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第176話 信義軍団の論功行賞

天正10年(1582年)12月 伊勢国 度会わたらい郡 田丸城



 皆さんこんにちは。梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。

 今日は伊勢での拠点に決めた田丸城に、主だった家臣を集めて論功行賞だよ。



 随分遅くないか、って?


 それは否定しないよ。でも、あくまで俺は陪臣なんだよね。義頼(義父)さんから預かってる関東の領地なら、ある程度自由が利くけど、伊勢・志摩・紀伊(こっち)の領地は、織田家から貰う予定だった領地だから、正式な裁定が出る前に見込みで論功行賞をするとか、勝手なことはできないんだよ。


 ま、結果としては、以前に信長さんが話してたとおり、紀伊全土の支配(※与力大名領・寺社領含む)が認められたんで、晴れて俺の家臣たちへの論功行賞をすることになったんだ。


 実は、感状や金銭、茶器・刀剣等での論功行賞は、ちょくちょくしてたんだけど、領地を含めた行賞は甲州征伐以降初めてになる。しかも途中で北上総と伊豆の領地替えもあったから、ドキドキしてる家臣も多いんじゃないかな?




「それでは、これより論功行賞を始める」




 揃った重臣たちに向かって、俺が宣言すると、すかさず側近の堀江頼忠(能登守)が後を引き取った。




「それでは、まずは加藤信景(伊賀守)殿」


「はっ!」




 まず最初に呼ぶのは加藤信景(加藤の爺)だよ。


 加藤のじいは、俺がチートで大暴れしてたこともあって、今生ではちょっと影が薄かったけど、ここぞという時に献身的な働きをしてくれるのに変わりはないんだ。何を隠そう明智討伐で俺が美濃に残った時、関東の兵の大半を率いて、栗林義長の先遣隊と合流したのがじいだ。だから、俺と違って野洲川合戦にもキッチリ参加して、武功を立ててる。


 こういう縁の下の力持ちをきちんと評価してあげないとね。




「甲州征伐、明智(惟任)討伐、紀州征伐のいずれにも参戦、特に野洲川合戦では、麾下の者が斎藤利三(内蔵助)を討ち取った。また、信義様(若様)不在の時は、良く留守を守るなど、その功は大きい。よって、信景殿には、現領に加えて、上総の内にて1万石を加増する」


「有り難き幸せ」


じい、色々と苦労をかけるが、今後もよろしく頼むぞ」


「はっ! ……それにしても、若様、50過ぎのじじいを捕まえて『今後も』とは。じじい遣いが荒過ぎますぞ。これでは当分隠居はできませぬな」


梅千代丸(私の子)が元服するぐらいまでは、元気に働いてもらわぬとな。なに、80近くまで当主を務めた土岐為頼(曾祖父)さまもいらっしゃる。じいとて、それぐらいはどうにでもなろう?」


「若様! 土岐為頼(弾正少弼)様を持ち出すのは卑怯ですぞ!!」


「ははは、実例が身近にあるのは有り難いぞ。曾祖父さまには、もっと長生きをしてもらわぬとな!」




 今回は内輪だけあって、論功行賞は、こんな感じで和やかに進んだよ。紀伊や伊勢で新たに取り立てた連中は、ビックリしたかもしれないね。



 ちなみに、鯨肉とか真珠とかの特産品や、鉄砲なんかの武器が中心だった、ここ数年とは違って、今回は加増される人が多かったんだ。領地自体が石高ベースで倍近くに増えてるんでね。


 加藤の爺だけじゃなく、正木堯盛(水軍大将)にも伊豆の賀茂郡(※東伊豆から南伊豆にかけての海岸一帯)を加増しといた。


 なにせ、俺の領地は、後見人になった徳川領も含めると、紀伊から上総まで、太平洋沿いの東西に長~く広がってる。中には安房⇔伊豆、三河⇔伊勢とか、陸地では繋がってない領地もあるんで、連絡には船は欠かせない。そんな観点からも、彼の役割は絶大なんだ。


 本当は伊豆一国を丸ごと与えるつもりだったんだけど、事前に打診したら「内陸を貰っても統治しきれないから結構です」って断られたんで、加増転封じゃなく、ただの加増になったって経緯がある。


 なにはともあれ、これからも海運の、水軍の要として、しっかり働いてもらわなきゃね。



 さっき「領地が増えた」って言ったけど、でも、土地は有限だから、当然金品による褒美の人もいる。例えば、一番大きいのは浄三師匠だ。師匠は今回に関しては、いろんな意味で(●●●●●●●)功績絶大なんだけど、これ以上領地は増やしづらい。


 浄三師匠の能力チートは唯一無二で、誰にも真似できない。だから、領地を子孫に引き継がせても同じ働きはできないんだ。まあ、優れた親の子がみんな優秀なわけじゃない。普通は、できないならできないなりに別の働き方もあるから良いはずなんだけど……。


 実はさ、後継者(嫡男)がね、武官としても文官としても箸にも棒にも引っかからないの。零細旗本クラスなら兎も角、まだ戦国も終わらないのに、大名クラスでは置いとけないんだ。


 そんなわけで、『相続』を念頭に置くと、これ以上師匠の領地を増やすのは二の足を踏んじゃうんだよね。



 だから、今回、師匠には茶器の『名物』を与えたんだ。なんと、これが大当たりで、メッチャ大喜びしてたよ。本人だけが喜んでるんなら、「良かったね!」で済むんだけど、周囲には明らかに羨ましげな目で見てる人たちが複数いたんだよ。


 まさか里見家ウチの連中まで茶の湯の魔力に毒されてるとは……。


 茶の湯ブームの浸透っぷりが凄まじいことが良くわかったよ。改めて『茶器に莫大な価値を与えた信長さんって凄い!』って思ったね。俺もマネしよっと!



 え、そんな名物どこで手に入れたんだ? メッチャ高かったんじゃないのか、って?


 いや、ごくごくリーズナブルに手に入った物だよ。


 ほら、俺はさ、明智討伐の時に坂本城や丹波亀山城に一番乗りしたじゃん? そうすると自然とね。そういうのが落ちてるわけよ。蔵とか、とことかにさ。


 で、落とし主も現れない(現れる見込みがない)んで、保護しといた(●●●●●●)んだ。


 あ、坂本城で拾ったヤツは、きちんと稲葉一鉄さんや斎藤利堯さんたちと山分けしたよ。俺は財産的な視点でしか価値を見出してないけど、多分コレクターでもある一鉄さんたちは、みんな大喜び。口々に、「今後何か困ったことがございましたら、何でもお申し付けくだされ」って言ってた。あんなに喜んでくれると俺も嬉しいよ。










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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[一言] 茶器と言えば、松永久秀の古天明平蜘蛛はやはり久秀の爆死で失われたのでしょうね。また信長の所有した多くの名物の中には曜変天目茶碗もあったそうですが、本能寺の変で焼失したそうですね。 一方、九十…
[一言] やはり茶器はお救いしないとね
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