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第183話 小弓公方 VS 古河公方家

天正11年(1583年)1月 下総国 葛飾かつしか郡 古河 鴻巣こうのす御所



 皆さんこんにちは。梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。 

 今、古河公方家の後継を話し合ってるんだけど、冒頭『氏姫ちゃんを後継に』って話が出た瞬間、小弓公方サイドの佐野政綱さんから、きっついジャブが入ったとこだよ。


 で、間髪を容れず、ジャブを放った政綱さんをたしなめるように、小弓公方の足利頼淳さんが口を挟んだ。




政綱(大炊助)、今は義氏(右兵衛佐)殿の喪中であるぞ。失礼なことを申すでない。喪が明けてからに決まっておるではないか。のう、一色直朝(宮内大輔)?」




 フォローすると見せかけて、足利頼淳さん(小弓公方本人)が追い打ちをかける。それにしても、この阿吽の呼吸! 長いこと苦労してきた2人だからこそできる芸当だね。




「い、いや、お待ちくだされ。最早こうなっては氏姫様を輿入れさせるわけには……」


「ほう。面白いことを申すものじゃ。氏姫殿の輿入れは関東総和睦(里見・北条和睦)の折に結ばれしもの。いくらおぬしら奉公衆とは言え、足利家のあるじが合意した約定を家臣の都合で勝手に破棄してよいものであろうか? のう、北条氏忠(左衛門佐)殿?」




 いきなり話を振られた氏忠さんだけど、こっちは冷静に返してきた。本人の能力もあるだろうけど、やっぱり当事者じゃないってのが大きいのかな? あるいは、関東制覇のため古河公方家の権威を欲してた昔とは違って、今は利用価値もほとんど無いんで、“他人事”になってるだけかもしれないけどね。




「うーん、そうですな……。足利家の皆様に関わる条件は、こちらにいらっしゃる頼淳(小弓御所)様と、義氏(古河御所)様、藤政(関宿御所)様との間で合意されたものと記憶しておりまする。途中、藤政様が逝去された折にも改められることなく続いていたことを考えれば、今回も尊重すべきかと。また、皆様が修正を望まれているならともかく、当事者でもある頼淳様が拒まれるのであれば、改めるのは難しいのではございませんか?


 私としては、このように愚考いたす次第ですが、里見義弘(瑞龍院)殿、いかがでございましょう?」



「うむ、氏忠(左衛門佐)殿の仰るとおり! 儂も同じ考えじゃ」


「し、しかしそれでは古河公方家が……」




 苦悩する直朝さんに向かって、頼淳さんが口を開く。




「その方らは、古河公方家を存続させようと悩んでいるようじゃが、そのようなこと、いとも容易たやすいことではないか」


頼淳(小弓御所)様、それは如何なる方法でございましょう?」


「ほれ、義弘(瑞龍院)殿の奥方は晴氏(永仙院)殿の娘であろう? すなわち子は義氏殿の甥。このような血縁者がおるのじゃ、義弘殿(里見家)から養子をもらえば、すぐに一件落着であろう?」


「「「なっ!」」」

「なるほど!」




 この頼淳さんの爆弾発言のおかげで、揉めるかと思ってた話は、あっという間に反転、一気に終局に向かったよ。


 小弓公方家への氏姫ちゃんの輿入れに難色を示してた古河奉公衆だけど、これ以上ごねると古河公方家( 御家 )が乗っ取られる危機だって気付いたんだろうね。なにせ、里見家が本気でそれ(●●)を選んだら、古河公方家家臣団の力じゃ拒むことなんてできっこないんだからさ。


 あ、ちなみに、1人だけ合点ガッテンしたのは、義弘さん(父ちゃん)ね。義弘さん、本気で俺を養子に出そうとし始めるんで、必死で止めたよ。



 そんな名誉なことを、なんで止めるんだ、って?


