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第277話 メキシコ侵攻

ちょっと長めです。

 天正18年(1590年)8月  武蔵国 豊島郡としまぐん 江戸城



 老中や主要奉行の揃う中広間に、興奮した様子で1人の男が駆け込んでくる。その男は飛び込むように平伏すると、一秒を惜しむかのように発言の許可を求めてきた。


 今期の老中首座 土岐頼春が応諾すると、待ってましたとばかり男は叫ぶ。



「報告ッ! 三津さんしんより通信! 去る7月20日、畠山義長(征東将軍)様、メキシコシティ(メキシコ市)を攻略いたしました!!」


「真か!?」

「よしッ!」

「流石は義長(金吾)殿!」

「上様! おめでとうございます」




 重臣たちは口々に歓声を上げ、室内は大きな喜びに包まれた。


 俺も跳び上がりたかったけど、ぐっとこらえて、使者に問う。




メキシコシティ(敵首都)攻略、誠に目出度めでたい。で、その後、畠山義長(左衛門督)如何いかがすると言うておったか?」


「はッ! 既に、カリブ海側の港町、ベラクルスを占領すべく、勝又義仁(中将)様率いる1万の兵を派遣しておりますが、ベラクルス占領後は、予定通り、腰を据えて占領地を広げていくとのことにございます」


「うむ! メキシコシティ(敵首都)だけでなくベラクルス(カリブ海の玄関口)に気付くとは、流石は義長(左衛門督)だ。早速三津(さんしん)経由で補給物資と援兵を送る旨、く連絡せよ!」


「は!!」




 男は大きく頭を下げると、転ぶようにしながら広間から走り去る。

 俺はそれを見送ると、いまだ興奮冷めやらぬ幕閣たちに向き直る。




「さて、聞いたとおりだ。今回()我らが大勝利であった。しかしながら、人間は飯も食えば病にもかかる。軍には燃料や弾薬も必要だ。しかも、敵の拠点を押さえれば、守りや現地住民の慰撫に割く人間も必要となる。それらを差配する其方らは、敵地に乗り込むのと何ら変わらぬ重要な働きをしている。それを踏まえて、今日もよろしく頼んだぞ!」


「「「応!!」」」






 皆さんこんにちは、酒井政明こと里見義信です。

 今、報告にあったとおり、無事にメキシコシティを攻略できたよ。



 宣戦布告から2か月半での攻略って、流石に動きが速すぎないか、って?


 まあ、最初から狙ってからね。



 明との講和条約(北京条約)を結んだ時に、こんな条件があったの覚えてるかな?


 総王は

 ・倭国のみならず小琉球など蛮地の海賊も討伐し、明国沿岸の安寧を図る。

 ・総王は明国沿岸各省で海賊を取り締まる。

 ・総王は朝貢国の船舶に対する警備も行う。

 ・総王は許可無く明国の港湾に入港しようとする船舶を取り締まる。

 皇帝は

 ・明人の海外渡航は総王領に限り認める。ただし、永住は認めない。



 前にも言ったけど、これって「明との貿易がしたかったら、必ず日本を通せ!」って話なんだ。



 明の商人はだいぶ不満だったみたいだけど、万暦帝(お上)の指示だし、跳ねっ返りは悉く取り締まっ(海賊として処分し)たから問題ない。


 平民? 自分たちの生活を脅かしてた(?)倭寇(海賊)が取り締まられてるんだ。熱狂的に支持してくれたよ(笑)



 でも、問題はそこじゃない。この条約で直接的な対明貿易から締め出された連中がいるじゃん。


 そう、スペイン・ポルトガルだよ。



 スペインはマニラガレオンで中南米の銀を輸出し、明の絹や陶磁器を輸入することで、巨万の富を得てたし、ポルトガルは、ヨーロッパの国で唯一、明国内に居留地マカオを持ってて、マカオ―長崎航路は東洋におけるドル箱路線だった。


 コレを締め上げるんだ。こっちとしては、簡単に激発すると予想してたの。



 えっ? それにしては、開戦まで随分と時間がかかったし、そもそも、今回はお前の方から難癖を付けたんじゃないか、って?


