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第174話 高野山との対話

天正10年(1582年)11月 紀伊国 伊都いと郡 九度山くどやま 慈尊院



 皆さんこんにちは。梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。


 あれから3か月弱経ったけど、おかげさまで、色々順調かな。

 奥羽の方も目聡い最上義光さんとか、大浦為信さん辺りは、早々にも本人が土浦に顔を出してるらしいよ。


 ちなみに、土浦に来る期限は『来春まで』ってことになってる。で、顔を出した人たちには『所領安堵』と、『一円支配』を認めてやる予定だよ。


 例えば、大浦為信さんは顔を出したから、この後、南部信直さんが土浦に来ても、独立勢力として田舎いなか郡、平鹿ひらか郡、鼻和はなわ郡辺りの支配を認めることになる。これによって大浦家は、南部家(元親分)の影響下から正式に独立することになるわけだ。


 でも、当然、逆もあり得る。仮に、この後、千徳政氏せんとくまさうじさんあたりが土浦にやってきたら、田舎郡の中でも浅瀬石あせいし一帯は千徳領として認められることになる。だからその一部分だけが、為信さんの領地から外れることになるんだ。



 他の大名の行動を邪魔すれば、総取りできるんじゃないか、って?


 当然、そんなのの対策はできてるよ。東北各地には風魔衆が大量に入り込んでて、他の大名の邪魔をするようなヤツが出ないか監視してるんだ。土浦に来るのを邪魔をしても、当主がいない隙に攻め込んでも、どっちも惣領無事令違反でアウトだよ。まあ、違反しても改易(取り潰し)にはしないけど、所領が半分になるぐらいは覚悟してもらわないとね。



 え、お前の自身の現状はどうなんだ、って?


 俺の方も順調だよ。なんたって、これから仕上げに入るところだからね。




里見信義(上総介)様、皆様おそろいです」


「うむ、すぐ向かう」




 俺は返事をすると広間に向かう。そこには織田信張さん、蜂屋頼隆さん、筒井順慶さんといった今回のいくさで与力をしてくれた諸将が勢揃いしてた。




織田信張(左兵衛佐)様、蜂屋頼隆(兵庫頭)殿、筒井順慶(権少僧都)殿、お待たせいたしました」


「なんのなんの、我らも先ほど来たばかりじゃ。それに、大将を待たせてしまう方が心苦しいわい。のう、頼隆(兵庫頭)?」


信張(左兵衛佐)様の仰るとおりにござる。やはり、大将はどっしりと構えていただかねば」


「有り難きお言葉。痛み入り申す」




 こんな遣り取りをしているところに、小姓がやってきて使者の来訪を告げる。


 そして、しばらくして広間に通されたのは、高野山の使僧たちだった。




南院宥全なんいんゆうぜんにござる」


遍照尊院快言へんしょうそんいんかいげんにござる」


木食応其もくじきおうごと申します」



「織田家の皆様に申し上げます!」


「宥全殿、何でござろう?」


「高野山は弘法大師様の開基にして日の本の安寧を司る霊場にござる。そのような聖地に兵を差し向け、これをおかさんとするは、如何なることにござろうか! そのような不心得者はきっと仏罰が下りましょうぞ!」




 高野山の使者である南院宥全さんは、皆が名乗りを上げると、すぐに織田家の非を打ち鳴らし始めた。


 でもねぇ、織田家の人たちは延暦寺とかで慣れてる(?)んだ。筒井順慶さんに至っては、元々興福寺の僧兵上がりで、それでも焼き討ちとかも平気でやってたはず。俺だって、最近、粉河寺こかわでらで経験しちゃった。だから、宥全さんの『ありがたい話(笑)』も、みんな冷笑を浮かべながら見てるだけだったよ。


 で、宥全さんの話が止まったんで、俺は逆に返してやったんだ。




「さて、世迷い言は良いとして、」


「なっ!」


「『日の本の安寧を司る霊場』である高野山が、訳もなく謀反を起こし世を乱した上、妻子まで捨てて逃げ出した大罪人、荒木村重を匿うたのは如何なることでござろう? しかも、捕縛のために向かった織田家の臣を惨殺いたすとは、『安寧』を求める道場の所業とはとても思えぬのですがな」


「当山に入った足軽どもが乱暴狼藉を働く故、処分いたしたまでのことにござる」



「それは異なことを仰るものだ。宥全殿は、故織田信長(総見院)様の『一銭切り』を御存知ないのですかな? 織田の足軽は一銭を盗んでも処刑される規律の厳しい中、御役目を担うております。その規律の厳しい織田家の兵が略奪を行ったなどとは、とても信じられませぬ。


 仮に乱暴狼藉があったとしても、捕らえて苦情を言えば良いだけのこと。それもなさらずに、いきなり処刑するのは、後ろ暗いところがあるようにしか思えませぬな」




 押し黙った、宥全さんの代わりに、今度は遍照尊院快言さんが続けて話し始めた。




「そもそも、我が高野山は、守護不入の地にござる。武家の者が捜査に入ることは、許されておりませぬ」


「で、それはどなたがお決めになったのですかな?」


「…………足利尊氏公にござる」


「流石にご存知でしたか。てっきり私は知らずにお話しされているものとばかり……。


 で、その尊氏公の御子孫は、今どちらにいらっしゃいましたかな?」



「……………………」


「足利家が『公儀』でなくなった以上、織田家(我々)がそれを守る謂われがございますか?

 それとも、高野山では織田家ではなく足利義昭公を公儀と認めていらっしゃるのですかな? ……と、なると、こちらが取らねばならぬ対応もだいぶ変わってくるのですが」



「い、いや、そのようなことは……」




 鋭い目で快言さんを睨むと、途端にしどろもどろになって、黙っちゃった。だから、俺からは、最後にもう一言、放っておいたんだ。




「ところで、宥全殿、快言殿、応其殿。聞くところによれば、高野山では、信長様を呪う祈りをなされていたとか。また、信長公が弑された折には、祝賀の行事もなされたと漏れ聞いております。


 と、言うことは、つまり、高野山は謀反人の明智光秀(惟任日向守)が一味であると考えてよろしいのですな?」




 3人ともこれを聞いて真っ青になったよ。まあ、ここ数か月でやってきたことが事だけに、それも仕方ないかな。









※田舎郡は本当にあった郡です。江戸時代に津軽郡に統合されて消滅しましたが、現在でも田舎館いなかだて村(※田圃アートで有名)っていう村が存在します。

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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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