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第171話 小田原征伐後の東国 ※地図あり

※後書きに地図を載せました。

天正10年(1582年) 8月 常陸国 新治郡 土浦城



 皆さんこんにちは。梅王丸改め 里見上総介信義こと酒井政明です。


 おかげさまで、鶴さんも戻って、仲良く(●●●)してたら、あっという間に時が過ぎちゃった(笑) ちょっと複雑だけど、第2子誕生も近いかもね。



 しばらくセーブするんじゃなかったのか、って?


 そうなんだけどさ、あの状況で断れると思う? もし、夫婦仲を崩壊させずに断りを入れられるヤツがいるなら教えてほしいよ!


 で、鶴さんはもっと仲良くしたかったみたいだけど、土浦での会議の日取りが決まってたんで、やっと解放されたんだ。



 どんな会議をするのか、って?


 うん、やっと関東周辺が落ち着いたんで、今後の里見家の方針について話し合うんだよ。



 あ、ちなみにどんな風に落ち着いたかなんだけど、北条領の分割は滝川一益さんと事前に話し合ったとおりになったよ。


 まず、武蔵の北部、あ、現代で言うと埼玉県の中部から北部あたりね。ここは滝川一益さんと、その与力武将に分け与えられた。この地域は、北条氏邦さんとか氏照さんの領地が結構多かったんで、手柄のあった上野こうづけの武将たちにも、たくさん褒美をあげられたって、一益さんも喜んでたよ。おかげで、内藤さんとか真田さんとかの旧武田家臣もすっかり一益さんに懐いちゃったみたい。人財が常に払底気味の里見家(ウチ)からすると羨ましい限りだよ。


 もし上野が史実通りに乱れたら、思いっきり手を突っ込む予定だったんだけど……。こうなっちゃあ仕方が無い。


 うーん、なかなかままならないもんだね。



 それから、武蔵の東部は、太田資正さん、太田康資さん、成田氏長さんたちが独立して、滝川家の与力になった。実は彼らは『里見家の与力に』って話もあったんだけど、義頼さんが断ったんだ。「当家は武蔵(利根川以西)には興味がございません」ってね。


 まあ、正直なところ、彼らが与力に付いても、里見(こっち)が自由になる領地が増えるわけじゃない。それに、名目上でも領地が広がれば、周囲の勢力の警戒が増して、後々軋轢の元になりかねないからね。



 あ、でも、下野の佐野家は、与力にしてもらったよ。これは『佐野家は北条の与力だったけど、下野は元々里見の勢力範囲という約束だったから』って名目ね。


 でも、わざわざそれを望んだのには、当然、裏の意味があってさ。実は佐野の辺りでは良い耐火物が採れるんだよ。耐火物は製鉄とか製陶とか色々な産業で必要になるからね。


 これまでも、佐野宗綱さんにお願いして売ってもらってたけど、これで北条家(親分)を気にせずに堂々と交渉できるようになるんで、助かるよ。


 そうそう、佐野領と言えば、まだ発見されてない足尾銅山(宝の山)もあるんだけど、こっちの情報は、まだ秘匿中。


 なぜかって?


 不用意に開発しちゃうと、鉱毒事件が発生しかねないからだよ。なにせ、渡良瀬川の下流域は、ほぼ里見領の下総葛飾(かつしか)郡だからね。鉱毒が出ても海にすぐ流れちゃう日立銅山と違って、足尾鉱山の下流は30万石近い穀倉地帯を抱えてるんだ。それが壊滅するのは流石に避けたい。


 それに、耐火物は里見家うちしか販売先がないから、全部買ってあげられる(買い叩ける)けど、銅は誰だって欲しがるよね? 下手に開発すると、金蔓を握った佐野家が増長しかねないんだ。佐野家が自由に転封させられる直臣だったら良かったんだけど、あくまで与力だからね。里見家うちは、売ってもらう立場になる分、ちょっと立場が弱いんだよね。



 ちょっと脱線しちゃった。どうしても鉱山(収入源)の話になるとエキサイトしちゃうな。


 話を戻そう。甲斐の都留つる郡は武田家が、駿河の駿東郡と富士郡は徳川家が、事前の話し合い通りもらうことになった。ついでに言うと、駿河では、酒井忠次の領地だった庵原あんばら郡も徳川領に移行してるんで、駿河は、ほぼ徳川領になった感じかな。



 え、全部じゃないのか、って?


