第205話 賞罰の罰
ちょっと短いです。
天正12年(1584年)8月 常陸国 新治郡 土浦城 本丸広間
皆さんこんにちは、梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。
さっきから始まった論功行賞なんだけど、処分の方から先にする予定。後回しにすると、こっちの気分も悪くなるからね。
ちなみに、発表役は俺じゃなく、重臣の1人、印東房一が務めてる。
何で俺が発表しないのか、って?
そりゃあ、万が一乱心するヤツが表れたら、有無を言わさず制圧するためだよ。流石に今回は、いきなり暴れ出すヤツはいないだろうけど、安東愛季の件もあるから絶対とは言い切れないじゃん?
だから俺と義弘さんは左右で普通に帯刀してるんだ。
おっと! 早速処分が始まるよ! 最初に呼び出されるのは、やっぱり……。
「南部信直殿」
「……はっ!」
「領内の乱を自ら鎮定できぬばかりか、公儀より預かりし代官領まで一揆を広げるとは言語道断である。また、2年目にして参勤交代の義務を果たさぬなど、その罪は重い」
「面目次第もございませぬ」
「本来であれば所領半分の没収が妥当である。しかし、九戸城では一番乗りを果たし、数多の首を取った。また、一昨年は、いち早く土浦に参じておる。それらの功に鑑み、罰は昨年加増いたした岩手郡と代官を任せた志波郡の没収に留めるものといたす」
「御厚情、誠に痛み入りまする」
明らかに安堵した表情で、信直さんは自席に戻る。まあ、改易どころか、切腹を申し付けられても不思議じゃないのに、新領の減封で済んだんだ。安堵するのは当然だよね。
処罰がまだるっこしいって?
確かにそうなんだけどさ、残念なことに、急拡大を始めて10年ちょっとの里見家としては、旧領主を改易しまくっちゃうと、現状では統治のための手が回らなくなっちゃうんだよね。
でも、今、論功行賞を仕切ってる印東房一とか、活きの良い若手は確実に増えてる。だから、あと数年もすれば、状況は変わってくるはずなんだよ。もうしばらくは反乱とかに警戒しながら、徐々に影響力を削いでく方針が続きそうだよ。あ~あ、面倒くさい!
「続いて、葛西晴信殿」
「はっ!」
「率先して一揆を征伐するどころか、家臣の統制も効かず……………………」
結局、葛西晴信さんは委託されてた代官領全てと、登米郡を新たに没収されたよ。元々半減してた領地がさらに削られたわけだけど、家臣に押し込められてるようじゃ、仕方ないよね? でも、晴信さん、観察してたら表情から不満が滲み出てた。
自分のやらかしが分からないようじゃ、どうしようも無いね。もしかしたら、近々なんかやらかすかも。いい加減、勘弁してほしいなぁ。
最上義光さんと稗貫広忠さんは所領安堵だけど、代官領は没収となった。こっちは安堵の表情だったんで、今後、余計なことは起きないと信じたい。
そして……。
「大崎義隆殿」
「……はい」
「一揆勢に領地を蹂躙されたのみならず、早々に自力での解決を諦めるとは領主としての資質を疑わざるを得ぬ。また、援軍に駆けつけた里見信義様への家臣の暴言も許しがたき所業である。切腹を申し付ける……」
真っ青になって震え出す義隆さん。何か言おうとしてるようにも見えるけど、口をパクパクさせるばっかりで、声も出てこないみたいだ。でも、この話には、まだ続きがあるんだな。
「……ところなれど、里見家の縁者であることを鑑み、罪一等を減じ、ここ土浦での隠居を申し付ける。また、堪忍領として、禄二千俵を給するものとする。
次の当主については、予てよりの約定通り、里見義弘様の次子、明星丸様が継ぐものといたす。大崎義隆殿の養子として、御息女を娶ることとなるゆえ、そちらの準備も遅滞無きように。
なお、大崎家に対する罰としては、代官に任じていた栗原郡を没収するものとする。大崎義隆殿。ここまでで何か申し上げたき儀はござるか?」
「い、いえ、あ、あり、有り難き幸せ……」
義隆さん、這々の体で下がっていった。まあ、これぐらい脅しとけば、おかしなことは考えないんじゃないかな? まだ大崎領入りは先になるけど、かわいい弟には、安心して領地経営をしてほしいもんだよ。




