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第207話 滝川一益さんの呼び出し

天正12年(1584年)12月 上野こうづけ国 勢多せた郡 厩橋うまやばし



 皆さんこんにちは、梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。

 今日は厩橋城(前橋)に来てるんだ。


 なぜ?って、関東管領の滝川一益さんに呼び出されたんでね。



 何の件かはだいたい予想が付くんだけど……。でも、里見義頼(義父)さんじゃなくて俺だけ(●●●)が呼び出された、ってとこが良く分かんないんだよね。『出兵要請』とかだったら、義頼さんに頼むのが筋だろうし。


 う~ん、なんだろう?



 すると、廊下の方から微かに足音が聞こえてきた。どうやらおいでなすったらしい。


 俺が居住まいを正すと同時に、ふすまがスッと開き、一益さんが現れた。


 そして、一益さんは俺の前に腰を下ろすと、すぐに深々と頭を下げる。




信義(上総介)殿、遠方より呼びつけておきながら、待たせてしまった。すまぬ」


「頭をお上げくだされ。私は、先刻着いたばかりでございます。それに一益(左近将監)殿は、関東に加え、いきなり北陸まで(●●●●)担当することになったのです。お忙しいのは当然のことと存じます。お疲れの出ませぬよう、御自愛くださいませ」



「温かい言葉、かたじけない。さて、本来であれば『茶の湯でも楽しみながら話でも』と言うところなのだが、今は、少しばかり時間が惜しい。無粋は重々承知の上で、本題に入らせてもらおうぞ。


 実は、信義殿をお呼び立てしたのは、北陸(●●)をお預かりした件も絡んでおってな」



「(ああ、やっぱりか!)では、御出陣でございますな」


「うむ、信義殿は理解が早くて助かる。先日、織田信包(御執政)様より『九州征伐の総大将に』と、内々に打診をいただいたのだ」


「……それは『おめでとうございます』で、よろしいのですか?」




 俺の疑問形の祝辞に、一益さんは一瞬口元を歪める。


 まあ、『総大将』って言っても、あんなこと(●●●●●)があった後じゃあ、喜べるわけ無いわな。




「流石は信義殿。気付かれてしもうたな。


 柴田勝家(権六)殿があのような(●●●●●)ことになり、丹羽長秀(五郎左)殿も明日をも知れぬ重病だ。かと言って池田恒興(勝三郎)あたりでは力不足だし、堀秀政(久太郎)蒲生賦秀(忠三郎)は、力はあっても、まだ重み(●●)が足りぬ。


 残るは羽柴秀吉(筑前)ぐらいだが、秀吉(筑前)の軍勢は、激戦であった四国征伐の傷が癒えておらぬと聞く。


 と、いうことで、残っておるのはそれがしぐらいしかおらぬのだ。火中の栗を拾うようなものであるし、関東(領国)からもかけ離れておるしで、『遠慮できるものなら遠慮したい』というのが正直なところではあるのだがな……」



「それは何と申し上げれば良いものやら……。しかし、気が進まぬ戦とはいえ関東管領様の御出陣でござる。組下の里見家(当家)といたしましては、全力でお支えする所存。先陣でも中入りでも、何なりとお申し付けくださいませ!」




 俺は全面協力を約束したんだけど、一益さんの表情が緩むことはなかった。


 それどころか、さらに顔を渋くしてでこう続けたんだ。




「有り難き言葉……。ではあるのだが、此度こたびいくさ、里見家には関東の留守居をお願いしたいのだ」




 ああ、なるほど! 「里見家は出陣させられない」って断りを入れようとしてたのね。

 もしかして、「手柄を立てる機会が減る!」って怒り出すとでも思ったのかな?


 俺としては、もう御褒美は"お腹いっぱい”だから、これ以上手柄を立てる気はなかったんだけどね。わざわざ、こんなことを言うなんて…………あ! さては一益さん、どっかから「里見を参戦させるな!」ってプレッシャーを掛けられてきたな!!


 確かに、里見家うちが参戦したら、例のごとく大手柄を立てる可能性が高いけど、これ以上褒美を与えたら、里見が拡大しすぎて手に負えなくなっちゃうと思われたんだろうね。




「どうやら里見家は手柄を立てすぎたと見えますな」


「うむ、それがし個人としては、精鋭ぞろいの里見家の軍兵は、のどから手が出るほど欲しいのだが……。上方かみがたには、つまらぬこと(●●●●●●)を考える者も少なくなくての。此度こたびの出陣、里見家全てとは言わぬまでも、信義殿だけでも出陣してもらえるのなら、我らも相当楽になるのだがな」


「分かりました。そのような事情でしたら致し方ありませぬ。此度こたびの出陣は遠慮するよう、義頼(義父)にも上手く申し伝えますゆえ、御安心を。……ただ、軍兵や兵糧の輸送などについては、何なりと御申し付けくだされ。いくら何でも、此度こたびは勝たねばまずいでしょうから」


「その厚意、有り難く頂戴いたす」




 俺の言葉を聞いて、一益さんは幾分表情を緩め、頭を下げる。しかし、すぐに顔を引き締めると話を続けた。




「ただな、信義殿、ここからが本題なのだ」




 えっ?




それがしの関東の領地だが、信義殿の上方の領地と交換してもらうわけには参らぬか?」





「………………………………はぁ?」






 ちょっと予想外の話が出てきたんで、思わず変な声が漏れちゃったよ。


 う~ん、考えてみれば、確かに関東の兵を率いて、九州に遠征するのはキツいよね。


 それに、里見家うちにとっては、数年掛けて安定させ、収入が上がるまで開発を進めた土地を手放すのは、確かにちょっと(●●●●)痛い。だから、一益さんが言いづらそうにするのも分かる。


 でも、この領地交換、見方を変えると、俺にとっては飛び地の解消になるんだよね。それだけじゃなく、石高もざっと1.5倍ぐらいに増えるような気が……。


 コレ、里見家うちにとって美味しすぎるんじゃない!?

 それに”関東管領(●●●●)”が、『関東の領地を全て放棄する』って、あり得ないんだけど!


 はっ! まさか、罠!?


 もしかして、ホイホイ受けちゃうと、「織田家の苦境に乗じて関東管領の領地を掠めるとは不届き至極!」とか言われて、罰せられるパターンなんじゃね? こりゃあ、慎重に答えないと。


 何とか再起動を果たした俺は、頭をフル回転させて一益さんに問う。




「なるほど、九州に向かうに当たって策源地は近いに越したことがありませんからな。しかし、幾つか懸念があるのですが……」


「うむ、手塩にかけた領地を手放さねばならぬのは辛かろう……」


「いや、それはどうでも良いのです」


「?」




 俺が食い気味に話を被せると、一益さんは疑問たっぷりの表情になった。


 一益さんのこの表情を見ると、策略じゃない感じがする。だけど、万が一を考えて、“罠”の前提で話を進めるよ。そう簡単には引っかからないんだからね!

 それに、これが罠じゃなかったとしたら、無欲さをアピールする絶好のチャンスなんだ。今後の心証を良くするためにも、しっかりといい人ムーブを出していくよ!!






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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました 更新楽しみにしています
[一言] 第3章開始ありがとうございます。 柴田勝家の「あのようなこと」というのが気になりますね。「越国」独立とか企てて粛清されたのでしょうかね? それと織田家の現状は中国地方は備中や因幡辺りで止まっ…
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