 うん。江尻湊を含む有度うど郡は里見領のままだよ。下手に渡しちゃうと、「相良さがら領もよこせ!」って運動が始まりかねないからね。相良の原油は唯一無二だから、そう簡単には渡せないよ。


 まあ、有度郡に関しては、竹千代君が成人する時に御祝儀として、あげちゃってもいいかな? って思ってるんだけどね。



 そして、今回のいくさで里見家が貰ったのは、伊豆なんだ。


 武蔵が22郡以上、石高に直せば60~100万石ぐらいあるのに、伊豆は3郡、10万石あるかないか。だから滝川さんたちには『里見はずいぶん遠慮してるな』って思われたみたい。おかげで北条一門の助命とか後継者の人選とか、ずいぶんと里見こっちの言い分を聞いてもらえたんで、助かったよ。



 でもね、石高こそ少ないけど、実は、伊豆は宝の山なんだよ。


 西伊豆には無尽蔵の珪石鉱山があるから、ガラス器が作り放題。

 木材も豊富で、港に適した小湾がたっくさんあるから、軍港もドックも作り放題。

 その上、土肥金山とか、未発見で優良な金山も眠ってる。


 ね、かなり美味しそうだろ?


 その伊豆は、全域が俺の領地になることが決まってる。代わりに上総の北部は義頼さんに返すんだけどね。


 ちなみに、伊豆と北上総を比較すると石高的な収支はマイナスになる。でも、産物的な面で考えれば、絶対伊豆こっちの方が儲かる。それに、俺には伊勢の新領地も加増されてるから、家臣の俸禄とかの面でも困ることはないんだ。




 最後に。残った相模と武蔵の南部、今で言うと埼玉県南西部と、東京のほとんど、神奈川県全域を、北条氏光さんが継承することになったんだ。



 北条氏光って誰だ、って?


 うん、聞き慣れないのも当然だね、直前まで蘆名氏光って名乗ってんだからさ。



 伊王野合戦の後で蘆名家の養子に入った氏光さんだけど、奥羽の責任者になった義頼さんと連携して、蘆名家の家臣団をまとめながら、無難に領地運営をしてたんだ。


 今回の本能寺の変に際しても、信長さんの死に動揺せず、新発田重家さんの援軍として越後に出兵した。その後は、伊達輝宗さんや土岐頼春たちと共同で、揚北あがきた衆を調略。その上で、去る6月29日に信濃川河畔において上杉景勝さんとの決戦に及び、見事勝利を収めたんだ。


 柴田勝家さんの北陸侵攻が頓挫してたし、我々はあくまでも手伝い戦だったんで、上杉軍を撃退しただけで深追いはせずに戻ってきた。だけど、岩船郡全域と蒲原かんばら郡の大半を上杉領から切り離したんだから、共同作戦とは言えその功は大きい。


 しかも、どさくさに紛れて織田家に反抗した北条宗家と違って、一貫して織田寄りの行動を取ってたんで、同盟者としての資格も十分だ。ってなわけで、里見うちが推薦し、滝川一益さんから本人に依頼がなされ、晴れて北条家を相続することになったんだ。



 蘆名家はどうなるんだ、って?


 義頼さんの長男の千寿丸が、先代当主の蘆名盛氏さんの孫、『せんみつ姫』と結婚して継ぐことになったよ。氏光さんの場合は夫婦養子だったけど、千寿丸は婿養子になるから、蘆名家臣団にとっては、こっちの方が都合が良いんじゃないかな?


 ちなみに、千寿丸は正木大膳家を継いでたんだけど、そっちは義頼さんの次男 万寿丸に譲ることになった。母親で正木時茂さんの娘にあたる龍の方(義母)さんも文句はなかった、って言うか大喜びだったよ。なにせ、正木大膳家の領地は10万石そこそこだけど、蘆名領は30万石ぐらいあるんだもん。それが自分の息子の領地になる上、部屋住み予定の次男まで実家を継承させられるんだ。普通は喜ぶよね。



 ちなみに、もし氏光さんが断ってたら、なんと梅千代丸(俺の息子)が継ぐことになってた。こうなったらメッチャ美味しいんだけど、あんまり美味しすぎると、余所よそから睨まれちゃう。この程度で抑えておくのが無難だろうね。




 こんな感じで関東の再分割は済んで、俺らは本業(●●)に戻ることになる。そのための大切な話し合いが、今、始まるよ。









1582年9月頃の東国の勢力図

挿絵(By みてみん)

※便宜的に色分けしていますが、上杉以外の色の付いている部分は、里見領を含め全て織田家の勢力範囲と認識されています。

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こちらは前作です。義重さんの奮闘をご覧になりたい方に↓ ※史実エンドなのでスカッとはしません。
ナンソウサトミハッケンデン
― 新着の感想 ―
[良い点] 家族仲良くは何よりです。 [気になる点] 信濃国はほぼ徳川の勢力範囲ですが鬼武蔵さん達織田家臣はどうなったんですか? [一言] 167話の感想で東北を北部、南部で分けましたが今回の勢力図…
[一言] 後書きの地図ですが、以前「※関東中央部の空白は足利公方家、簗田家、小山家、結城家といった、里見と同盟を組んでるけど臣従はしていない勢力の支配地です。」という説明がありましたが、利根川や渡良瀬…
[一言] 皆さんなろう歴史物語を書く人達はコンクリートや製鉄とか作る時に、わざわざ鹿児島シラス台地やら中部地方の山から苦労して採掘したり貝殻ちまちま採取してますが、奥多摩に世界有数の「真っ白」なカオリ…
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