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第257話 山海関 ※地図あり

挿絵(By みてみん)

 明との戦争に関する概略図です。位置関係の参考になれば。



天正15年(1587年)8月 明国 北直隷きたちょくれい 北京城外六里屯 里見義信本陣


 皆さんこんにちは、北京城攻略中の酒井政明こと里見義信です。



 実は、ミンの油断に付け込んで、緒戦でいきなり天津を落とした幕府軍(俺たち)なんだけど、直接北京ここに押し寄せたわけじゃないの。


 まずは渤海沿岸を北東に進み、山海関を押さえにかかったんだ。


 山海関は、あの万里の長城の最東端。河北と遼河流域を隔てる要衝で、平時でも十万近い兵力が駐屯してる、明における軍事上の最重要拠点だよ。


 後に中華地域を統一することになる清朝シンちょうは、明が農民反乱で滅亡した後も、遺臣のもる山海関を攻略できず、反乱軍にくみすることを良しとしなかった守将の手引きがあって、初めて関を通過できた。なんてエピソードが残ってるくらい。



 幕府軍(俺たち)にとってみれば、現在駐屯してる10万の兵も脅威だけど、その後ろに控えてる遼東軍閥の精鋭たちに出てこられるのは、何としても避けたいところだったんだ。



 え? 兵器の技術差があるんだから、戦っても普通に勝てるんじゃないか、って?


 うーん、多分勝ては(●●●)すると思うよ? でも、目的は『心を攻める』ことだからね。援軍が来ると、折角折れかけた万暦帝たちの心が安らいじゃうだろ? それにさ、いくさは何が起こるか分からないじゃん? 特に今回は外地での戦闘だし、より安定した方を選びたかったってのもある。


 それにさ、下手に大勝利して、明軍を壊滅させちゃうと、別の意味で困ったことになるんだよね。



 何が? って、女真族(※満洲族)の英雄、ヌルハチの存在だよ。


 今回の介入のせいで歴史の展開が加速して、清朝の誕生が早まりでもしたら、日本こっちにも色々と困ったことが降りかかってくるんだ。


 ピンときてない人がいるかもしれないから触れとくけど、清朝の根拠地って、いわゆる満洲まんしゅうだよね。で、18世紀の満洲って、いわゆる“満州国”領の倍近い面積があったってのは知ってた?


 実は、黒竜江(アムール川)北岸と沿海州を合わせた土地は、“外満洲”って言って、清朝の根拠地(満洲)の一部なんだよ。19世紀に結んだ2度の条約のせいで、ロシアに割譲しちゃったけどね。


 で、地図を見れば分かるけど、外満洲って、間宮海峡を挟んで樺太と隣接してるじゃん? ってか、女真族(清朝)側は、今現在も「樺太は自分の勢力範囲」って思ってるかも……。


 江戸時代後半に日本が北に目を向け始めた時、樺太自体も対岸の沿海州も人口は多くなかった。だから、間宮林蔵とかが調査に入っても清朝の役人は友好的に接してくれたらしいんだ。だけど、16世紀現在は違う。


 実は、清朝って中華地域を征服する時に、女真族(自分たちの仲間)をみんな万里の長城の南に移住させて、満洲地域を人口希薄地帯にしちゃったんだ。理由は、「将来、中華地域を追われても、戻る場所を残しておくため」だったかな?


 現時点では満洲の人口は減ってないはずなんで、日本が北方(樺太)進出を図れば、間違いなく対決することになる。ってか、進出を図った段階では問題が無くとも、しばらくするうちに「東の近在に豊かな国がある」って伝聞が広まって、遊牧民どもを引き寄せかねないんだよ。


Q:遊牧民の親玉が強大な武力を持ってたら?

A:防衛のため強力な部隊を常駐させる必要がある!


 うん、無理! 将来的に高い生産性が期待できる蝦夷地(北海道)ならまだしも、農業生産力のまるで無い樺太防衛のために、今から間宮海峡沿岸に万余の兵を貼り付けておくとか、愚の骨頂としか思えないよ!



 てなわけで、遼東軍閥には、まだまだ強力な状態でいてもらわなきゃいけないの。


 今だから言うけど、広東・福建(華南地域)で暴れて(ミン)軍を南方に誘引したのも、遼東軍閥の兵力を戦闘がない地域で温存させることが目的の一つだったりする。




 北京には、遼東の援軍が来ないことを示すことで『心を攻める』。と、同時に、遼東軍閥の損害も最小限に留める。そのきもが山海関攻略だったんだ。



 ちなみに、山海関には10万の兵がいたわけだけど、結果的に攻略にはそんなに手こずらなかったよ。


 理由? 天津が陥落したことに慌てふためいた万暦帝が、北京防衛のため、駐屯部隊のほぼ全部に移動を命じてたからだよ。



 天津を出陣した畠山義長率いる攻略部隊7万が、北京へと急ぐ山海関の駐屯兵10万を捕捉したのは、ルートの中間付近にある灤州らんしゅう付近だった。奇襲をかけられれば最高だったんだけど、ここは敵地。相手もこちらの接近に気付く。双方が陣形を整えながら慎重に接近し、そして、会戦が始まった。



