表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/298

第20話 曾祖父・土岐為頼

 元亀元年(1570年)7月  上総国伊隅(いすみ)郡 万喜まんぎ




「して、だんじょう(弾正)しょうひつ(少弼)さまは、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」



 そう、俺は高座の鎧武者が、土岐為頼(曽祖父)さんじゃないことは、最初から分かってた。


 何で分かったかって?


 面鎧まで付けて完全防御してても、隠せないところが1つあるだろ?


 そう、目だよ。


 この人、義重さん(前世)の記憶にある為頼さんと目が違うんだ!




「な、なにをおっしゃる!!」




 上段の間に隣接する位置に座ったおじさんが声を上げた。あの位置にいるからには、土岐家の親族、もしくは家老かな?


 俺は“こてん”と首を倒すと、こう聞いた。




「……それから、もうひとつ、おうかが()いしたいことができました」


「なんでござろう?」


「いったいあなたはどなたですか?」




 可愛らしく言ってみたけど、裏の意味は、「あぁん!? 俺は里見家の正統な血筋だぞ? わざわざ俺が出向いてやってんのに、こっちに名乗らせといて、名乗りもしねーとは、おめー、何様のつもりだ? ごるぁ!」ってことだ。

 この人、岡本元悦さんとは知り合いなんだろうけど、俺とは初対面なんだよね。そして、当たり前だけど、元悦さんより俺の方が立場が上だ。いきなり策を見破られたので焦ったのかもしれないけど、ちょっと失敗したね、おじさん。



 おじさんは、一瞬なにを言われたのか分からなかったみたいだけど、みるみる顔が青くなっていった。どうやら気付いたみたい。まあ、俺の台詞せりふから、やらかしたことに気付くんだから、どうやら馬鹿じゃなさそうだ。


 そんなことを考えていると、顔を青くしたおじさんが答えた。




「梅王丸殿、誠に失礼いたした! 土岐為頼(弾正少弼)が嫡男、右京大夫うきょうのだいぶ頼春よりはると申す」




 満2歳(3つ)の幼児だと思って舐めているからこんなことになるんだ。ま、あんまりチクチクいじめて、後で遺恨を持たれるのも面白くないから、今回はこのぐらいで許してやることにする。




「なんと! うきょうのだいぶ(右京大夫)さまでございましたか! うきょうのだいぶ(右京大夫)さまといえば、わたくしのおおおじ(大叔父)さまではございませんか! ()らぬこととはいえたいへん(大変)なごぶれい(無礼)を!」


「いやいや、名乗りもしなかったこちらこそ大変な無礼。お互いに水に流すということにしていただけると、こちらとしても助かり申す」


「わかりました。おたが()いさまということで。では、みず()なが()したついでに、これからはおおおじ(大叔父)さまとお呼びしてよろしいでしょうか?」


「そのくらいでしたら、何も遠慮することはござらん。如何様いかようにもお呼びくだされ」


「ありがたきしあわせ! では、いきなりですが、おおおじ(大叔父)さま、ひとつおねが()いがございます」


「何かな?」


「はい、こうざ(高座)にいらっしゃるほうじょうけ(北条家)かた()を、ごしょうかい(御紹介)いただきたいのですが……」


「え!? いや、こちらは北条家の方では……」


「はい!? ほうじょうけ(北条家)かた()ではないのですか!? だんじょう(弾正)しょうひつ(少弼)さまはいらっしゃらず、よつぎ(世継)おおおじ(大叔父)さまはしもざ(下座)にいる。ではこのおかたは!?」



「いや、こちらは……」


右京大夫うきょうのだいぶ。もうよい!」




 土岐頼春さんが、まだ何かを言おうと、口を開きかけたとき、その言葉は室外からの言葉に遮られた。


 そして、上段の間の奥にあるふすまが開いて、1人の正装の老人が広間に入ってくる。


 義重さんの記憶よりもだいぶ若いけど、間違いない。これこそが本物の土岐為頼さんだった。



「梅王丸殿、大変失礼いたした。わしが土岐とき弾正少弼だんじょうのしょうひつじゃ」


「ち、父上、なぜ……」


右京大夫うきょうのだいぶ、梅王丸殿にはもうとっくに見抜かれておる。これ以上続けても、墓穴を広げるだけじゃ」




 頼春さんと話し終えた為頼さん(曾祖父さん)は、高座に座る鎧武者に向かって話しかけた。




「美濃守、影武者ご苦労であった! 兜を取ってよいぞ」


「ご当主さま、役目とはいえ、土岐家累代の鎧に袖を通せたことは身のほまれにござる。そして、このような機会は二度とございますまい。今暫いましばらく、このままで居させてくだされませぬか?」




 それを聞いた為頼さんは、済まなそうな顔をして、こちらに向き直る。




「梅王丸殿、無礼は承知の上でお願い申し上げる。この鎗田美濃守は、筆頭家老でありながら、影武者をしてくれておった。此度の働きへの褒美として、このままの出で立ちで過ごさせてやりたいのだが、お許しいただけぬか?」



みののかみ(美濃守)どのが『ほま()れ』とまでおっしゃることです。みと()めないわけにはいきますまい」



「「かたじけない!」」




 俺の話を返答を聞いて、2人は揃って頭を下げた。



 それにしても、『名誉』を持ち出して、完全武装の状態を保とうとするとはね。


 本当は、「梅王丸(幼児)岡本元悦(坊さん)だけしかいないのに、どんだけ警戒してるんだよ(笑)」って笑い飛ばして、マウントを取った上で武装解除させる予定だったんだけど、ちょっと言い出しにくくなっちゃったな。流石は筆頭家老だ。『天然』の可能性も否定できないけど、油断して良いことなんて何もない。これからが本番だと思って、しっかりと気を引き締めていかないとな!



 そんなことを考えているうちに、席の入れ替えも終わり、改めて俺は、土岐為頼さん(曾祖父さん)との対面を果たすことになったんだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