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第278話 スペインポルトガル戦争の行方

天正20年(1592年)12月 山城国 愛宕郡あたごぐん 上京 京都御所



「……内外定まらず、忸怩(じくじ)たる思いであった。しかしながら、この度、あまねく天下に安寧が訪れることとなった。この慶びに際し、『天正』を改め、新元号を『文禄』とするものである。御名、御璽」




 御簾の脇に立つ関白 近衛信輔さんが詔書を読み上げると、居並ぶ群臣に向かって開陳した。


 実に20年ぶりの改元、明日から文禄元年がスタートだよ。ま、今は12月だから、1か月もしないうちに『文禄2年』になるんだけどね!



 皆さんお久しぶり! 酒井政明こと里見義信です。

 やっとの事で色々と落ち着いたんで、内向きに力を入れ始めたとこだよ。そのとっかかりが改元なんだ。


 のほほんと改元なんかしてる時点で想像は付くと思うけど、無事にスペイン・ポルトガルとの戦争には勝てたよ。


 アイツらなかなか降参してこないから、結局、大西洋にまで軍を派遣することになっちゃったけどね!


 まず、アジア方面だけど、6月中にマカオとマニラを攻略。7月にはマラッカ海峡以東から、ポルトガルの勢力を追い出した。


 8月に入ってフィリピンにメキシコからの援軍が到着するってハプニングがあったけど、上陸前に半分の船を沈めてやったんで、1日も保たずに降伏したよ。そもそも上陸されたとしても、たった5千じゃ相手にもならなかっただろうけどね。


 その後、占領したマラッカの街とマラッカ海峡に浮かぶ島々を交換するため、マレー半島の先端にあるジョホールの王様と交渉に入ったんだ。ちなみに、ジョホール王は二つ返事でOKしてくれたよ。


 遠方から来てる日本軍にとっては、大陸部分に拠点を持つより、背後からの襲撃を気にしなくていい島の方が嬉しい。マラッカ王子孫であるジョホール王家にしてみれば、ポルトガルに負けて奪われた首都マラッカに返り咲ける。って、両者Win-Winの案なんで、最初っから上手く行くだろうとは思ってたけどね。何はともあれ、シンガポールゲットだぜ!


 それだけじゃないんだ。なんとジョホール王は領地交換交渉の場で「臣従したい」とまで言ってきたの。元首都なのに何度攻め込んでも撃退されてたマラッカの街を、たった1日で陥落させた日本軍(俺ら)の戦力を正確に理解したんだろうね。


 あ、臣従は断ったよ。同盟は受け入れたけどね。南海は日本(総国)の領分だけどマレー半島は大陸の一部なんで、まず明に朝貢の使者を出すように言っといた。やっぱり筋は通しとかないとね。


 それに加えて、マラッカ攻略には、明人部隊も深く関わってるんで、常洛くんの(部下の)手柄を目に見える形で残しときたかったってのもあるよ。彼らもその後、随分と遠方まで転戦してくれたからね。



 で、シンガポール島とかビンタン島とかにドックやら倉庫やらを建造、インド洋方面への侵攻体制を整えると、10月にはセイロン島に上陸、占領した。


 そして、占領したセイロンに前線基地を移すと、そこを拠点に虱潰しにインド沿岸のポルトガル商館を襲う。その結果、翌天正19年3月には中心都市のゴアが降伏、インドからポルトガル勢力を追い出すことに成功したんだ。



 え? そんなに速いペースで占領していって大丈夫だったのか、って?


 うん。拠点に確保したセイロン島以外はイナゴ戦術に徹したんで、常にまとまった兵力を運用できてたよ。


『イナゴ戦術』って何だ、って?


 攻撃→占領→武装解除→財産没収→(ポルトガル人)追放→次の街へ。って流れで、大量発生した飛蝗イナゴが、農作物を食い尽くすみたいに攻めてくことだよ。ポルトガルに嫌がらせをするだけなら、コレで十分。そもそもインド全域なんて、現状じゃ逆立ちしても占領なんて出来っこないし!



 インドのポルトガル植民地を壊滅させた後は、オマーンとかホルムズ海峡あたりに残ってた拠点を潰しながら、アフリカの東海岸を南下してったんだ。


 こっちとしては、ザンジバルかモザンビークを占領した辺りで、降伏するなり和睦を求めるなり、なんらかの使者が来るんじゃないか? って予測してたんだけど、なんも音沙汰が無かったんだよね。


 日本軍こっちの侵攻が早すぎて、詳細を把握しきれなかったのか。それとも、日本なんて野蛮な先住民インディオ国家に、最新式の武器を持った西洋ポルトガル人が負けるわけがないって信じ込みたかったのか……。


 いずれにしても相手ポルトガルの反応が無いんで、面倒なことに大西洋にまで進出するハメになっちゃったの。



 アフリカ経由で大西洋に出るのの何が面倒かって、この当時、まともな港が現在のモザンビークの中部のソファラからアンゴラ北部のルアンダまで存在しなかったんだよ。その間なんと5,000km以上。


 現代のナミビアから南アフリカの沿岸部一帯は、農耕に向かないもんだから人口も希薄で、まともな国家が存在しなかった。めぼしい産品が何も無い(※見つけられない)もんだから、ポルトガル人が完全にスルーしてたんだよ。


 だから、世界史の教科書に絶対書いてある『1488年バルトロメウ・ディアス喜望峰に到達』から100年以上経つにもかかわらず、ケープタウンは存在すらしてなかったんだ。


 絶対、喜望峰とセットだと思ってたのに!



