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第248話 出征に向けて

天正14年(1586年)7月 常陸国 新治郡 土浦城 霞の間



 皆さんこんにちは、酒井政明こと里見義信です。


 今日は朝から秘密会議なんだ。俺以外の参加者は、土岐頼春(大叔父)さん、島津義久、堀秀政、伊達政宗、小野寺義道、戸沢盛安、内藤昌月の7人。そう、九州の10万石以上の大名を集めた形だよ。


 一人忘れてないか、って?


 良く気付いたね。佐賀36万石の龍造寺政家は、あえて呼んでないよ。本人の能力と、地域とのしがらみを考えると、呼んでもマイナスにしかならないからね。これが家宰の鍋島直茂だったら、ちょっとは考えるんだけど……。


 ま、そういう怪しい連中を締め出すために『秘密会議』にしてるんで、政家は自分の能力や人徳の無さを恨んでくれたまえ。そもそも知るよしも無いと思うけどね。秘密なんで(笑)






 それにしても、昨日一緒に飲んだ若手の3人には困ったもんだよ。今朝はことごとく具合が悪そうなんだ。若いくせに宿酔ふつかよいとか、だらしないったらありゃしない。同じように飲み明かしたはずなのに平気な顔の、堀秀政を見習ってほしいもんだよ。



 お前も一緒だったんじゃないのか、って?


 いや、俺には解毒チートがあるからさ(笑) 酔う以前の問題で、ちょっとやそっとの量じゃ、気持ちよくもならないんだよ。イメージ的には焼酎を1斗(●●●●●)ぐらい飲んで、飲める人のビールコップ1杯レベルの酔い加減かな? だからさ、実は俺、ほろ酔いするのも大変なんだよ?


 なのにアイツら、意地になって俺を潰そうとしてきやがるんで、反撃されてこの体たらくだ。キミたち、もう数年の付き合いなんだよ? そろそろ己を知って欲しいよね。



 ただな、俺は優しいから、一応、聞いといてやるか……。




「昨日に引き続きの登城、御苦労。……ところで伊達政宗(左京)小野寺義道(遠州)戸沢盛安(治部)。顔色が悪そうだが、今日は下がっておってもよいのだぞ?」


「うぷ……。それは気のせいにござる」

「御心配には及びませぬ……」

「……我らには構わずお話を進めてくだされ。(オエ)」




 ホントに大丈夫かよ? いきなりそこらに吐きちらかされたら困るんだけどな。

 ま、「大丈夫」って言うんだから信用してあげましょ。そこまでせ我慢をするなら、こっちは言うことも無いや。恥をさらすんなら晒してもらって……。




「……左様さようか? では、話すとしよう。昨日、私は、『唐入りは1年は繰り延べといたす』と言うたが、あれは表向きの話。この冬にも戦端を開く予定であるので、そう心得よ」


「なんと!」

「それは腕が鳴りますな!」




 口々に喚き出す連中を制止して、俺は話を続ける。


土岐頼春(太宰大弐)


「はっ!」


「筑前・筑後の所領については、与力の内藤昌月(修理亮)に任せ、肥前と壱岐・対馬の諸将を使うて、唐入りの拠点となる名護屋城の整備を進めよ。秋以降は順次中国・四国からも手伝いを回す。それらの人足を受け入れられるようにしておくことも忘るるな」


「心得ました」


「内藤昌月は与力として、土岐頼春に代わり九州探題の在所を筑前福崎に築くように。頼春は当然だが、水谷正村(幡龍斎)とも談合しながら進めよ。人足は筑前・筑後の国人衆を使え。自領の管理もあって大変だろうが、頼んだぞ」


「はっ!」



「続いて堀秀政(豊後侍従)、小野寺義道、戸沢盛安」


「はっ!」「「……はい」」


「おぬしらには、半年の猶予を与える。領内の国人衆に居城を破棄させ、主城下に住まわせよ」




 ここで、まだ青い顔をした戸沢盛安が、なんとか口を開く。




「拒否するような者は……」


「これは他の者にも言うておく。日ノ本(本朝)を挙げて外敵に向かわんとする時に、私利私欲で我が儘を通そうとする者は、もはや国家の敵(朝敵)である。ここに集うた者にはあらかじめ内書を遣わすゆえ、関東こちらはかるまでもなく、不埒者ふらちものは好きに処分して構わぬ」




(((おおう)))

 話を聞いて、満座からどよめきが上がる。



 え、何でどよめくのかって?


 そりゃあ、土着の国人衆に対する生殺与奪せいさいよだつ権が与えられたからだよ。


「家族全員引き連れて大名の根拠地に居を構えろ」とか、「領地を召し上げて全員俸給制にする」とか、『一所懸命』でり固まってる国人領主の感覚だと耐えられないような命令を出してもOK。で、従わないようなら有無を言わさず討伐して良いって言うんだ。中央集権体制を確立したい大名連中が喜ばないはずがないだろ?


