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第173話 奥羽仕置きの意味

天正10年(1582年) 8月 常陸国 新治郡 土浦城



 皆さんこんにちは。梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。


 結局、ほとんど意見の出ないまま、重臣会議は終わったよ。これまでに無い発想の内容が多かったから、宿老たちは『難儀なこと』ぐらいで流しちゃってた。でも、これ、結構今後のキーとなる布告が多かったはずなんだけどね。


 みんなは何をしたかったかは分かったよね?


 そう、参勤交代と惣領無事令、刀狩りと検地、関所の廃止に寺社の非武装化だよ。



 関所の廃止と寺社の非武装化は信長さんの路線の継承だけど、他は秀吉さんや家康さんの政策を先取りさせてもらったんだ。


 初めての取組になる話も多かったんで、義弘さんへの事前説明には特に骨が折れたけど、そこで効果や意味合いまで含めて、しっかりと内容を練り直せたから、宿老たちも納得できたのかもしれないね。




 具体的には、まず、『惣領無事令』で各大名の勢力を確定させる。そして、里見家(親分)の許可無く勝手に戦うことの無い体制を確立するんだ。


 当たり前だけど、部下が勝手に、そこいら中にいくさをふっかけ回るのは、トップの権威が足りないからだ。既に奥羽では、里見を盟主としていない連中が束になってかかってきても、勝てるだけの軍事力はあるんで、硬軟両面から圧力を加えながら、各大名の領地を確定させていくよ。



 誤魔化すヤツが出るんじゃないか、って?


 当然それは織り込み済みだよ。そんな小狡い連中に対応するために、甲州征伐終了後、すぐに風魔衆を大量に送り込んで、各勢力の調査をさせてるんだ。ちなみに、国境くにざかいは、この秋を基準にして確定する予定だよ。戦の勝ち負けで多少変化はあるだろうけど、そこは里見家こっちで裁定だね。絶対不満は出るだろうけど、そんな場合は抵抗してもらっても構わないかな? 真壁氏幹(兄弟子)さんとか、武闘派の家臣たちは、きっと喜んでくれるんで、逆に有り難いかもしれないね。




 国境くにざかいを確定させたら、次は『検地』。検地で大名ごとの領地の規模を把握するんだ。


 領地の収量に合わせて家格を決めて、動員兵力や参勤交代の規模、貰える官位や持ち城の数なんかも確定させる。



 それからもう一つ、土地の支配者を確定させるってのも忘れちゃいけない。


 これまでの名主みょうしゅ的な地侍は、農民と密接に結びついてるんで、不満が溜まると大規模な国一揆なんかを起こすことも多かったんだ。彼らを各大名の勢力下に完全に組み込むか、武士の身分を放棄させて帰農させる。さらに刀狩りと併せることで、一揆が動乱化して、広い地域が不安定化することが避けられるはず。



 ちなみに検地は、最初は指出検地(さしだしけんち)で、自己申告させる予定だよ。『大名家の格を決める』って言えば、連中、きっと見栄を張って多めに申告してくると思うんだよ。連中の申告してきた値に従って、参勤交代の参加者数を増やしてやったり、兵役や手伝い普請をさせてやるから、見栄張みえっぱりほど、より力が削られる効果があるんだよね(笑) だから、頭の悪いやつほど早くいなくなる(●●●●●)んじゃないかな?




『刀狩』は分かりきってると思うけど、武士と農民の地位を確定させて、一揆=武装蜂起って、室町以前から続く悪しき伝統を断ち切るんだ。


 秀吉さんは『大仏を作る』って名目で金属を回収したけど、この口実は真似させてもらおうかな?



 本当に作るつもりか、って?


 良いんだよ。実際には作れなくとも。製鉄所に運んで鋳潰しちゃえば何になるかは分かんないんだからさ。


 多分「焼けた大仏様の再建の材料に」って、東大寺に青銅でも寄進しとけば、言い訳は立つでしょ。


 人質を取るのは当然だけど、『参勤交代』は毎回するだけで疲弊するからね。なぜって、その大名に似合っただけの人員を引き連れて街道を往き来しなきゃいけないからだよ。毎年コレをやらせれば、徐々に逆らう体力は無くなるでしょ。オマケに街道整備もさせられるし、来れば土浦でカネを落としてくれるはずだから、領内も栄えて俺らにとっては『言うことなし!』なんだよね。早く始まんないかな? 参勤交代。



 それから、関所の廃止や寺社の非武装化なんかも、大名たち自身の手でやらせるよ。



 里見の要求に従うことができる大名家はそのまま残し、従うことができない大名家は、力を削る。この辺は今までの流れと一緒だよ。



 取り潰さないのか、って?


 前にも言った気がするけど、関東や東北の大名家はね、下手すると数百年の時をかけて土着してきたから、地域性が強すぎるんだよ。いきなり改易する(取り潰す)と、地下に潜るし、(当主)を潰しても遠い親戚が現れるとか、プラナリア並みにしぶとい。だから、いきなりの改易は悪手なんだ。


 だから、潰す場合も、徐々に勢力を削ぎ、先祖代々の土地から転封(引き剥が)してからじゃないとキツいんだよね。で、今回もその作戦を採る予定。


 あ、東北地方の場合、各勢力の血縁が網の目のように繋がってるんで、現在のトップを放逐して、里見家に従順な大名から養子を貰ってくる作戦もアリだよ。




 こんな感じで、この秋から奥羽の平定に取りかかるんだ。産みの苦しみは大きいけど、達成すれば間違いなく奥羽(東北地方)は安定するはず。


 その『産みの苦しみ』の間に反乱や蜂起が起こるって事は、重臣たちもみんな織り込み済み。って言うか、それを待ち望んでる人たちがいっぱいいるんだけどね(笑)


 とにかく、この3年ぐらいの間に、奥羽を完全に里見の支配下に収めて、中央で何が起こっても即応できる体制を作ってもらわないといけない。


 本当だったら俺が先頭に立って進めたかった政策だけど、俺自身は何よりも先に紀伊をどうにかしないといけない。なるべく早めにカタを付けて戻るつもりではあるけど、紀伊も難儀だからね。それに徳川家の後見もあるし……。


 この通り、相変わらずのハードモードではあるけど、そこそこ人も増えてきたんで、先行きが見えてきたのは大きいよ。


 さてと、俺も、もうひと頑張りしてきますかね。






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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
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