 もう予想は付くだろうけど、訓練通りの半包囲作戦が展開された結果、灤州らんしゅうの戦いは幕府軍こっちの完勝だったよ。


 大砲で敵陣を潰乱させて、銃兵が戦列歩兵チックにライフルを乱射しながらじわじわ前進する。そして十分に近づいたら、銃兵の後方から槍兵が跳びだして突撃をかける。それと同時に騎兵が両翼から敵の背後に回り込んで退路を断つ。


 射程外から一方的に撃ちすえられた上に、突撃してきた歩兵も、横撃をかけてきた騎兵も戦国時代を乗り切ってきた猛者揃い。そんな精鋭に北西南の三方から囲まれて攻め立てられた明軍の士気はだだ下がり。最終的には雑兵たちが指揮官の止めるのも聞かず、包囲網の空いた東に向かって逃げ出した。


 ところが、そこに現れたのは、幅が1kmもある灤河らんがの流れだ。流れを目にした先頭の兵は足を止めたけど、味方が後ろからどんどん押してくる。押され、踏まれ、足を滑らせ、哀れ明軍は万余の溺死者を出すことになったんだ。


 運良く浅瀬を見つけて灤河らんがを渡った明軍は、幕府軍に追い立てられながら、一路山海関を目指す。ほうほうのていで山海関前にたどり着いた明軍を待っていたのは、幕府軍の旗だった。



 里見家ウチのお家芸、敵前上陸(中入り)作戦だよ。前夜、菅達長かんみちなが率いる水軍と、風間正重(風魔小太郎)率いる特殊部隊を中心とした1万が、船を使って明軍の後方に上陸、夜襲をかけてたんだ。当たり前だけど、大軍で山海関に籠もられたら、どうしても攻略部隊の損害が大きくなるからね。


 結果的には作戦が大当たり。「皇帝陛下の危機だ!」って、山海関の守備兵はほぼ全軍が出撃してくれてたし、残ってた将兵も東側(女真)北側(韃靼)しか警戒してなかったから、いとも簡単に占領できたらしいよ。


 そんなこんなで、進むも退くも出来なくなった明軍は、とうとう観念して降伏したってわけ。

 これが山海関攻略作戦の経緯だよ。



 ちなみに捕虜は6万ぐらい出たんだけど、2万ぐらいいた負傷者は、全員、かんの東に放逐した。これは足手まといになる負傷者を押しつけて、敵の動きを縛る作戦だよ。


 それから、生き残った指揮官たちは、「琉球の逆臣どもに肩入れし、国の境を侵すとは何事か!」って、皇帝宛ての詰問状(?)を持たせて、北京に送っといた。


 使者を出したり親書を送ったりしないのは、無駄を省くためだよ。この程度の段階で親書を送ったら絶対に舐められるし、使者なんか送ろうもんなら、囚われて処刑されるのが目に見えてる。その点、敵の指揮官だったら、皇帝の怒りに触れて処刑されても痛くも痒くもないし。



 え? 残った4万の捕虜は何をしてるんだって?


 ほら、目の前で北京城の濠を埋め立ててるよ。「戦わなくても良いから軍属として働けば、終戦後に手当(給料)付きで解放する」って話したら、ほとんどがこんな具合で、陣地構築とかの土木工事他に従事してくれてるようになったんだ。


 応じなかったヤツ? ああ、奴隷一択だよ。石見銀山で短い人生を送っていただくことに決定です!


 で、反抗的な連中を鉱山送りにした後、残った連中に「どっちがいい?」って尋ねたら、みんな喜んで(●●●)軍属になってくれたよ。



 捕虜がサボったり、反乱を起こしたりしないのか、って?


 大丈夫じゃないかな? 捕虜たちは丸腰だし、それに労働条件は休憩付きの8時間交代制で、衣食住もきちんと与えてる。それに、作業中は後ろに督戦隊(見張り)も付いてるし、5人1組にして、相互監視もさせてるからね。



 あ、きちんと言うことを聞くんなら、こっちも約束は守るよ。働きが良い連中には賞与ボーナスも出す予定で、予算も計上してるぐらいだし。


 ただ、俺が許しても万暦帝が許してくれるかまでは責任もてないけどね。果たして、天子サマは敵の指示に従って都城の濠を埋め立てた連中を、笑って許してくれるほど慈悲深いかねぇ?



 まあ、そん時はそん時だ。俺が責任をもって、みんなの“亡命”を受け入れてあげるんだ。ちゃんと“手当”で買えるくらいに安価で土地も斡旋してあげるし。


 俺ってなんて優しいんだろう!(笑)











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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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