 うっ……。それを言われると弱いんだよね。



 まず、マニラ航路なんだけど、明人に代わって日本人がマニラまでの輸送を牛耳るようになっただけで、ほとんど影響がなかったみたいなんだよ。


 ポルトガルには、それなりに影響があったみたい。ところが、不満を持ってる連中を総督たちが抑えちゃったらしいの。実は後でわかった話なんだけど、ポルトガルの東アジア方面での主要貿易品は香辛料と香木だったんだよ。


 明国産品の貿易は、輸送費の関係でスペインに到底太刀打ちできなかったんで、元々大した割合じゃなかったみたいなの。


 だから、締め出してもそんなに困ってなかったんだって。それどころか、目の前に香港(巨大な貿易拠点)ができたから、「わざわざ遠くまで買い付けに行く必要性がなくなった!」って、逆に商人たちには喜ばれてたらしいよ。


 そんなわけで、向こうから襲ってくる目がどんどん遠のいていってたわけ。

 そんな困った状況の中で、コエリョくんは良い働きをしてくれたよ!!




 話を戻そう。手を出すって決めたからには、徹底的にヤらないといけない。


 本当だったら本国に攻め込むのが一番効果的なんだけど、スペインもポルトガルも本国はイベリア半島(ヨーロッパ)だ。


「こっちには蒸気船がある!」って大口叩いても、スエズ運河もパナマ運河も無い現状だ。喜望峰(アフリカ南端)マゼラン海峡(南米南端)を通過しなきゃ辿り着かないんじゃあ、せっかくのアドバンテージを生かせない。


 ポルトガルにとって、マラッカとモルッカ諸島(香料諸島)、スペインにとってフィリピンは、確かに重要拠点ではあるんだけど、ここを落としただけじゃダメージは限定的だ。精神的に大ダメージを与えるためには、もっと根本的な拠点を押さえる必要がある。


 そのための標的になったのが、インドとメキシコだったんだ。



 ちなみに、インドについては最初から何とかなると思ってた。ポルトガルが傍若無人をやらかしてたせいで、マレー半島とかジャワ・スマトラあたりの国が中継拠点に使える目処めどが立ってたし、インドにおける支配地域も海岸付近に限定されてたからね。


 問題はメキシコだった。コルテスがアステカ帝国を滅ぼしちゃったせいで、内陸までスペインの勢力が浸透してるし、何よりも間に太平洋が横たわってて、日本からだと帆船なら3か月、蒸気船でも1か月半近くかかるんだ。


 1か月以上船に揺られた後、いきなり上陸戦をしろって言われても無理だろ?


 それに、直接攻め込むとしたら、食糧だってその分を積んで送り出さなきゃいけない。いくら、うちに数万人を運べる輸送能力があっても、それじゃあ戦争にならないよ。



 だから、メキシコ侵攻を見越して、対明戦が終わった3年前から着々と北米に拠点を築いてたんだ。


 具体的には、三津港(サンフランシスコ)を拠点に、カリフォルニアとシアトル周辺にピストン輸送で屯田兵部隊と開拓団を送り込んでたの。



 ちなみにメインの開拓地はサンフランシスコ湾の奥に広がってるセントラル・バレーね。ここ、コロンブス以前は北米有数の人口密集地だったらしい。でも、なぜか、かなり後の時代までヨーロッパ人に発見されてなかったの。つまり日本こっちにとってみれば、かなりの"穴場”なんだよ。


 で、先遣隊が到着した時には、伝染病のせいで人口が激減してたのか、空き地がいっぱいあったみたい。だから、結構簡単に入植できたらしいよ。


 一応、先遣隊には、ネット(夢の中)で調べて作った、『現地語会話集』を持たせといたんで、ほとんど(●●●●)争いは起きなかったみたい。そもそも原住民は蒸気船や工作機械を見た時点で恐れをなしてたって話だけど!



 無理矢理土地を奪ったのか、って?


 俺も自分の目で見たわけじゃないから何とも言えないけどさ、原住民にも対価は渡したって聞いてるよ。


 ガラス玉と酒?


 定番ネタだけど、流石にそれは……。まあ、酒はあげたけど、メインは砂糖とか漢方薬とかスイートコーンの種とかだよ。


 とりあえず、平和裏に入植地が造れたんで、重機も使って一気に開墾を進めて、今年の初めには、駐屯兵を5万近くまで増やしてあったんだ。


 あ、セントラルバレー(カリフォルニア)は食糧生産拠点だけど、シアトル近郊への入植は、主に炭鉱目当てね。セントラルバレーでは石炭はあんまり採れないんだよ。石油は出るんだけどね。



 ロスアンゼルスはどうした、って?


