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第254話 緒戦の褒賞

 天正15年(1587年)6月 山城国 愛宕あたご郡 上京 京都御所



 献上品が運び入れられるたびに、居並ぶ公卿くぎょうたちから感嘆の声が上がる。蜀江の錦、景徳鎮の青磁、于闐うてんの玉……。本朝では万金を賭しても入手困難な宝物が積み上げられていく様は、まさに“壮観”としか良い様がない。




 ……ま、全部、略奪品なんだけどね!


 皆さんこんにちは、酒井政明こと里見義信です。

 明への攻撃が良い感じで進んでるんで、今日は陛下への報告がてら、京都御所に戦利品の献上に来てるんだ。


 ついでに、正月の明寇(琉球襲来)以降の戦果について、朝廷から御褒美をもらえることにもなってるよ。


 まあ、今回はドキドキ感はほとんどないんだけどね。何せ、関白の二条昭実にじょうあきざねさんたちとの事前協議も済んでて、褒賞の内容はほぼ分かってるからさ。


 ちなみに、この『献上品』なんだけど、事前にオークションにかけて、想定金額に達しなかった物が中心になってるんだ。



 え? 売れ残り(粗悪品)を献上したのか、って?


 違うよ! 今回献上したのは、『入札者たちの手が上がらなかった品』じゃなく、『手を挙げたけど落札できなかった品』なんだ。


 この競売(オークション)は、10日おきに博多で行ってるんだけど、実は、高級品(お宝)には、密かに『想定価格』を設定しててね。この金額に達しなかった略奪品(お宝)は、払い下げないことになってるの。


 そんなの当然、談合対策だよ!


 談合が始まるのは、最初から想定はしてたんだけど、案の定、1か月もしないうちに、商人連中あいつら、闇カルテルを組むようになってね、段々入札価格が下がっていったの。


 ところが、すっごい高級品が出たのに、やっすい値しか付かなかった時、いきなりこのセーフティーネット(?)が発動した。


「『想定価格』に達しなかったため、この品は不落にござる」


って司会者の宣言に、「お宝を低価格で手に入れられた」って、ほくそ笑んでた商人は大混乱。結果、ガチンコ入札に逆戻りしたと。おかげで、入札価格は高値安定! こっちもウハウハだよ!!



 ちなみに、オークションの収益は、1割の手数料(主催者側の取り分)を除いて、お宝を獲得(●●)した部隊と輸送にかかった部隊とで分配比率を決めてる。おかげで、中抜きとかもほとんど無いし、価値の分からない雑兵に芸術品が破壊されるなんて悲劇も最小限に留まってるから、各方面に好評を博してるよ。


 いずれにしても、かなり効率よく、秩序立った襲撃を行えてる感じかな?


 ま、襲われる方としてはたまったもんじゃないだろうけどさ。



『想定価格』はどう決めてるんだ、って?


 俺のチートが活躍してるよ。事前に商人たちに超高級品を持ってこさせたり、朝廷の許可を得て、正倉院の御物を見学したりして、見る目を養ったの。それと、閻魔大王(?)(時空の)のところ()で『豪運!何でも鑑定しちゃうぞ!!』とかを見て、鑑定の仕方を身に付けたんだ。


 だから、俺は『呂宋ルソンの壺』とかには、絶対に引っかからないよ(笑)


 ちなみに、『入札不調』になった品物は、里見家うちが『想定価格』で買い取ってるんで、実行部隊にも利益はちゃんと還元されるようになってるんだ。



 あ、このオークションのせいで、戦乱で焼失してた博多の街が完全に復興したんだよ! 土岐頼春(鎮西探題)とかが頑張って整備しても、なかなか人が戻ってこなかったのに……。カネの力って凄いね!!



 そんなことを考えてるうちに、お宝の搬入も終わり、俺は、御簾の中におわす、陛下からお言葉を頂戴することになった。




「征夷大将軍源朝臣(里見)義信。新たに本朝に加わった琉球の謀反を鎮めたばかりか、明国の大軍をことごとく捕らえ、返す刀で明国に懲罰を与えおること、誠に天晴れであるぞ」


「軍を預かる将軍として当たり前のことを致しただけのこと。……にもかかわらず、陛下よりお褒めの言葉を賜り、恐悦至極にございます」


「うむ! 其方の忠勤、朕も嬉しく思う。その忠勤を賞し、新たに『総王ふさのきみ』の称号を与える。今後は『総王ふさのきみみなもとの朝臣あそん義信よしのぶと名乗るが良い」


「分に過ぎた褒賞を頂戴しましたこと、有り難き幸せにございます! 必ずや、明賊どもを鎮め、日ノ本(本朝)の威光をから天竺てんじくまで届かせて御覧に入れましょう」


「それにしても義信よ。称号のみで良かったのか? 其方の功績は源朝臣義家、坂上大忌寸田村麻呂、平朝臣(北条)時宗を超えて、いにしえ神功皇后じんぐうこうごう様にも並ばんとするもの。望むのなら、関白や太政大臣に任ずることも、朕としてはやぶさかでないのだぞ?」


「それこそ、分に過ぎた褒賞にございます。二条昭実(関白)殿下を始めとする公卿の皆様方に一切瑕疵(かし)が無いにもかかわらず、私ごときがその職を奪うては天下の物笑いになりまする。『関白』推任につきましては、伏して御容赦を申し上げまする」


「何と慎み深い! 誠に天晴れじゃ!!」




 俺の話を聞いて感極まった陛下は、周囲に命じて御簾を上げさせる。そして自ら高座を降りると、俺の手を取って謝意をお伝えくださったんだ。


 流石に公卿の人達も「前代未聞におじゃる!」ってざわめいてたけど、「前代未聞の大手柄なのだ! 前代未聞の応対をして当然であろう!」って陛下が一喝して落ち着いたよ。


 それにしても、コレは完全なサプライズだったね。まさか、ここまで誉められるとは思ってなかったよ。


 ここまで陛下の御厚意を受けたんだ、俺としてもお応えしないわけにはいかない。


 当座は伏見に離宮を一つお贈りするって約束をしましたけど、陛下、楽しみにしててください。後々、もっとビッグな贈り物をしますからね!!








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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
「入札不調」はサトミ側から見たセリフ、この場合あの場では「入札不達」というのが正解だと思う。
単なる称号の授与では通常は一代限りのものなので朝廷への貢献度に対する褒美としては小さすぎて、帝が吝嗇との誹りを受けかねないのではないかと懸念します。そこで史実の豊臣秀吉に倣って源平藤橘と同様の本姓(氏…
朝廷の正式な場で里見って出ますっけ…? 最後で源になってますし基本源義信呼びなような…… あと褒美で貰うのが姓(かばね)なんですね 豊臣みたいに本姓として新たな氏を名乗れるようになるのでなくて形骸化…
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