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第265話 宴の後で

 天正16年(1588年)1月 武蔵国 豊島郡としまぐん 江戸城



 皆さんこんにちは、もうちょっとで満20歳(はたち)になる酒井政明こと里見義信です。


 今? 今は、宵の口まで続いた宴が、やっと終わったとこだよ。


 いや~、それにしても飲んだ飲んだ! こんなに飲んだの初めてかもしれない。


 俺、ちょっとやそっとじゃ酔わないんだけどさ、なんと、今は“ほろ酔い”気分なんだ。河豚フグの卵巣食っても、ちょっと痺れるぐらいの俺がだよ!?


 流石に100人以上から杯を受けると、毒物耐性チートをフル回転させても、ちょっとは酔うんもんなんだなぁ。


 それにしても、この『酔った!』って感覚、前世以来かも。だから、20年ぶり?



 でもねぇ。また飲もうっては思えないんだよなぁ。酔った時特有の“ふわふわした感覚”は懐かしいし、気持ちもいいよ? だけどさ、その代償が“酒でタプタプになった腹”ってのは、ちょっとねぇ。


 腹が苦しくなるほど飲んで、やっと“ほろ酔い”って、コレ、一種の修行じゃね?


 酒って『楽しいから飲む』もんであって、いくら気持ちよくなったとしても、『修行のために飲む』んじゃ、嬉しさ半減だろ?


 飲まなきゃいいんじゃないか、って?


 でもさ、里見家(俺たち)は、織田家からスライドして天下人になったって弱みがあるじゃん? だから、立場上飲まないわけにはいかないんだよ。


 特に、今回の年賀の会は、明国皇太子(常洛くん)のお披露目と、皇太子領(●●●●)の認知が目的だったんで、『仕事』って割り切って飲むしかなかったの。そんなわけで、おなかタプタプぐらいは我慢しなきゃね。



 あ、常洛くんで思い出した! 分かってると思うけど、北条氏直(義兄)さんの発言、アレ、ヤラセだよ。


 氏直(義兄)さんはアホじゃないけど、そこまで頭が回るわけでもない。だから、ちょっと目端めはしく人は、もう気付いてるかもしれないね。


 でも良いんだ。目先の領地のことしか頭にない連中が、理解してくれればね。


 そもそも目端の利く連中は、「海南島(南方辺境)京畿道北部(朝鮮国境)なんて貰っても火中の栗を掴むようなもんだ」って分かってるから、最初から文句なんか付けてくるはずもないし。


 だって、言葉も通じない上に、事大主義に染まって日本(こっち)を侮蔑してる朝鮮の連中と、正対なんかしてみなよ。トラブルが起きないわけがないだろ?


 それに、朝鮮軍と向き合うことになったら、それに正対するのは九州を中心とする西日本の将兵になるはず。だけど、温暖な西日本の将兵には朝鮮半島の冬の気候はかなり厳しい。それこそ、史実の文禄・慶長の役では、兵の多くが凍傷にかかるとか、戦死者よりも病死者の方が多かったなんて話もある。


 そこで、山海関の降兵の出番だ。


 河北や遼東方面出身の将兵にとって、朝鮮半島は冬でも比較的過ごしやすい。その上、山海関の精鋭の勇名は、朝鮮領にも轟いてる。さらに、『宗主国の皇太子の手勢』ともなれば、朝鮮側としても手を出しづらい。


『朝鮮側が手をこまねいてる隙に、一気に半島南部の領国化を進めちゃおう!』ってのが、俺の基本構想。


 だから、里見義弘さん(父ちゃん)北条氏政()さんと相談の上、両国間に朱常洛領(明皇太子領)って緩衝地帯を設けることにしたんだ。


 で、それを氏直(義兄)さんに発表してもらったの。氏政()さんプロデュースでね!



 海南島?


 海南島(あそこ)を割譲させた主目的は、元々は良質な鉄鉱石を確保したかったからなんだよね。


 海南島(あそこ)は、海賊や西洋人の拠点として占領されず、なおかつ鉄鉱石がいただければ、放置でもいいかな? って思ってたぐらいなの。だから、常洛くんの配下が使えるのは『渡りに船』だったんだよ。


 そんなわけで、『海南島は朱常洛領(明皇太子領)』とは言っても、代わったのは州のトップと警備に当たる水軍ぐらいで、明の統治機構はそのまま生きてるんだ。


 ちなみに治安維持は地元の豪族と幕府水軍が協力しておこなってる感じかな。


 で、6万人ぐらいいた山海関の降兵は、ほぼ100%が漢城ソウル開城ケソンに入ってるんだ。家族ともどもね。


 ちょうど、今、朝鮮の文武百官が平壌に向けて移動してる最中なんで、漢城近辺ではどんどん空き家が増えてるの。その空き家を埋める意味からも、漢城周辺に住まわせるのは一石二鳥なんだ。



 そうそう、日本の統治下に入る朝鮮半島南部についてなんだけど、『旧支配階級である両班の特権は一切認めない』『財産ごと朝鮮王国へ移住することは許す』って、お触れを出したら、両班の多くが移住を希望してきたよ。


「領地・領民を捨てて自分たちだけ逃げよう」って、一部の下劣な連中を炙り出すつもりだったんだけど、結果的には大掃除(●●●)になっちゃった(笑)


 移住希望者たちは、船を用意した上、格安で(※皮肉じゃないよ)、朝鮮領内へ送ってやった。



 え? 財産を没収すれば良かったんじゃないか、って?


 やだなぁ! そんな下劣な人間の財産なんて没収してもしょうがないよ!


 ……ってこれは建前ね(笑)



 本音は、捨てられた領民のヘイトを両班たちに集めれば、その後の統治がしやすくなるからなんだ。中には領民の種籾まで奪っていった腐れ外道もいたんで、施しをしてくれる幕府軍が解放者扱いされてる地域も少なくないらしいよ。


 狙った以上の効果が出てるんで、こっちとしてもかなり助かってるんだ。



 ついでに言っとくとさ、こんな下劣な人間を大量に抱えた国。果たして今後どうなるのかねぇ?


 いや~楽しみだな~?(笑)






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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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