかいないだろ?


 まあ、正直なところ、できればもう1年ぐらいは、領地の返納の準備に専念したかったんだけどね……。











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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。本当に久しぶりで更新通知を見て驚きましたw 今年も面白いお話を楽しみに読ませていただきますねw
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