第288話 組閣
慶長2年(1597年)9月 武蔵国豊島郡 千代田城 吹上曲輪 相国府
皆さんこんにちは、酒井政明こと里見義信です。
これから、新しい政府の大臣を集めて最初の閣議を行う予定なんだ。
「『閣議』とは何か?」って、陛下からも御下問があったよ。だから、「明国では『相国』にあたる人物を『内閣大学士』と申します。相国である某の主宰する会議ですので『閣議』と名付けました」って答えといたんだ。そしたら、陛下、「なるほど、義信は博識であるな!」って仰った。だから『閣議』なの!
え? 本当のところ? 『俺が耳慣れてる言葉を使いたいから』に決まってるじゃん! 俺は、小笠原諸島の名前を残すため、わざわざ小笠原家の人間を召し抱えてから探険に送り出すような人間だよ? この程度の小細工はいくらでもするよ。
ただねぇ、各大臣が監督する省の名前については、“そう”簡単にはいかなかったんだよね。既にある言葉を変えるのは、なかなか難しくてさ。
例えば、『文部科学省』とか言われても、この当時『文部省』は無いし、『科学』に至ってはそんな熟語すら存在してないの。
ちなみに、律令制で学校を管轄する省は『式部省』で、『科学』は西周が明治時代に作った造語だからね。
強いて言えば、それでも『式部省』を改変して、『文部省』を作ることは可能だったんだけどさ。でも、せっかく作っても宗教関連は『治部省』の担当なんで、少なくとも両省を統合しないと、俺の思い描く『文部省』にはならないんだ。で、統合するにしても、現状では単純に統合しちゃったら、宗教関係のウエイトが大きすぎて、肝心の教育関係がおろそかになりかねないの。
そんなわけで、律令制の8省の名前は基本的に残したんだ。
ちなみにその8省、名前と役割はこんな感じ。
①中務省(後宮、伝奏、位階、戸籍)
②式部省(文官人事、学校)
③治部省(葬儀、寺社、雅楽、外交)
④民部省(租税、財政)
⑤兵部省(武官人事、軍事)
⑥刑部省(司法)
⑦大蔵省(出納、度量衡)
⑧宮内省(宮中一般)
このうち①の中務省は行政監察を司る弾正台と統合して、新たに相国直属の組織として『相国府』として再編したけどね。
当然、これだけだと色々と足りなさすぎるんで、新規で8省を設け、俺の新政府は1府15省で発足することになったんだ。
で、お待ちかね。これが初代の内閣の顔ぶれだよ。
①相国府(相国直属:人事) 次官:本多正信
(相国直属:行政監察) 次官:早川清次
②式部省(教育) 中山慶親☆ 次官:松永勝熊
③治部省(宗教対策) 西園寺実益☆ 次官:印東房一
④大蔵省(出納) 堀 秀政 次官:増田長盛
⑤民部省(租税、財政) 蜂屋頼隆 次官:長束正家
⑥兵部省(軍事) 勝又義仁△ 次官:島 清興(陸)
次官:角田一明(水)
⑦刑部省(司法) 武田信勝 次官:石田三成
⑧宮内省(宮中一般) 三条公広☆ 次官:中御門資胤☆
⑨外務省(外交) 北条氏直 次官:小笠原秀清
⑩内務省(警察) 風間義正 次官:山口光広
⑪工部省(内地開発) 毛利輝元 次官:長浜メンデス
⑫厚生省(衛生・疾病対策)宇喜多秀家 次官:曲直瀬玄朔
⑬農務省(農政) 佐久間安政 次官:大蔵長安
⑭産業省(殖産) 池田元助 次官:堀江頼忠
⑮究理省(研究開発) 岡本実元△ 次官:玉造アフォンソ
⑯拓殖省(外地開発) 戸崎勝久△ 次官:蠣崎慶広
次官:三要元佶
☆:公家 △:大名ではない大臣
……色々とツッコミどころが多いのは分かってるよ。堀秀政と蜂屋頼隆は織田政権時代からの宿老だから良いと思うんだ。でも、他の連中の顔ぶれを見たらさ、「コイツ大臣にして良いの?」or「そもそもコイツ誰?」ってヤツばっかりじゃん? 自分で任命しといてなんだけど(笑)
それにさ、大臣の中で里見家譜代は勝又義仁と、風間義正、岡本実元、戸崎勝久の4人だけだし、そのうち3人は大名ですらないし。
ただねぇ、コレ仕方なかったんだよ。まず、実力のある大名連中のほとんどは、海外領土の切り取りが忙しくて戻ってこられないの。なにせ、切り取りは『15年』って期限付きなんでね。指令を下した方としては無理強いは出来ないんだ。
それに、後々のことを考えて、譜代や親藩大名のほとんどを『単純転封』じゃなく『切り取り次第』に回しちゃったのも、ちょっと痛いね。
あ、『単純転封』の譜代大名も、いないわけじゃないんだよ?