 前線拠点としては、明らかにそっちの方がメキシコ(敵地)に近くていいんだけどさ、残念なことに、あの辺りには既にスペイン人が伝道所(前線基地)を作ってたんだよ。もちろん開戦と同時に占領したけどね。


 だから三津港(サンフランシスコ)は前線拠点兼兵站基地としてしっかり整備したよ。防壁や砲台はもちろんのこと、大量の備蓄倉庫に武器工廠までね。


 造船所(ドック)に至っては、要塞内だけじゃなく、対岸の楢場(オークランド)にも造って、大量の輸送船を進水させるようにした。流石に機械の工場は造れなかったから、蒸気船は整備までしか出来ないけどね。


 そして極め付け。港を見下ろす双子山(ツインピークス)には通信施設を造ったんだ。


 そう! 連絡が来るのが異様に早かったのは、この通信施設のお陰だよ。現状では筑波山と江戸城、香港島と台湾の高雄、それとサンフランシスコにだけ設置してあるんだ。


 移動式にできれば良かったんだけど、まだ完成したばっかりで信用性がおけない上、何よりも電源の確保が難しくてね。


 そんなわけで、離れれば離れるほど即応はできないんだけど、船を使っての連絡じゃあアカプルコからでも2か月近くかかるのが、半月程度に抑えられたんだから、現状としては“御の字”だよ。



 まあ、こんな感じで、メキシコ侵攻の準備を整えたわけだ。


 侵攻部隊も畠山義長(うちのエース)を含めた、精鋭部隊を送り込んで万全を期したんだけど、今のところ期待以上の働きをしてくれてる。


 実は、地上戦の目標はメキシコシティ攻略だったんだけど、まさかこの短期間で、ベラクルス(カリブ海の玄関口)まで到達するとはね。


 このベラクルスは、メキシコ有数の港湾都市で、ここを押さえとけば、スペイン本土から来るであろう援軍の行動を、相当な規模で阻害出来るんだ。なんやかやで巨大な外洋船が接岸出来る港って限られてるからね。そこに気付くとは、流石畠山義長だよ。


 ま、目標は120%達成したんで、メキシコでの地上作戦はこれで一旦終了かな。今のところほとんど被害も出てない様子なんで、頑張ればパナマ地峡ぐらいまでは侵攻できるかもしれないけど、これ以上占領地を広げても、人手が足りないんだよね。


 でも、対スペイン戦はまだまだ続けるよ。メキシコを奪われたことで、スペインは新大陸の富の半分を失ったわけだけど、まだ半分は残ってる。こっちも押さえてやらなきゃ“画竜点睛を欠く”ってもんだからね。


 何って、ペルー副王領の銀だよ!


 流石にペルーまでは侵攻できないよ? けどさ、この銀って、ヨーロッパへは船で運び出してたんだよね。だから、快速船を派遣して片っ端から拿捕or撃沈してやる予定だよ。


 さあ、どのぐらいやったら音を上げてくるかね。今から楽しみだよ。



 ちなみに東南アジア方面は、既にマラッカまでは押さえられた。当然、それより東側、モルッカ(香料)諸島とか、ティモール島辺りに作られてたポルトガル植民地&商館も、全部占拠済だよ。


 今は、マラッカの元領主だったジョホール王と交渉して、インド攻撃のための拠点確保を進めてるとこ。日本こっちとしては、補給面や安全面を考えると、マラッカ海峡の入口にあたるリアウ諸島が欲しいんだよね。


「旧都のマラッカと交換して!」って交渉してるんで、「色よい返事がもらえそうだ」っては聞いてる。


 まあ、決裂した場合は、マラッカを拠点にするだけだからね。多分、一手間増える(実力行使する)ことになるんで、その点は面倒だけど、分からず屋には力を見せつけることも重要だから、必要経費(?)の内かな。


 この交渉が済めば、次の目標はセイロン島。セイロン島を攻略したら、そこを拠点にポルトガルのインド植民地を虱潰しにしてく予定。


 さて、ポルトガル(こっち)はどこで音を上げるかね。ゴアかな? それとも、モザンビークかな?


 流石にベルデ岬諸島まで攻め込むとか、オスマン=トルコと同盟組まなきゃいけないとかは勘弁してほしいんだけどな。


 ま、いずれにしても、西も東も数年がかりにはなるはずなんで、いろいろ計画的に進めなきゃね。







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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
北米西海岸へのルートは蝦夷からアリューシャン列島、アラスカ沿いを経由してシアトルに到達したのでしょうかね? ハワイ諸島に寄港できるとさらに早くなりそうですが、ハワイ王国建国前の原住民たちと上手く交渉で…
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