 ま、里見家こっちとしても同じことを全国規模でやってるんで、与えられてしかるべきな権利なんだけどね。




「御内書まで頂戴できるとは思うても見ませんでした。有り難きことにござる!」

「流石は上様! これで統治がはかどりまする!」

「まさに!」


「うむ。唐入りの膝元たる九州は、早急に安定させねばならぬからな。ただし、正当な理由があれば別だぞ? 理由のある者を無理に追い込んで謀反など起こさせぬようにな」


「「「「「はっ!」」」」」




 これぐらい言っとけば、今日のメンバーだったらほとんど(●●●●)は大丈夫だろう。唯一の不安材料には後で個別に念押ししとかないと。


 こんなことを心中つぶやきながら、さらに話を続ける。




「堀秀政、豊後は広いゆえ、支城3つまで残すことを許すが、それも城主を置くのではなく城代を派遣する形を取るように」


「承知いたしました」


「伊達政宗は遊軍として、各所に駆け付けられるように支度を調えておくように。肥後は“掃除”が済んでおるが、筑前・筑後・豊前・豊後・日向の5か国はこれからせねばならぬところもある。また、九州が何も無いなら、出征(●●)してもらうこともありうるゆえ、準備を怠るな」


「有り難き幸せ! 腕が鳴ります(ウエ)」


「あー、意気込みは買う。だが、体調が悪いのだ。あまり大声を上げずともよい」


「……はい」




 興奮して大声を上げたせいで、戻しそうになった政宗をたしなめると、ここからが本日のメインイベントだ。


 俺は、顔を引き締めると、島津義久の方を向いた。




「最後に島津義久(修理大夫)。金5千両と米2万石を与えるゆえ、琉球征伐(琉球入り)の準備にかかれ。


 銭と米は、おぬしが薩摩に帰還する折に、一緒に運ぶようにと、安房の正木堯盛(淡路守)に命じてあるゆえ、運搬については心配せずとも大丈夫だ。


 また、正木堯盛だけでなく、讃岐の菅達長(越後守)と、志摩の津田信澄(兵衛尉)にも、ガレオン船(大船)坊津ぼうのつと山川港へ回航させるよう命じてある。()や兵糧などは気にせず、思い切り手柄を立ててまいれ」



「何から何まで申し訳ございませぬ。存分に働いて御覧に入れましょう」


「うむ。薩摩の猛者には物足りぬであろうが、よろしく頼むぞ」



「恐れながら、申し上げます!」




 ここまで話したところで、堀秀政が口を挟んできた。



「どうした、秀政?」


「はい。上様、琉球は小国でございますが、国は国。しかも、先日里見義頼(大御所)様の将軍宣下を祝し、使者が送られており、反抗的でもございません。どのような理由を付けて戦端を開かれますので?」




 うん、当然の疑問だね。ってか、こういう返しがあって良かったよ。


 今は弱肉強食の世の中だ。「相手が弱っちそうだから攻め込む!」ってのも、一応アリなんだ。だけど、やっぱり大義名分があるのと無いのとでは、全体的な志気とか、信用とか、色々な面で違いが出てくるからね。


 だからどんな大義名分があるのかを、みんなに説明してやることにしたんだ。





「うむ、当初は色々と条件を付け、拒否されたらいくさに訴えようと思うておったのだ。が、調べていたら色々分かってきたことがあって、な。義久」


「はい。我ら、鎌倉以来の地頭として役目を果たせねばなりませぬ」




 2人で悪い顔をしながら、色々と説明してやったら、みんな驚いてた。


 でも、まだまだあるんだな。


 俺は、懐から一通の書付を取り出すと皆の前に広げた。




「さらにな、実は先日の使者が持参した国書を改めたら、面白いことが書かれていたのだ。今日は写しを持ってきた。ほれ、ここを見よ」



「「「「「???」」」」」



「特に無礼な点はございませぬが? 上様、何が拙いので?」


「なんだ、分からぬのか? ここに書かれている人名、これは誰のことだ?」


「これはかの有名な……! あっ!」


「流石は堀秀政(名人久太郎)。分かったようだな」


「上様の御慧眼、恐れ入れました」




 まだ分かっていない4人には、堀秀政と島津義弘に説明させたよ。それにしても、理屈が分かるに従って、表情がどんどん変わってくのは見てて楽しいね。


 みんな完全に納得した顔になったんで、こう言ったよ。




「今の話の通り、唐入りの第一歩として、琉球に誅伐(●●)を加える。簡単に屈服すればそれで良し。しかし、琉球は明の属国、援軍が来るのが当然だ。その援軍を万全な状態で迎え撃つためにも、おぬしらには土台固めを頼む」



「「「「「応!!」」」」」




 俺の檄に宿酔ふつかよいの連中も酔いが醒めたみたいで、今日一の応えが返ってきた。


 さ、外征の始まりだよ。









普段は休日の先週末、休日出勤になってしまったため、今週は1話で終了です。

次話は来週月曜日7時頃投稿予定です。

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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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