 港がなければイナゴ戦術も使えない。イナゴ戦術(略奪)が出来なければ、一から補給経路を整えてやらなきゃいけない……。


 仕方ないから一から整備しましたよ。ケープタウン。


 でも、前線にケープタウンだけあっても、それを後ろから支えるのがセイロン島じゃ、ポルトガル人のことを笑えない。だから中間にあるマダガスカルにも拠点を築くハメになったよ!


 おかげで、喜望峰を越えて大西洋に侵入するまでに5か月間も足止めを食らっちゃった。だけどそこからは早かったよ。9月にはアンゴラからポルトガル人を駆逐、11月にはベルデ岬諸島沖の海戦で、やっと出撃してきた大艦隊を壊滅させたんだ。


 で、生き残った連中を拿捕した船に押し込んで、「次はリスボンだけどまだやるの?」って手紙を持たせて送り返してやった。そしたら、年明けの今年2月になって、やっと白旗を上げてき(降伏し)たんで、許してやった、って感じかな。



 え? 前線の連中が勝手に講和を結んで良かったのか、って?


 やだなあ。最初から許容できる講和の条件を提示してあったに決まってるじゃん。そうしないと、使者が往復するだけで年単位の時間がかかっちゃう。だから、インド・アフリカ方面もメキシコ方面も、総司令官には全権を委任してあったんだ。



 え? メキシコの方?


 どっちかって言うと、メキシコ(あっち)の方が華々しかったかな? 戦線はあんまり拡大しなかったけどね。


 実は、インド(こっち)方面は、攻城戦と港の焼き討ち(ヒャッハー)が主で、まともな会戦になったのは、最後の『ベルデ岬諸島沖海戦』だけだったけど、メキシコには5波ぐらいに渡ってまとまった兵力が押し寄せて来たんだよ。


 攻め寄せてきたスペイン軍の総勢は10万を超えるかもしれない。しかも、アイツら『十字軍』とか言ってたらしいし。


 でも、正直言って対処は楽だったかな。なにせ、日本軍こっちが占領したベラクルスを奪回しようと、船で街に直接乗り込んできたもんでね。


 大方「数が多い? 大砲がある? ははは、どうせ先住民(インディオ)だろ?」とか言って、舐めてたんだろうね。


 ところがどっこい、兵力も日本こっちの方が上だし、使用してる大砲も性能が段違い。日本こっちの大砲は、射程も長ければ榴弾も撃てる。だからスペイン船(敵船)が沖でうろうろしてるところに、射程外から一方的に砲撃を加えてやったんだ。


 しかも、最初は、各地の総督同士の連携が上手く取れてなかったみたいで、先々週はキューバ、先週はプエルトリコ、今週は仕上げにイスパニョーラ島。てな感じで、西インド諸島の各植民地から五月雨式に攻めてきた。おかげで、余裕を持って各個撃破(対処)することが出来たよ。


 これ半年ぐらい繰り返したかな? スペイン側も流石に「コレじゃマズい!」って気付いたみたいで、翌天正19年の初め頃には、万単位の兵が押し寄せてくるようになったの。


 でも、残念ながら既に遅かった。日本からの援軍が続々と到着してたんで、ベラクルスの防衛体制も整ってたからね。それだけじゃないよ、海には日本軍のカリブ海艦隊まで登場してたんだ。


 ベラクルスには規模の大きい造船所があったし、奪ったり沈めたりした船もたくさんあったんで、結構簡単に組織できたらしいよ。エンジンがないから蒸気船こそ造れなかったけど、大砲の何割かは換装できたんで、見た目は一緒でも性能はスペイン艦隊を遥かに上回ってたんだな。


 万単位の兵が押し寄せてきても、直接ベラクルスに迫るのは同じだったのも悪かった。スペインの大艦隊は、まず海上で射程外から撃ってくる日本艦隊に追いまわされて、浅瀬に追い込まれて座礁。這々(ほうほう)ていで上陸してみれば、完全に包囲済み。日本軍に大量の捕虜(無給労働者)を供給することになったんだ。


 スペインの最後の抵抗は、天正20年1月。ベラクルスから数百㎞離れたユカタン半島の港に5万の兵を上陸させて、陸路を伝って攻めてきた。


『敵の手薄なところを突く』って発想は悪くないんだけど、残念ながら、ここはヨーロッパじゃない。メキシコの低地、熱帯雨林帯だ。そこを数百㎞も行軍すれば、どうなるか……。


 スペイン軍は多くの脱落者を出しながらも意地を見せ、ベラクルスまで50kmまでの地点まで到達した。しかし、そこまでだった。メキシコ湾と潟湖に挟まれた砂州上の隘路を抜けたところで、待ち構えていた勝又義仁(宗右衛門)率いる3万の軍勢に包囲され、壊滅した。


 お陰で大量に捕虜が取れたんだけど、この捕虜は扱いに困ったみたい。熱帯雨林を行軍してきたもんで、多数のマラリア患者が発生してたんだって。


 え? マラリアに罹った捕虜はどうしたんだ、って?