白井富治とか、大掾清幹とか、岡見宗治とかさ。
でも、名前言われてどうよ?
能力的に秀でてるところがあれば抜擢もするけどさ、いくら何でも、これじゃあちょっと苦しいでしょ?
さらに悪いことに、今年は2年任期の老中の最終年だった上、年始に『大政奉還』をしたせいで、老中を含めた(使える)大名家の当主は軒並み現地入りしちゃってたんだ。この時代の交通事情じゃあ急に呼び戻すことも出来ないし、『老中の責務を果たせ』って呼び戻したところで『年明けには交代』じゃあ、どうしようもないよね?
だから、今回の大臣は「『切り取り次第』を気にしなくても済む」ってことを中心に、選んだんだ。ちょっとしょぼげな人が多いのは、そのせいだよ。
織田家系の人たちが多いのは、三韓地域に転封になってたから。ホントは堀秀政と蜂屋頼隆に加えて池田恒興を指名したかったんだけど、「隠居したから」って断られた。まあ、息子の元助は幕府が続いてたら次期老中の予定だったんで、まあ良しとしたよ。
佐久間安政は佐久間盛政の弟ね。盛政の死後加賀半国26万石を継承して、華々しくは無いけど普通に活躍してた。で、蒲生氏郷の横死後に老中になり、短いながらも幕政に携わった経験があるんだ。
毛利輝元と宇喜多秀家?
しょうがなかったんだよ。織田系ばっかりにするわけにもいかないし。特に、毛利輝元は老中首座も務めた経験があるんで、『入れない』って選択肢は無かったよ。
最後の宇喜多秀家は、『織田家系以外の三韓地域の領主』で『20万石以上』で、って探していったら、2人しか残らなかったの。
え? あとの1人? 龍造寺政家だよ。
鍋島直茂が使えるんなら、なんの悩みもなく選ぶんだけどね。流石に現状で下克上を認めるわけにはいかなかったよ。
北条氏直と武田信勝が入ってるのは、北条家:ジャワ島、武田家:スラウェシ島、って、家単位で切り取りを任せてあるからなんだ。入閣する2人の他に、北条家は播磨52万石の北条氏光が、武田家は甲斐32万石の武田豊信がいるんで、形としては「分業してもらってる」って言って良いと思う。
特に氏直さんについては、『里見信義の義兄』って人脈をフル活用して、外交面での活躍を期待してる。
ホントに大丈夫か、って?
ははは、そのために次官を付けてるんじゃないか。
基本的に官僚は幕府時代の『奉行』がそのままスライドしてるんだ。勝又義仁、岡本実元、戸崎勝久の3名に至っては、大臣にまでスライドさせちゃった。大臣が多少ボケてても、官僚がしっかりしてれば、国の運営は何とかなるはず。
そのうち硬直化するんじゃないか、って?
それは俺もそう思うよ。でも、そんなの何十年も先の話じゃん?
そんなに未来まで俺が責任をもつの? もちきれないよ。まあ、『なるべくおかしくならないように』、『自分たちで体制を変革できるように』って道は整えといてやるけどね。
さ、この後の閣議じゃあ、いきなり超重要な議題について揉んでもらわなきゃいけないんだ。閣僚のみんなには悪いけど、引き受けちゃった以上頑張ってもらわないとね。
※公家の大臣・次官については、“悪いこと”をしてなかった人の中から選ばれてます。
※コイツは誰だ? って人がいましたら、遠慮なく感想で聞いてください。




