第22話 決着
いつも誤字報告ありがとうございます。
元亀元年(1570年)7月 上総国伊隅郡 万喜城
「わたくしが、『おばあさまの3かいきで、ひいおじいさまとあいたい』と、もうしましたら、ちちうえが、『かたきじゃからならぬ』と」
「なるほど、義弘殿がな」
「はい! ですから、『どのようにすれば、かたきではなくなりますか?』ときけば、『ひいおじいさまが、あたまをさげてきたら』などと、むたいなことをもうすのです」
「……して、梅王丸殿はどうなされたのじゃ?」
「はい、『わたくしの、ひいおじいさまということは、ちちうえにとっても、おじいさま。まごが、おじいさまに、『あたまをさげろ!』などといっていたら、なかなおりなどできませぬ!』と、しかりつけておきました!」
「…………プッ、わはははははははっ! こ、これは可笑しい! いや、義弘殿を叱りつけたとな! そ、そ、その時の義弘殿の顔! お、拝みたかったのぉ!! ……ククククク、わはははは!!!」
俺の話がよっぽどツボにはまったのか、為頼さんは、笑いが止まらない様子。
あ、言い遅れました、酒井政明こと里見梅王丸です。いろいろあって、今は、土岐為頼さんの膝の上に乗って、お話をしてます。
2歳児が完全武装の鎧武者に囲まれたけど、作戦と天然で上手く為頼さんの懐に飛び込むことに成功したよ。
それにどうやら、つかみもOKみたい。この調子で本題に切り込んでいくよ。
「ほんとうにどうりのわからぬちちで、もうしわけございません」
「ひ、ひ、ああ、苦しかった。……いやぁ、良いものを聞かせていただいた! して、どうなされたのじゃ?」
「このはなしを、おじいさまもきいておりまして、『ならば、おまえがまんぎじょうにいって、しばらくあそんでもらってこい』と、いうことになりまして」
「なんと! 義堯殿の指示とな!」
「はい! おじいさまからきょかをいただきましたので、わたくしは、すぐにでもたちたかったのですが、いかんせんちちうえはしんぱいしょうで……」
「このような大軍が集まっておるのに、国境を越えるそぶりが全く見られず、不思議に思っておったが……。なるほど、合点がいった! それにしても梅王丸殿は愛されているの」
「はい、ちちうえが、『どうしても』と、ききいれず……。おじいさまは、『だんじょうのしょうひつどのはつまらぬこざいくなどせぬ』といっていたのですが……。でも、わたくしがもどるか、りょうけのわぼくがなれば、へいはひくことになっています」
「確かに、梅王丸殿をどうにかしようなどとは思っておらぬが、『和睦』か……。当家は現在、北条家と盟約を結んでおる。和睦は難しいかもしれんのぉ」
「土岐為頼様、梅王丸様! 発言をお許しください」
俺の話を聞いて、為頼さんが悩み始めたとき、すかさず元悦さんが口を挟んできた。ナイスだ元悦さん! このへんの機微は流石は外交の専門家だね。
ま、ここで入ってこなかったら使者として、存在意義に関わるからね。そもそも、俺が全部説明しちゃうのは、いくら何でも不自然極まりないし……。
「おお、岡本元悦殿。お話しくだされ」
「かたじけない。我らは、詳しい『盟約』の内容は存じ上げませんが、恐らく、『自家が攻められたら助ける』ぐらいの盟約ではございませんか? で、あるならば、里見家との和睦と、北条家との盟約、共存できるのではありませんか?」
「そのようなことが……! ん!? 待てよ!」
「お気づきになりましたか! 例えばですが、当家が主に戦っている相手は千葉家です。北条の援軍が来ることもありますが、相手が攻めてこない限り、陸戦で戦うことはございません。その千葉家は、北条家と盟約を結んでおりましょうが、土岐家の同盟者ではございますまい。ですから、当家と千葉家との戦に、土岐家が兵を出すいわれはないのではございませんか?」
「言われてみれば然りじゃ!」
「また今回に関しては、『万余の軍勢に囲まれて、援軍も来なかったため和睦した』とでも申し開きが出来ましょう。また、『武田との戦で大変そうだから、里見との和睦を仲介してやっても良い』などと言ってやれば、北条は文句も言いにくいでしょう」
「よくわかったぞ! して、詳しい条件は?」
「私、岡本元悦が一任されております」
「よし、わかった! 皆の者、土岐家は里見家と和睦をする方向で検討に入るぞ!
頼春、勝定、早速、元悦殿と条件の調整に入れ!」
「「はッ!!」」
「して、梅王丸殿は?」
「はい! わぼくがなるまで、まんぎじょうにいさせてください。できれば、おばあさまの3かいきには、ひいおじいさまとごいっしょしたいのですが……」
「おお! 分かりました。期待してくだされ!」
「わぁ! これでしばらく、ひいおじいさまとすごせます……」
「うむ! ん!? とうとう寝てしまったか……。よし、誰か、寝所の用意をいたせ」
「「はッ!!」」
こうして、俺は和睦の道筋を付けたんだ。最後は寝ちゃったんで、細かいことはよくわからないんだけど、なかなか上々の滑り出しだったよ。
これでもう一つの策が決まれば、完璧なんだけど……。でも、この先は、今の俺じゃ出来ることはないから、結果を待つしか無いんだけどね!
おまけ
夕食の席にて
「ところで梅王丸殿?」
「なんでございますか? ひいおじいさま」
「梅王丸殿は、先ほど、美濃守がワシでないと一目で見抜かれたが、なぜかお聞かせ願えませんかな?」
「はい! みののかみどのは、めが、ちちうえやあにうえと、まったくちがいましたので、すぐわかりました!」
「なるほど、目でござったか!」
「はい! もし、おおおじさまが、すわっていたら、きづかなかったかもしれません」
梅:あぶね~! 昼寝を長引かせて、その隙にQ&A準備しといて良かったぜ!
為:子や孫が「ワシと似ている」か、初めて言われた気がするが、思ったより嬉しいもんじゃな!
……それにしても、義弘に義継に頼春か。あの3人そんなに似ておったかのぉ?
ま、どうでもいいわい! 今日は旨い酒が飲めそうじゃ!