 ちゃんと治療してやったよ。なにせ、里見家うちではキニーネの開発に成功してるからね。ま、捕虜に使えるほどは大量生産できてないんで、今回はキナ皮を煎じて飲ませただけだけど。それでも効果はあって、多くの患者が回復したって聞いてる。


 回復した捕虜? 当然、強制労働だよ。


 本当は台湾か北海道辺りの開拓に使いたいとこだったけど、メキシコからじゃ移送に手間がかかりすぎるし、反乱とか起こされたら面倒だ。だから、太平洋とカリブ海(メキシコ湾)の間にあるテワンテペク地峡に街道を通す仕事をさせたの。


 ここ北側は熱帯雨林と沼地が広がってるんで、なかなかの難工事だったんだ。けど、最後の数万人が決め手になって何とか竣工できたよ。マラリアに罹ってもキナ皮があるから問題なし! 耐性原虫? 知らない子ですねー。


 テワンテペク地峡が使えるようになると、重い物を担いでメキシコ高原を越えなくて済むから楽なんだよ。今回の場合、特に大砲の運搬とか大砲の運搬とか大砲の運搬とかがね。



 ま、こんな感じで、東西ともに大勝利を収めることが出来たってわけ。


 戦争中の収支も大黒字。なにせ、西回りは、シンガポール、セイロン(コロンボ)マダガスカル(ディエゴスアレス)、ケープタウンを整備した以外は、ほぼ海賊行為を働いてたようなもんだ。東回りは、カリフォルニアを開発したりメキシコを占領・維持したりと、それなりに金がかかってるけど、メキシコ銀に加えて、パナマ沖ペルー沖の海賊行為で、ヨーロッパに送ろうとしてたペルーの銀も粗方あらかた略奪できたんでね。



 ちなみに、講和条約はこんな感じ。


 スペイン・ポルトガルは、

 1、天皇陛下を侮辱したことについて、教皇に謝罪の使者を出させること

 2、日本国内における信教の自由を許容すること

 3、日本人の信教の自由を許容すること

 4、公共の福祉や国家機密に反する行いをしない限り、国内での通商を認めること

 5、トルデシリャス条約とサラゴサ条約を破棄すること

 6、保有する太平洋上、インド洋上の離島について全て日本に割譲すること

  ※インド南端コモリン岬以東、グアム島以西は全ての島嶼を割譲

  ※上記以外では、大陸から10リーグ(約50km)以上離れた島を割譲

 7、マカオの居留権は明国に返還すること

 8、長崎の居留権は日本に返還すること

 9、マラッカはジョホール王国に返還すること

10、北緯32度以北のカリフォルニアを日本に割譲すること

11、植民地の鉱山採掘権を日本に与えること

  ※金・銀・銅を除く

12、本戦争で生じた損害について、永久に請求権を放棄すること

13、本戦争で返還・割譲された地を譲渡する際は必ず日本に許可を得ること


 日本は

 1、信者が上記原則を守る限り国内へのキリスト教の布教を認めること

 2、公共の福祉や国家機密に反する行いをしない限り、国内での通商を認めること

 3、上記以外の占領地から1593年末までに撤退すること

 4、ケープタウン(喜望峰港)をポルトガルに割譲すること

 5、胡椒、チョウジ、シナモン、クローブ、ナツメグの苗、各千本を譲渡すること

 6、スペインポルトガル植民地で開発した鉱山の利益について1割を納税すること

 7、本戦争に関して、新たな賠償を求めないこと


 

 どっかで見たような条件が入ってる、って?

 それは御愛敬だよ(笑)


 まあ、御覧のとおり講和条件については甘々にしといたよ。だって、スペイン・ポルトガルを痛めつけたところで、イギリスとオランダが台頭してくるのが早くなるだけだからね。



 いや~、それにしてもスッキリした!

 戦争も済んだし、朝廷の方から事あるごとに陳情されてた改元も済んだ。

 これでやっと本格的に国作りができるよ。




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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
確実に大海洋国家への道を歩んでますね 日の沈まぬ王国(?)になりつつある それにしてもチート能力をここまで使いこなす主人公は珍しいな 大抵はチート能力に振り回されるような話ばかりなのに、めちゃくちゃ…
イナゴ=公孫瓚、が最初に思いつきましたw 広がりすぎた領土に関しては「現地の勢力に頑張ってもらいます!」もするんですかね? (「負債を押し付ける」感じですがw)
せっかく整備したケープタウンをポルトガルに返還したのは、今後オランダやイギリスが進出してくるのを考えると、インド洋の玄関口の要衝を押さえておく戦略的価値は高いので、少々もったいないように思えます。 そ…
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