 考えてもみなよ。確かにすごい名誉なことではあるけどさ、この展開で、俺が足利家を継ぎでもしたら、“天下に野心がある”って宣言してるようなもんじゃん! そんなの絶対みんなから警戒されるし、ちょっとでも失敗したら袋叩きに遭うに決まってる。


 現状、名誉以上にリスクがある行為は避けたいところだね。



 と、言うことで、里見家から養子を出す話を潰し、まずは順当に乙若丸くんと氏姫ちゃんが結婚して、小弓公方家と古河公方家が統合されることになったんだ。これで足利成氏公以来の単独の関東公方の復活が現実の物として見えてきたよ。ただ、この婚約自体は何年も前から決まってたんで、『既定路線に戻っただけだ』って話かも……。


 ここで、後継者問題が決着したんで、後継者候補の双璧だった乙若丸くんと氏姫ちゃんは、松の方さん(俺の母ちゃん)に連れられて退席したよ。うん、おじさんたちが醜く罵り合う姿を見せるのは、純粋な少年少女の教育に悪いからね!



 さあ、後継者問題っていう壁を越えたから、すんなりいくかと思いきや、ここからがメッチャ長かった。庇護すべき対象がいなくなったからかもね(笑)


 まず、『誰が関東公方か』で揉めた。なにせ頼淳さんだけ現役公方。それに対して古河公方家の成人は誰もいない。それを考えると、頼淳さんが後見する形で乙若丸くん(息子)を関東公方にして、そこに氏姫ちゃんが嫁入りする形が、この時代の流れとしては自然だと思う。だけど、それじゃあ、小弓公方家が古河公方家を吸収合併する形になっちゃうんだよ。血筋で言えばどう考えても古河が本家だから、この路線じゃあ古河公方家としては納得できないよね。


 そんなこんなで、一頻ひとしきり揉めた後、決まったのは、以下の2点。


・義氏さんの喪が明けたら、乙若丸くんが婿養子に入り『古河公方家』の家督を継ぐ。

・『小弓公方家』の家督は、頼淳さんが隠居するときに乙若丸くんに譲る。


 これで、正式に関東公方家が1つになることが決まったんだ。



 これで終われば良かったんだけど、さらに、どこに御座所を置くかで、また揉めた。これがまた長いの! どっちも主導権を握りたいからって、古河か小弓か、双方の奉公衆同士が全く譲らないんだよ。


 いつまで経ってもらちが明かないんで、俺と義弘さんと氏忠さんで話し合った上で、『鎌倉』を提案、有無を言わさずそのまま押し切ったよ。


 ちなみに、両方とも3万石ぐらいずつ領地を持ってたんだけど、現在の所領は一括して里見家で管理し、毎年決まった額の手当を払うことにしたんだ。


 里見家うちとしては、飛び地が解消されるんで、領内開発が進められる。両公方家としては、領地を遠距離で管理する必要がなくなるし、仮に不作だろうが飢饉だろうが、安定して収入が得られる。北条家としては勢力圏内に関東公方家が居を構えることで、一定の名誉が得られるし、里見家からの手当は北条家経由で送るんで、こちらも手数料(中抜き)収入が得られる。3者Win-Win(?)の関係って言っても良いんじゃないかな?



 あと、話し合い中(揉めてる間)ずっと黙ってた簗田晴助さんだけど、正式に里見の与力になることが決まったんだ。晴助さんは、長いこと北条家と組んだ義氏さんと戦ってきたんで、家臣筆頭とは言え、帰参した後のここ数年は、義氏さんの下で随分肩身が狭い思いをしてたみたい。


 しかも、甲州征伐後に関東管領になった滝川一益さんからは、関東公方絡みの人たちは完全に無視されてたから、身の危険を感じたってのも理由としてあるかもしれないね。



 と、言うわけで、これをもって、やっと下総に残されてた空白地(?)が解消されたんだ。

 関東の懸案の一つが消えたんで、春からの奥羽征伐に心置きなく取り組めそうだよ。






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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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