第3話 義重さんの人生
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義重さんがどんな人生を送ってきたかって言うと、最初は、13歳で切腹したらしい。ところが、切腹して死んだと思ったら、記憶を全部持ったまま生まれる前に戻ってたんだって。
その後も、待ち伏せからの惨殺、毒殺、痺れ薬を盛られての暗殺、家臣の裏切り、政敵の妻による仇討ち……。そりゃあもう、たくさん殺されたそうな。
でも、母親と妹が幸せに暮らすため、義重さんは、何回殺されても、新しい人生を頑張った。
これ以上ないほど頑張って、茨城や伊豆の方にまで領地を広げ、周囲の遺恨や、確執も解消して……。
これで安心。……かと思いきや、義重さん、ちょっと頑張り過ぎちゃったらしい。
小田原征伐で、北条方(※北条家が奥さんの実家だったんだって)として、水軍を率いて大暴れ。豊臣秀吉の軍勢を1万人以上も海の藻屑にしちゃった。これ、北条が勝ってれば、間違いなく最高殊勲者だよね。
……だけど、海で1万人を失っても、結果は変わらず、小田原は開城。そして、1万人を殺した罪を問われて、北条氏政たちと一緒に切腹させられちゃったんだって。
秀吉さんって、人材マニアっぽいところがあって、見所がある敵将は、あんまり殺さないイメージがあったんだけど……。
そんな秀吉さんに切腹を命じられるなんて、どんだけやりすぎたんだよ! って話。
そのままでもダメ、頑張ってもダメ。だから、直近の人生では、『とにかく生き延びて、世の行く末を見ること』に目標を切り替えたんだそうな。
色々と辛いことに耐えながら、大坂の陣も終わった元和8年(1,622年)まで頑張って生きて、さあ、ご臨終ってとこまで行った。そして、次はどうやって人生を送ろうかって考えているときに、はたと気が付いた。
『もしかして天寿を全うしたら、生き返らないんじゃないか?』って。
それで、慌てて持ってた短刀で自分を刺したんだけど、なんと、寿命が尽きるのと自死するののタイミングがまさにぴったり。
おかげで、今の魂は輪廻の輪に入らなきゃいけないんだけど、生まれ変わりも発動してて、そっちに使う魂がないってことになっちゃった。
で、対応に困った閻魔大王から出された条件が、『縁のある人間で、不慮の事故に遭ったような者を連れてこい。ただし善良な者に限る』だったんだって。
「でも、義重さん。俺とどんな縁があるんですか?」
「実は、私の妹、『桃』が、東金の酒井家に嫁いでおってな、お主は、その子孫にあたるのじゃ」
「でも、義重さん。55まで生きたんでしょ? 直系のお子さんとかは、いなかったんですか?」
「満12歳で、無理矢理出家させられたんじゃぞ? そんな者、いるはずがなかろう!」
そうだった! 明治になる前は、僧侶の肉食妻帯は違法だった!
浄土真宗以外の宗派のお坊さんが、妻子をもつと、『破戒僧』として処罰の対象になるんだ。
「私も子は授かったことがあるから、本来ならば、その子らの子孫に任せたいところではある。
だが、閻魔大王が言うには、私が関われるのは、直近の人生の続きだけなんだそうな。しかも、代理が務められるのは、本来の寿命が残っているのに、不慮の死を遂げた者でなければならんと来ている」
「他の里見家の一門はどうなんです? たしか、徳川幕府に改易されて若死にしちゃった人とか、いましたよね?」
「ああ、忠義な。あれも不憫な男じゃったが、あちらは従兄弟の家系。姓は違えど、血の近さでは、妹の家系には敵わぬ。
それに、考えてもみよ。忠義の祖父にあたる義頼は、私から家督を奪ったから、当主になれたのじゃぞ? その義頼の子孫が、自分たちの先祖が陪臣になる手助けをしたがると思うか?」
「そうか。だから俺なんだ」
「そうなのじゃ。
私も関係の薄い其方に、無理な願いをしているのは重々承知しておる。ただ、このまま手をこまねいていれば、私に代わって入った魂は、何も知らぬまま、生を受けることになる。そして、同じように動いていれば、一生目と同じ道を辿ることは必定じゃ。
そうなれば、お主の先祖でもある私の妹は、満3歳で命を絶たれてしまう。それだけは避けたくてな」
「でも、俺、当時のこと、ほとんどなんにも知らないし、はっきり言って、際だった能力なんて何も無いよ。そんなんでもいいの?」
「うむ、閻魔大王は、『私がやり直すのでなければ、ある程度、能力面で好待遇を与えてもかまわん』という趣旨の話をしておった。例えば、さっき話した『植物の種や苗を何でも手に入れられる能力』などな。
私には、お主が、どんな力を欲しているのか良くわからん。自ら交渉して、役に立つと思う力を求めると良い。
……あ! 1つ言い忘れておった!
どうやら、私のようにやり直しをすると『平行世界』とやらができてしまい、この世界の力が激減してしまうらしい。
だから、先に言っておくが、『やり直しができる』という力は求めても無駄じゃぞ」
(なるほど、コンティニューは不可ね。それにしても、植物云々は……。条件次第では相当なチートが貰えそうだな。さ、どんな能力を付けてもらいましょうかね。)
と、いうことで、俺は、義重さんが『閻魔大王』と呼んでいる神様(システム管理者?)と直接交渉をすることになったんだ。