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第296話 懇親会

慶長3年(1598年)11月 武蔵国豊島郡(としまぐん) 千代田城 北の丸 里見屋敷



『…………………………それにしても、いくら総王様がお強いとは言え、まともに打ち合いも出来ぬとは! ナリムブルのだらしないこと、同じ女真族の男として恥ずかしい限りにござる』


「打ち合わずとも済むように立ちうただけのことでござる。なにせ、私の得物は木刀。真剣相手に打ち合おうものなら、中途より断たれてしまいますゆえ」


『いやいや、“打ち合わずとも済むように戦う”など、普通は出来ませぬぞ?』


「まあ、相手が相手でございましたからな。これがヌルハチ殿であれば、私も木刀で戦うような真似はしませんでしたぞ?」


『総王様、事実とはいえ、流石にそこまで言うてはナリムブルが気の毒で……』


「続きは、“思わず笑うてしまう”ですかな?」


「『わははははははは!』」




 言おうと思っていたことを言い当てられたからか、ヌルハチさんは大きな声で笑う。そして、杯に注がれた酒を一気に飲み干した。




『いや~、日本の酒は旨いが、今日は特に旨い!! あのナリムブルの情けない顔と言うたら! 思い出すだけで、いくらでも酒が飲めそうです』


「お? また飲み比べをしますか? いつでも受けて立ちますぞ!」


『そ、そ、そ、それだけは御容赦を! 武術ならまだしも、総王様との飲み比べなど、命が幾つあっても足りませぬ!!』


「それはさておき、ままま、ヌルハチ殿、一献」


『そのようなことを言うて、酒勝負に持ち込む気では……』


「ばれたか!」


「『わははははははは!』」


・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・





 皆さんこんばんは、酒井政明こと里見義信です。

 御覧のとおり、今日は屋敷に個人的にヌルハチさんを招いて、『陛下への謁見を前した打ち合わせ』って名目で、一席設けたんだ。


 ヌルハチさん? 「酔いが回ってきた」って言って、さっき宿舎に帰ってったとこだよ。今日は彼、終始上機嫌だったんで、ちょっと飲み過ぎちゃったのかもね。あ、ちなみに宿泊先は赤坂に作った迎賓館(笑)ね。



 え? なんでヌルハチとそんなに仲が良くなったんだ、って?


 明の万暦帝(義兄)さんと結んだ北京条約の中に『明国内の貴金属以外の鉱山の自由採掘権』があったじゃん? 実は、遼東半島の付け根一帯には、鞍山あんざん鉱山って巨大な鉄鉱山と、撫順ぶじゅんを筆頭にした露天掘り可能な炭鉱が多数あるんだ。しかも、周囲の土地が平坦だから鉄道を敷設する難易度も低いんで、かなり早い時期から鉱山開発を始めてたの。


 そんな中で、ヌルハチさん率いる建州女直マンジュの領地の本渓って場所で、大規模な炭田が見つかったんだよ。あ、当然、知識チートがあるんで、元々採れるのは知ってたからね!


 建州女直領は明国内なのか属国なのかグレーなところがあったんで、直接ヌルハチ(族長)さんに採掘許可を得ようと、俺が出向いたんだ。その時、色々やったことで仲良くなったんだよ。



 え? 狙ってやっただろ?


 当然! だって、間違いなく時代の英雄の1人だよ? 会えるもんなら会っときたいし、出来るもんなら味方にしときたいじゃん?


 明並みの価格を提示した後で、「もし予に勝る者あらば」って買い取り価格の上積みを賭けて、剣・格闘・弓で勝負を持ちかけたんだ。で、結果は俺の2勝1分けだったの。


 それにしても驚いたのは、ヌルハチさんの能力の高さだね。『一目見ただけで技術をコピーできる』なんてチート持ちの俺が、剣と格闘では辛勝、弓では引き分けに持ち込むのがやっとだったんだ。特に弓は『引き分け』ってなってるけど、「何で引き分けられたのか?」って言えば、「俺がヌルハチさん自身の技を見てコピーしたから」だったりする。


 実は『清実録しんじつろく』って清朝が編纂した史書には、ヌルハチさんの神業みたいな武勇伝がいっぱい載せられてるの。本当のことを言うと「絶対眉唾もんだ」って思ってたんだ。でも、実際対戦してみて分かったよ。脚色はあるだろうけど、あれ8割方は真実だわ。いや、1代でのし上がった英雄はレベルが違う!


 きっと、ヌルハチさん本人も、自分の武勇に対して自信があったんだろうね。それをさらに上回る武勇を見せたことによって、俺に完全に心服してくれたってわけだ。


 でも、その後の宴会の席での飲み比べは、トラウマになってるみたい。持ってった焼酎を1斗空けたのは、流石にやり過ぎだったかな? 反省反省!



 話を戻すと、ヌルハチさんとはそれ以来の付き合いで、数年前には正妻腹の息子であるヘカンくんに、俺の娘である媖蘭えいらんを嫁がせる約束もしてるの。


 ちなみに、媖蘭えいらんの母親は、万暦帝さんの妹の朱堯媖(永寧公主)だよ。だから、将来2人に子どもが生まれれば、その子は明国皇帝の血も引くことになるの。すごいね!



 で、数年かけて関係性を深めてたとこに、「海西女直(ナムリブルたち)が東海女直と連合して、朝鮮方面への侵攻を企ててる」って情報が入ってきたの。


 三韓地域(朝鮮半島南部)に警報を発するとともに、門司から1個師団を大連に送り込んで、いざという時には満洲勢ヌルハチさんたちと一緒に、敵の本拠を突かせる態勢を整えといたんだ。


 そしたら、こっちが動き出す前に、宇喜多家が単独で女直連合を打ち破って、総大将(ナムリブル)以下有力者多数を捕らえちゃった。


 あ、ちなみに、一応朝鮮国にも一報は入れといたんだよ? でも、「(蛮族)どもに何が出来る」って言って、申しわけ程度に国境警備を固めただけだったんだって。ホント使えないよね?



 そんなわけで、遼東方面は『いざという時』が来る前に終わってたわけだけど、せっかく軍勢を動員しといて、そのまま終わっちゃ勿体ない。幸いなことに国境付近の撫順までは鉄道も開通してる。だから、有力者がことごとく囚われた上、戦士も壊滅状態の女直各部に攻め込んだんだ。当然、ヌルハチさんと連合軍を組んでね。


 普通だったら、こんなことしたら結構な抵抗に遭うし、恨みも残るとこだけど、今回に限ってはそうじゃなかった。大敗の噂を聞いたモンゴル人たちが、早くも外縁部の集落に攻め込み始めてたの。


 同族である満洲勢は、異民族への抵抗軍として、多くの部族から大歓迎を受けることになったんだ。当然、抵抗しようとする部族もいたよ? でも、人並み外れたヌルハチさんの武勇と、日本軍の近代兵器にかかれば鎧袖一触だった。


 そんな感じで、ちゃっかり女真族の統一に成功しちゃったってわけ。ヌルハチさんにとってみれば、まさに濡れ手に粟ってとこだね。


 最後に1つ裏話をしとく。俺の娘婿になる予定のヘカンくん。その伯父はなんと、ナムリブルだったりする(笑) 今回のことは想定外だったんだけど、早いうちに無害化(?)できて良かったよ!





次話は来週月曜日7時頃投稿予定です。

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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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